第28話奴隷のゴースト

 ふう、やれやれ。ツブラヤさんの特撮とテヅカさんのアニメでのゴースト番組はどっちもすごい反応だったな。あんな番組が流れたら、人間とゴーストも少しは仲良くなれるのかも……あれ、向こうでうずくまっているのはゴーストさんじゃあ。でも、モンスターマスターちゃんの仲間のゴーストさんじゃあないみたいだけど……どうしたのかな。なんだかおびえているみたいだけれど。


「あの、どうかされましたか?」


「ひっ、どうかお許しを。あれだけの重労働、わたしには耐えられません。勘弁してください。もとの住処に帰してください」


 このゴーストさん、人間であるあたしをすごく怖がってるみたい。


「お、落ち着いて下さい。あたし、何もしませんよ。そうだ、ゴーレムさんから何か言ってください。モンスターどうし話せばわかってくれると思うんです」


「わかりました、ユウシャさん。あの、ゴーストさん。このユウシャさんはあなたを倒したりはしませんよ。あなたと同じモンスターである自分が保証します。ですから、よければ事情を説明してくれませんか」


 あ、ゴーストさんが落ち着いたみたい。同じモンスターのゴーレムさんに話しかけられてほっとしたのかな。


「に、人間とモンスターのゴーレムがいっしょに? そんなことがあるはずが……」


「ほかの人間はどうか知りませんが、このユウシャさんはモンスターの自分が信頼している人間です。もしよければですが、何があったかを教えていただけるとありがたいのですが」


 ゴーレムさんになだめられてゴーストさんが話し始めた。ゴーレムさんが一緒にいてくれてよかった。


「その、わたしが人里離れたところでのんびり暮らしていたら、どこからともなくやってきた人間に捕まえられて、人間の町に連れてこられたんです。そして、人間相手に変なポーズをとらされたり、妙な格好をさせられたり。もう、寝る間もないくらい働かされて……わたし、やっとの思いで逃げて来たんです」


 このゴーストさんは人間に捕まえられて強制労働させられてたんだ。そうか、ツブラヤさんの特撮やテヅカさんのアニメでモンスターのゴーストさんを人間がそういう対象として見るようになっちゃったから……野生のゴーストが人間に奴隷として売られる事態が増えちゃったんだ。これからもこういうことが起こっていくかも。


「お願いします。あたし、もうあんな奴隷扱いはまっぴらです。仲間のモンスターがいるところに帰りたいです」


 そうかあ。いままであたしはモンスターを退治してきたけれど……モンスターさんにもモンスターさんの事情があるんだし……


「お、こんなところにいたぜ。逃げ出すとはふてえゴーストだ。俺たちがモンスターであるてめえを殺さずに奴隷として生かさせてやってるんだから、感謝されこそすれ逃げ出される覚えはねえぜ。てめえには高い金払ったんだからな。しっかりたのしまさせてもらうぜ」


 わ、誰か来た。話からすると、このゴーストさんを奴隷として買った人間みたい。ど、どうしよう。同じ人間なんだから戦うわけにもいかないし、かといって、この人もお金を払ったみたいだからただでは引きさがらないだろうし……


「なんだよ、姉ちゃん。そのゴーストは俺の所有物だぜ。返してもらおうか。おんやあ、あんたの隣にいるのはモンスターのゴーレムじゃねえか。なんだよ、そう言うことか。お姉ちゃんも俺と同行の士ってことね。それならそうと早く言ってくれればいいのに。あんたも例の番組で目覚めちゃったってクチね。モンスターをそういう対象として見ちゃい始めちゃったってことね。いいぜ、これから二人と二匹でパーティーといこうや」


 この人、絶対なにか勘違いしてる。あ、ゴーレムさんが怒りで肩を震わせている。このゴーストさんを奴隷扱いしてる人に今にも殴りかかりそうだ。そんなのはいけないよ


「ゴーレムさん、いけません!」


 あ、ゴーレムさんがとりあえずケンカ腰にはならなくなった。これで戦闘にはならないかも。あれれ、ゴーストさんを買った人間がなんだかおびえだした。どうしてだろう?


「あ、あんたの声聞きおぼえあるぞ。そうだ、アニメのゴーストを、モンスターの軍隊でいびり倒してた上官の声だ。ひえっ、あんな鬼のような上官の声の人なんだ。きっと、おそろしい人間に違いない。すいません、勘弁してください。そのゴーストは差し上げます。わたくしめのような小物が想像もできないくらいの残虐な行為をしちゃってください。それでは失礼いたします。いやあ、あのアニメの声を生で聞けるなんて、ゴーストの奴隷代を払った分を差し引いてもおつりがくる。得しちゃったな」


 あ、あたしが止める間もなくどこかに走って逃げちゃった。あのアニメでの上官は役の上での話で、あたしはそんな人間じゃないのに。


「あの、ありがとうございました。おかげで解放されました」


 でも、ゴーストさんは解放されたし、あの人もなんだかんだ嬉しがってたし。これでよかったんだな。


「それじゃあ、ゴーストさん。自分の住処に戻るんだよ……戻れる?」


「ユウシャさん。これ、テレポートグッズです。これがあればゴーストさんは自分の住処に戻れるはずです。魔王様から持たされていたものですが、ここが使いどころでしょう」


 わ、さすがマオウちゃん。段取りがいい。


「それじゃあ、ゴーストさん。これで自分の住処に戻るんだよ」


「はい。どうもありがとうございました」

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