第32話ドキュメンタリーのヴァンパイア・反応

「いやあ、ユウシャさん。ヴァンパイアさんのドキュメンタリー、すごかったねえ。前回のゴーストさんのドキュメンタリーも良かったけど、今回のヴァンパイアさんのも負けず劣らずすごかったよ」


 またベンチャーさんに番組放送後に呼び出されちゃった。今回のヴァンパイアさんのドキュメンタリーも気に入ってくれたみたい。


「前半の、子供に転ばれちゃって当惑するヴァンパイアさんの人間らしさが良かったね。そのヴァンパイアさんに、自分の娘を見守っていた母親が頭を下げるなんていいシーンじゃないか。あの娘さんと母親もモンスターさんなの?」


「そうですよ。娘役がコロボックルさんで、母親役がエルフさんです」


「そうかあ、モンスターさんだなんてちっとも思わなかったよ。そして、後半、ヴァンパイアさんが母親と娘さんを出会った場所で待ち構えて、何をするのかと思えば、突然何匹ものコウモリに変身して、畑の害虫を食べちゃうところも良かったね。血をいただいた娘さんへの恩返しなんて、モンスターさんにもそういう心の機微があるんだなって実感しちゃったよ」


 あのシーンはベンシさんがヴァンパイアさんを義理堅く表現してたな。スタジオで見てるあたしまでなにか込み上げてきそうになっちゃった。


「で、小さく分裂した一匹一匹のコウモリが一軒一軒の家に手紙を届けに行って、お礼にちょっとだけ血を吸わせてもらうシーンも良かったね。お母さんが血を吸われて、『逆に悪い血を吸われて健康になっちゃった』なんてベンシさんの活弁が入るんだもん。思わず笑っちゃったよ。わたしも今度少しだけ血を吸ってもらおうかな」


「その、あのシーンを見てヴァンパイアさんに血を吸われに行って貧血になって倒れる人とかいませんかねえ。コウモリさんがちょこっと吸うくらいならだいじょうぶでも、野生のヴァンパイアに血を吸われるとなるとそういうことも起こりえるんじゃないですか、ベンチャーさん」


「そりゃあ、そんなおバカさんも中にはいるかもしれないけどね……そんなの気にしてたらいい番組は作れないよ。いちいち映像の下に『個人の感想であり、効果には個人差があります。用量を守ってただしくお使いください』なんてテロップを入れろっていうのかい? 前回の巨大ゴーストさん出現騒動だって、結局は『あんなものを本気にする方がバカなんだ。それを大声でテレビ局に文句言うなんて、自分はバカでございと大声で言っているようなものだよ。恥ずかしくないのかね』なんて意見が大半だったじゃないか。表現の自由ってものがあるんだから」


「そういうものですかねえ、ベンチャーさん」


「少なくとも、一握りの声の大きい人をいちいち相手にしてたらテレビなんてやってられないってことさ。で、そういう人の相手をするのはユウシャさんのような現場の人じゃなくてわたしのような人だね。ユウシャさんは遠慮なく作りたいものを作ってくれればいい」


 ベンチャーさんがそう言うのなら、頑張ってみようかな。


「現場の人と言えばね、ツブラヤさんにテヅカさんもあのドキュメンタリーを見て相当イマジネーションを刺激されたみたいだよ」


「ツブラヤさんにテヅカさんがですか?」


「そう、ツブラヤさんは『ベンチャー社長、人手を増やしてくれ。あんなもん見せられては負けてられへん。それには人手がいる。金ならあるさかい頼みますわ。なにせ、あの巨大ゴースト騒動でわしの特撮は知名度が抜群になったからな。悪名かも知れへんがそれでもスポンサーがようけつくことには変わらへん。せやから人手を頼みますわ』なんてね。いやあ、どんな特撮を今度は作るんだろうね」


 ツブラヤさんがそんなことを。これは今度の現場も大変なものになりそうだな。


「テヅカさんは『ベンチャー社長、放送時間をもっとくれませんか。お金ならどうとでもなりますよ。私がもっと漫画を描いて売ればいいんです。なにせ、アイデアはそれこそ売るほどありますからね。あんな番組よりすごいものを描いてみせます。ですから、もっとアニメに枠をください』なんて。ツブラヤさんが質の向上に行ったと思ったら、テヅカさんは量の増加に行っちゃううだから、あの二人もどっちもどっちだね」


 テヅカさん、もっと漫画を描いちゃうのか。よくアイデアが尽きないな。どんな発想力してるんだろう。


「と言うわけで、ツブラヤさんにテヅカさんの二人が非常にハッスルしちゃってね。またすぐにユウシャさんにオペレーターさん、そしてベンシさんにお声がかかるんじゃないかな。すっかり人気者になっちゃったね。ユウシャさんたち三人の顔はわからなくても、声になら誰もが聞き覚えがある、なんてことになっちゃったりしてね。そのうちコンサートなんて開くようになっちゃうかも」


「いくらなんでもそんなことにはならないですよ」


 特撮やアニメに声を当てている顔出しでないあたしに人気が出るわけないよ。

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