第34話特撮のヴァンパイア・稽古
「で、今回のストーリーやな。おーい、スーツアクターちゃんこっち来いな。お嬢ちゃんやオペレーターちゃんにベンシちゃんと話を作っていくで」
「わかりました、ツブラヤ先生」
あ、スーツアクターさんだ。今回はヴァンパイアさんの格好してる。牙の入れ歯して、背中から翼生やして、なんとなく黒っぽい格好してる。
「スーツアクターちゃん。逆さまになって逆さまのカメラに映って、ちゃんと上下の方向で飛んどるようにテレビに映るようになれたか」
「はい、ツブラヤ先生。リハーサル用のテレビに映ったわたしを、それはもう『なんだその背筋は、スーツアクター。お前は、今、背中の方向にじゃなくて、お腹の方向から重力を受けているんだぞ』とビシビシしごかれまして、いい飛び方になったみたいです。わたしの翼を担当してくださる操演の方とも息があってきました」
スーツアクターさんも逆さまになって逆さまのカメラに撮影されるんだ。どんなふうに気をつければいいのか想像もつかないな。翼を動かす人って『操演』って言うんだ。
「どや、お嬢ちゃん。あそこに逆さまのミニチュアの街があるやろ。で、その上に足場を組んである。あそこからヴァンパイアの格好させたスーツアクターちゃんを上下逆さまにぶら下げて、上下逆さまのカメラで撮影してやな、街の上を飛んどる巨大ヴァンパイアの特撮を作るんや。さすがにたくさんのコウモリやと、街のサイズも人間サイズのコウモリに合わせんといかんし、何体ものコウモリぶら下げるスタッフが大勢おると、逆さまの街のセットがおっこちてしまうっちゅうことで、たくさんのコウモリのシーンは街を写すわけにはいかんけどな」
本当だ。上下が逆になったミニチュアの街のセットがある。
「絵をバックにしても、どうしても『背景が絵じゃん』って見るもんにはわかってしまうんやな。せやからミニチュアの街のセットや。見てみい。あそこにおるあのセットを作り上げたスタッフを。見上げる姿勢でセットを作ったもんやから、腰痛とムチウチで悲鳴あげとるんや。あのスタッフの心意気に負けへん話を考えるんやで」
うわ、スタッフさんが腰や首に氷を当ててる。
「おっと、お嬢ちゃんは回復魔法が使えるらしいが、今は話作りに専念してえな。なにせ、生放送の放送時間がもうすぐやさかいな」
回復魔法の時間もないのか。大変だあ。
「で、あっちに前のゴーストの撮影で使った街のセットがある。前回は凹の引っ込んだ部分からゴースト役のスーツアクターちゃんに這い出てもろたが、今回はその部分に高い塔を建てた。その後ろに一段高い踏み台が作ってある。そこにヴァンパイア役のスーツアクターちゃんに立ってもらうことで飛んどるように見せるんやな。もちろん翼は操演に動かしてもらうで」
ほんとだ。塔の後ろに踏み台がある。で、そこに立ったスーツアクターさんを逆方向からカメラで映せば塔の近くをヴァンパイアさんが飛んでるように見せられるのか。
「よっしゃ。それじゃ、話の筋を最初から言うで。まず、巨大なヴァンパイアが空を飛んでいるシーン。ここは、まだ街のセットは映さへんでいいから、ピアノ線を少し長めにして、カメラで下の方を映すんや。そして、次にそこの公園のセットで子供達が遊んどると、あたりが暗くなる。それも徐々にやなくて、光と陰の境目がピューって進んでくんや。このシーンは、照明のすぐ近くで影用の障害物を差し込んで行くことによって撮る。照明、さっきわしが説明した通りにやってえな」
あ、照明の明かりのすぐ下で、日食みたいに障害物が光を邪魔してる。なるほど、これで、空を何か大きなものが飛んで、そのせいで大きな影ができたように見せられるのか。
「そして、子供が不思議がって上を向き、『わ、おっきなモンスター』と言う。そこのちっこい嬢ちゃん。言ってみい」
いつのまにか小さな女の子がいる。ツブラヤさんの言った通りのセリフを言い出した。
「わ、おっきなモンスター」
「ええで、名演技や。そして、ヴァンパイアが街のすぐ上を飛ぶ。スーツアクターちゃんを少し上に引っ張り上げる。カメラがそれを追う。街のセットが画面の下に映り込む。逃げ回る街の人々。ここでCMや。その間にスーツアクターちゃんがピアノ線を外し、塔の後ろの踏み台に立つ。スポンサーがようけ付いたで、時間はたっぷりとあるで。あわてず確実にやってえな、スーツアクターちゃん。腰から下を塔で隠れるようにして、下半身だけを中腰にすることで、上半身だけ画面に映っとるヴァンパイアが飛びながら高度を下げとるように見せるんや。できるな、スーツアクターちゃん」
「はい、ツブラヤ先生」
「よっしゃ。そして、煙幕を張る。カメラを2カメに切り替えてコウモリを映す。これで、ヴァンパイアがコウモリに変身したように見える。空を飛ぶコウモリ。3カメで、コウモリとくんずほぐれつする人間。そしてまた煙幕。1カメに戻る。塔の後ろで高笑いするヴァンパイア。さあ、ここから……」
ここからどうなるんだろう?
「街の人間がたいまつを持って、中心の十字路に集合や。これで、街に光の十字架ができる。ヴァンパイア、これはたまらずひるむ。また煙幕。そして、街の人によしよしされるヴァンパイア、つまりスーツアクターちゃんやな。光の十字架にたまらず人間サイズになっちまったっちゅうわけや。テヅカがああいう路線で行くのなら、受けて立つで。そして、スーツアクターちゃんがヴァンパイアの格好して、遊園地で子供達とファンサービスや。こんなもん、アニメキャラクターではできへんやろ。これからいそがしゅうなるで、スーツアクターちゃん」
「顔出しで売れなかったわたしがいそがしくなるなんて……信じられません、ツブラヤ先生」
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