第35話特撮のヴァンパイア・シナリオ

「よっしゃ、それじゃあ、オペレーターちゃんとベンシちゃんに当てていくナレーションとセリフを考えていくで。はい、まずは空を飛んでいるヴァンパイアのシーンでベンシちゃんがヴァンパイアの鳴き声や」


「ヴァーンパーイアーーー」


「ええで、ベンシちゃん。雰囲気たっぷりや」


 前回の鳴き声が『ゴースト』で、今回が『ヴァンパイア』かモンスターの種族名だけで、よくもまああれだけ感情を表現できるものだな。


「そして、子供が遊んでいるシーンにオペレーターちゃんのナレーションや」


「ここは公園。のどかな光景です。一人の子供が遊んでおります。実に平和です。モンスターの軍勢と人間が戦っているなんて、考えられないようです。おや、影が出てきました。それも、あたり一面が急速に影に覆われていきます」


「わ、おっきなモンスター」


「子役の嬢ちゃん、ええで。そのタイミングや。本番でも頼むで。はい、ここでCMや。前半がちょい短い気もするけどしゃあないわ。なにせ生放送やからな。細かいこと言ってられへん」


 スタッフさんが大急ぎで台を持ってきて、スーツアクターさんを寝っ転がせた。スーツアクターさんが急いでピアノ線を外して、街のセットの塔の後ろの踏み台に立った。


「時間は……45秒やな。スポンサーから1分をCMに使ってくれ言われとるから十分間に合うで。本番もその調子やで、スーツアクターちゃん」


「わかりました、ツブラヤ先生」


「塔の後ろで中腰になっていくスーツアクターちゃん。画面ではヴァンパイアがゆっくり飛びながら降下しとるように見える。そこをオペレーターちゃんがナレーションや」


「巨大な影を作り出した正体は、巨大なヴァンパイアでした。塔と比較すればその大きさがよくわかります。その巨大なヴァンパイアが、今まさにゆっくりと羽ばたきながら高度を下げていきます」


「そこで、ベンシちゃんの鳴き声や。その直後に煙幕いれて、コウモリへの分身やからな。きばって言ってや」


「ヴァンパイアーーー!」


 わ、コウモリ担当の操演スタッフさんが何匹ものコウモリを飛ばせてる。こうして見ると上下逆さまだから変な感じだけれど、リハーサル用のテレビで見ると……これは、本当にコウモリが飛んでいるように見える。


「コウモリの飛行シーンの後に、人間がコウモリに襲われとるシーンや。しっかりコウモリに襲われとるように見せるんやで。そこにオペレーターちゃんのナレーションや」


「あああ、なんということなのでしょうか。巨大ヴァンパイアがたくさんのコウモリに分裂しました。そのコウモリが人を襲っています。巨大ヴァンパイアが変身した無数のコウモリは一体一体が人間サイズ。そのコウモリが人間を襲っています」


「そこで、塔の後ろのスーツアクターちゃんがテレビに映る。たくさんのコウモリが人間の血液をたっぷり吸って、また巨大ヴァンパイアに戻る。不敵に笑ったかと思ったら、何かに気づく。そこをベンシちゃん」


「ヴァンパイアッッッ!!!……ヴァンパイア?」


 ベンシさんのセリフもだけど、スーツアクターさんの表情もくるくる変わっていい感じだなあ。モンスターって言っても、人間の女の子に翼やらツノやら尻尾やらが生えてるだけだし。顔はほぼスーツアクターさんの地顔なんだよね。メイクはされてるけど。スーツアクターさん、パントマイムやってただけあって、顔芸も上手いなあ。


「そこで、街の住民がたいまつを持って走り回るシーン。オペレーターちゃん、ナレーション」


「おや、街の住民がたいまつを持ってどこかに集合しようとしています。どこへいくのでしょうか。避難所でしょうか」


「そして、街の十字路に光の十字架ができる。それを見てヴァンパイアが悲鳴をあげる。そしてナレーションや」


「ヴァンパイア!!!」


「これは、住民が街の十字路でたいまつを照らすことで、巨大な光の十字架を作りだしました。これには巨大ヴァンパイアもひとたまりもありません。人間の勝利です」


 オペレーターさんもベンシさんもいい感じ!


「ラストシーンや。煙幕が上がったと思ったら、人間サイズでうなだれるヴァンパイア。そのヴァンパイアをあたたかく迎える街の住民。ベンシちゃんのセリフにオペレーターちゃんのナレーションでしまいや」


「ヴァンパイア〜〜〜」


「おっと、光の十字架で巨大ヴァンパイアが人間サイズになってしまったようです。ヴァンパイア、しょんぼりしております。ヴァンパイア、いったいどうなってしまうのでしょうか。おや、街の住民ががっくりしているヴァンパイアをなぐさめております。中には、『俺の血を吸うかい? ちょっとだけならいいぜ。そのかわり、あのコウモリへの分身もう一度見せてくれよ。でも、またでかくなるのは勘弁な』なんて言っている住民もいます。良かった。ここには復讐が復讐を生み出す悲しい運命の連鎖はありませんでした」

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