第26話アニメのゴースト・反応

 ううう、あの後、さんざんテヅカさんにダメ出しされちゃったよ。『ユウシャさんはこのキャラをなんだと思ってるんですか』とか、『このキャラは悪役なんですよ。見ている人にこのキャラは憎たらしい。ゴーストちゃん可愛そうなんて思ってもらわなきゃあダメなんです』とか。半分ヤケクソで自分じゃ絶対言わない感じで悪ぶってセリフを言ったら、『それですよ。それ』なんてテヅカさんに言われちゃうし。あのまま本番に突入したけど、あれで良かったのかな。


 で、例によって例のごとくベンチャーさんからの呼び出しだよ。今度は何を言われるのかなあ。


「いやあ、ユウシャさん。テヅカ先生の『モンスター大使』もツブラヤ先生の特撮に負けず劣らずの大反響だよ。ユウシャさんが声を当てたモンスター軍の上官への反応がすごくてね、『あんなモンスター許しておけない。いますぐ軍を派遣して滅ぼして』とか、『あのモンスターの上官に比べたら、軍の人間の上官が天使に見えてきた』とかね。ユウシャさんの悪役っぷりはたいしたものだよ」


「はあ、どうもありがとうございます」


「そんなユウシャさんの悪役ぶりが主役のゴーストさんの可哀想さを引き立ててね。『モンスター軍はひどい軍隊だ。でも、そこを追い出されたモンスターを保護しないのは人道に反する。一刻も早くあのような哀れなモンスターの保護施設を建設するべきだ』とか、『モンスター軍を追い出されたモンスターを見つけたらあんたんとこのテレビ局で買い取ってくれるんか』とかね。後者は奴隷商人の詐欺かなとも思ったんだけど」


 そうなんだよな。モンスターを奴隷として買う人間か。正義ってなんなんなだろう。


「実はね、わたしも出版社とはそれなりのコネクションがあるんだ。テレビでスターを売り出すには出版社にスターの本を作ってもらう必要があるからね。で、その出版社からこんな打診が来た。『モンスター軍で酷い仕打ちを受けている可哀想なモンスターの本を出したい』とね。この申し出についてユウシャさんはどう思うかな」


「それは……マオウちゃんが軍でテヅカさんの漫画みたいにモンスターを虐待してるとは思えないし。でも、モンスターさんを嫌うんじゃなくて、『可愛そう』なんて思ってくれるのはそれはいいことなのかな? でも、モンスターマスターちゃんとモンスターさんの関係はとてもステキだと思うけど、モンスターマスターちゃんはモンスターさんを可哀想とは思ってないだろうし……」


「実はそんなややこしい話じゃないんだ、ユウシャさん。人間とモンスターさんの間に恋愛感情が発生するってことは実例があるよね。ソウリョさんとエルフさんとか」


 そういえば、マオウちゃんとマッドドクターちゃんも結婚してるって言ってたな。


「つまり、モンスターさんに恋する人間もいるってことで……人間の恋心は下半身と切っても切れない仲というか。モンスターにいやらしい思いを抱く人間もいるんだね。で、いままでそんなことを口に出そうものならまず人間扱いされなかっただろうし、そんな気持ちに気付いてもいなかった人間が大多数だったんだろうけれど……ツブラヤさんの特撮で人間に下半身をのぞかれて恥ずかしがるゴーストさんを見て目覚めちゃった人間がたくさん出たみたいで。そこで利に聡い出版社さんが目をつけたんだね。モンスターさんがいやらしい格好をしている本を出せば売れると」


「モンスターさんのいやらしい格好ですか? でもそれって……」


「戸惑ってるみたいだね、ユウシャさん。それが大抵に人間の常識的な反応だろうね。『人間の敵のモンスターにいやらしい格好をさせた本? 何考えてるんだ』ってね。ところが、そこに『モンスター軍では仲間であるモンスターにこんな残虐な行為をしている』という暴露であると建前がつけられるようになったんだ。テヅカ先生の『モンスター大使』のおかげでね」


「建前ですか……」


「例えば、モンスターさんがいやらしい格好をしている本が学校に置けるようになるんだよ。『いやいや。確かにモンスターが装備をボロボロにされたイラストですがね。これはモンスター軍の悪虐さを糾弾するための本なんですよ。それ以外の目的なんてありませえんよ。え、このイラストを見てよこしまな発想をする……うわあ、あなたってそんな発想をする人間だったんですね。そんな発想をするあなたの品性の方がよっぽど下劣ですよ』なんて理由をつけてね」


「モンスターさんが性的な目で見られるんですか?」


「これを機に、モンスターさんと人間との恋愛がメジャーになるかもね。なにせ、思春期の女の子が学校でモンスターさんのいやらしいイラストが載った本を読めるんだからね。その性癖は一生物になるんじゃないかな。で、可哀想なモンスターさんじゃなくて普通の状態のモンスターさんの本が売られるようになるかも。『モンスターさんが酷い目にあってるところなんて見たくない』って人が出てきてさ。ひょっとして、いままでフィクションの演劇でのモンスターさんと言えば、モンスターさんの格好をした人間が人間役の人間に叩きのめされる展開ばかりだったけど、そのうちモンスターさんが舞台で歌って踊っちゃう時代が来るかもね」

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