第27話二人の神様のケンカ・ゴースト編

「テヅカさんやんけ。あんさんの『モンスター大使』見させてもらいましたわ。人間とモンスターのコミュニケーションものとはな。恐れ入ったで。あんな表現、人間とモンスターの共演がNGな実写では人間がモンスターのコスプレせんとできへんからな。今まではそれで通用しても、ホンマモンのモンスターのドキュメンタリーなんてやられたら、人間がやるモンスターのコスプレなんて偽物にしか見えへんわ」


「これはこれは、ツブラヤさんじゃありませんか。ツブラヤさんの特撮も拝見させていただきましたよ。素晴らしい映像でした。巨大な街を覆うゴースト。偽物にしか見えないなんてとんでもありません。なんでも、あの映像を本気にしてパニックが起きたそうじゃないですか。いやあ、たいしたものです。私の番組ではそんなパニックは起きませんでしたからね。もしそんなパニックが起きたら、私は謝罪の記者会見を開かなければならないところでした。あれれ、私の記憶違いでしたかね。ツブラヤさんって謝罪会見開かれました? ベンチャー社長は謝罪会見をされましたよね。社長にそんなことさせといて、当の本人が謝罪もせずにこんなところにいるとは思えないんですが」


「謝罪会見なんてしとらへんわ」


「え、謝罪会見をなさらなかったんですか。そういえば、ツブラヤさんは軍のご出身だそうで。なるほど、やるだけやっといて責任はとらない。軍人とはそういうものでしたか。いや、それにしても、ツブラヤさんは軍で軍事機密のテレビを一般に先駆けて映像制作に使っていたとか。なるほど。映像制作に関しては大先輩というわけですね。先輩に関しては敬意を払わないといけなせんね。いやあ、長年の経験が蓄積されているだけあって、たいした特撮映像ですよ。私もテレビを昔から使えていれば良かったんですが、なにせ軍事機密なんて扱える立場になかったもので、テレビの撮影は試行錯誤の連続なんです。それで、あんなものしか作れなくて、いやあお恥ずかしい。私も軍事機密を扱える立場にいたら、もっとすごい映像が作れたかもしれませんね。おっと、これは仮定の話ですが」


「ほんまやなあ。テレビが一般の人にも使えるようになってまだちょっとしかたっとらへんちゅうのに、あれだけのアニメを作る出せるテヅカさんはたいしたものですわ。わしがテレビを使い始めた頃は、とてもテヅカさんの『モンスター大使』のような作品は作れまへんでしたわ。モンスターが妙な格好しとる本が出回るような影響を社会に与えるような作品はな」


「いや、私のようなものが作ったつたないアニメであんなにたくさんの人が二次創作をされるとは思ってもいませんでしたよ。いやいや、人間の創作にかける情熱はすさまじいですね。おや、ツブラヤさん。どうしたんですか、その拍子抜けしたような表情は。ひょっとして、私が自分の作品の影響でモンスターがいやらしい格好をしている本が出回るようになって恥ずかしがっているとでも思ってたんですか?

とんでもありませんよ。古来から芸術とエロスは切っても切り離せませんからね。むしろ私はこのようになったことを誇りに思っているくらいで」


「そ、そうやったんか。わしはモンスターをモンスターらしく特撮で表現することに情熱をそそいどったから、あんなモンスターのディフォルメ表現は思いもせえへんかったわ。なにせ、口だけしか動いとらへんモンスターなんてありえないと思っとったさかいな」


「そうですか、ツブラヤさん。私はツブラヤさんの巨大ゴーストが下半身を下からのぞかれて恥ずかしがる姿におおいに創作意欲をわきたてられましてね。てっきり、ツブラヤさんもモンスターをいやらしい目で見ることを世間に認知させたいと思っているとばかり考えていたんですよ。まさか、あれだけの特撮を作るツブラヤさんが、自分の性癖を作品ではあけっぴろげにできるくせに、いざ自分の嗜好となると隠したがるなんてありえませんものねえ」


「さっきからおとなしゅう聞いとれば、なんや、テヅカ。あのアニメっちゅうもんは。あないなもん、絶対に商業的に成功せえへんわ。なんや、コマーシャルで自分の本を宣伝しやってからに。自分のポケットマネーで作ったもん、よう公共の電波に乗せられるな。あんたはあれか。自分のうまくもない歌を取り巻き相手に聞かせてよいしょされるお山の大将か。ええい、スーツアクター、止めるな。このテヅカってやつ、一発ひっぱたかんと気が済まんわ」


「そうですか、ツブラヤさん。ならば私もひとこと言わせてもらいましょう。ツブラヤさんの特撮はですね、致命的な欠陥が一つありますよ。巨大なモンスターを演出するには、毎回ミニチュアのセットを作らなければならないでしょう。確かに巨大ゴーストが覆い隠す街のセットは見事でしたよ。しかし、あれだけのものを毎週作り出せますかね。私には見えますよ。最終的には何もない野原でうろうろするだけの巨大モンスターが。なんですか、アニメーターさん、離しなさい。私が暴力でことをどうこうするような人間だとでも思っているんですか」

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