第25話アニメのゴースト・シナリオ

「テヅカ先生、アニメの動画作り、完了しました」


「ほう、もうできましたか。さすがアニメーターさんですね。仕事が早い。よくもまああれだけ早く動画を仕上げられるものです。アニメーターさんにこんな才能があるなんて思ってもいませんでした。人間にどんな才能があって、それをどんな場所でいかせられるかはわからないものですねえ」


「ありがとうございます、テヅカ先生」


 あれがアニメの動画かあ。透明なペラペラのシートに、白黒や灰色でハカセやゴーストさんが描かれてる。でも、ハカセやゴーストさんだけだな。テヅカさんは『家が今にも壊れそうになってる』なんて言ってたけど、その壊れそうな家はどこに?


「おや、ユウシャさん。不思議そうな顔をしていらっしゃいますね。無理もありません。セル画を見るのはこれが初めてでしょうからね。いいでしょう。説明しましょう。アニメがテレビで放映される原理を」


 わ、テヅカさんがなんだか説明始めちゃった。いいのかなあ、アニメ制作中にそんなことしちゃって。


「いいですか、ユウシャさん。まず、この透明なシートがセルロイド製のセルです。とっても燃えやすいですから気をつけてくださいね。くれぐれも火炎魔法なんて使わないようにお願いします。で、そこに専用の塗料で色をつけていきます。なにせ低予算で、共同作業ですから、色は白、黒、灰色の三色しか使えません。灰色といっても、みんな同じ灰色ですからね。黒みがかった灰色とか、白みがかった灰色なんてものは使えません。その色を塗ったセルがセル画です」


 そういえば、アニメーターさんが描いた動画に大勢の人が色を塗っていたな。大勢の人が色を塗るから、『灰色はこの灰色しか使っちゃダメだよ』なんて決めておく必要があるのか。


「そして、これが背景です。背景ですから動かす必要がありません。ですから、色も白黒灰色の三色なんて制限ありません。この通り、見事なハカセ宅が描かれてるんですね。この背景とセル画を合成してアニメとなるのです」


 なるほど。背景と動画を別々に描くのか。いろんな工夫があるんだなあ。あれ?


「あの、テヅカさん。その背景の家、真ん中にスッポリ隙間が空いてるんですが……ちょうど柱が立ってそうなあたりに隙間が」


「その通りです。この隙間は不自然ですよね。そこで、この倒れる柱を着色したセル画です。この柱のセル画と隙間が空いたハカセ宅の背景を合わせることで、柱が倒れるハカセ宅のアニメができるのです。柱だけ色合いが違って感じが違うのはご愛嬌ですけどね」


 ほんとだ。柱が倒れる家のアニメだ。


「そして、ここにハカセとゴーストのセル画を重ねれば、ハカセ宅で柱が倒れてうろたえるゴーストのアニメの出来上がりです。セル画を何枚も重ねて一つのアニメにしちゃうんですね。ほら、ハカセが描かれてるセル画とゴーストが描かれてるセル画が別になってるでしょ。これはハカセ担当の彩色さんとゴースト担当の彩色さんがいるからなんです。漫画なら一つのコマに何人もキャラを入れるシーンなら同じコマに書き込む必要があります。でも、セル画ならこうして別々に描いていけるんですね」


 すごい、セル画って何枚も重ねてもいいんだ。こうやってアニメができるのか。


「ちなみに、この背景とキャラごとの動画を別に描く方法は他にも利点がありましてね。例えば、モンスター軍で上官に『軟弱者』なんてなじられてうなだれてるゴーストと、気絶してる博士を前にしてどうしようかと考え込んでるゴーストは同じセル画を使ってるんです。なにせ予算がカツカツで、似たような動きのシーンは使いまわさなきゃやっていけないんです。アニメの説明はこんなものですね。それでは、セリフチェックといきましょうか。動画もできたんで通しでいっちゃいましょう。漫画とは別にセリフ録音用の脚本も作ってますからね。それじゃあユウシャさんにはゴーストをなじる上官役をやってもらいます」


「え、あたしも声を当てるんですか。ハカセ役のオペレーターさんとゴースト役のベンシさんだけじゃダメなんですか」


「ダメなんですよ、ユウシャさん。私のアニメは、実況とゴーストの鳴き声以外はセリフがないツブラヤさんのパニックものと違ってちゃんとしたストーリーがあるんですからね。そのストーリーを表現するには、ハカセとゴースト以外にも役柄がいるんです。そんな役柄をユウシャさんにやってもらいますよ。なにせ低予算ですからね。配役に何人も雇えないんです。ですから、ユウシャさんには大勢のその他大勢を演じてもらいますよ」


 そんな、あたしにいろんな役柄を演じるなんて器用なことができるとは思えないんですが……


「できるできないの問題じゃありませんよ、ユウシャさん。やるかやらないかです。さあ、本番まで時間がありません。ビシビシしごきますからね、ユウシャさん」


 そんな、テヅカさんはにこやかな顔だけど、言ってる言葉の内容はこの上もなく恐ろしいんですが……

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