第24話アニメのゴースト・稽古
「やあやあ、私のアニメ作りについて納得してくれたようだね。それじゃあ録音開始と行こうか」
あ、いま何か思いつきそうだったのに……テヅカさんが来ちゃったからどこかに思いつきが行っちゃったよ……『録音開始』? いきなり録音始めちゃうの?
「とりあえずCM撮影だ。アニメーターさん。動画作り再開しちゃて。放送まで時間がないから、大急ぎで動画仕上げちゃってね」
「わかりました、テヅカ先生」
『時間がないから大急ぎで動画を仕上げる』……すごい自転車操業な響きだな。間に合うのかな。
「じゃあCMだ。私の漫画を画面に映すから、それを見て漫画を買いたくなるような実況やら活弁やらを入れちゃってよ。ツブラヤさんとこのモンスター人形よりも、わたしの漫画を買いたくなるようなCMを作らないといけないからね」
「漫画のCMですか。ということはスポンサーは出版社さんですか?」
「何を言っているんですか、ユウシャさん。このアニメは私のアニメなんですよ。出版社がスポンサーにつくはずないじゃないですか。出版社にも聞くだけ聞いてみたんだけれどね。『アニメ? なに夢みたいなこと言ってるんですか、テヅカ先生。そんなことよりも早く原稿書いてくださいよ。締め切りはとっくに過ぎて印刷所の人がカンカンなんですから』なんてつれなくてね」
「え、ですがCMを作るんですよね」
「そうですよ。私の漫画のCM。私が自分でお金を出して私の漫画のアニメを作って、それを見た子供が私の漫画を買って、その印税でまたアニメを作るんだ」
「えええ、このアニメ、テヅカさんが自分のポケットマネーで作るんですか?」
「ええ。言いませんでしたか。私の漫画が売れて印税が少しばかり入って裕福になったのはいいんですけれどね。なにせ原稿を書くのに忙し過ぎてお金を使う暇が全くなくてですね。それでテレビなんてものが出てきましたから、『よし、自分のお金でアニメを作っちゃおう』と、こう言うわけなんです。しかし、私のポケットマネーは個人のお小遣いとしては少々高額かもしれませんが、アニメ作りとなるとスズメの涙もいいところでして。予算のやりくりには苦労のしっぱなしなんですよ」
テヅカさんが自分のポケットマネーでアニメを。自分でオモチャ会社をスポンサーに引っ張ってきたツブラヤさんとはずいぶん違うな。
「だから、私のアニメを見た子供たちが漫画を『お母さん、ねえ買って』なんておねだりするようなCMにして欲しいんだ。なにせ、ユウシャさんのゴーストのドキュメンタリー番組を見て、いてもたってもいられずに書き上げた出来立てホヤホヤの新作だからね。題して『モンスター大使』人間とモンスターの仲を取り持つモンスターの話で。これは人間とモンスターの共演が実写ではありえない現在、漫画やアニメでしか表現できないストーリーで……」
「え! あの漫画、あたしたちのドキュメンタリー番組が放映された後にテヅカさんが描いたんですか?」
「そうですよ。モンスターを実写で映像にされちゃったら、悔しいじゃないですか。私が今まで漫画でモンスターの話をコツコツ描いてたのに、実写であんなことされて人気をかっさらわれてはたまったもんじゃないですよ。そんなことになってはいけませんから、あれよりいい番組をアニメで作らなければならないんです。というわけで、その予算獲得のためにいいCMを頼みますよ」
あたしたちのゴーストさんのドキュメンタリーが放映されてから、まだそんなに日にちも経ってないのに、これだけの漫画を描きあげちゃうなんて、テヅカさん、いつ寝てるんだろう。
「それで、CMにはこのページを映して、セリフを当ててもらいます。軍を追い出されたゴーストがハカセに介抱される。そんな中、モンスター軍が襲来。その衝撃でハカセが転倒。気を失うハカセ。ハカセ宅が今にも崩壊してしまう。そこで、ゴーストがハカセに憑依してハカセの体を操りハカセ宅から脱出させる。そこのハカセが転倒してから、ゴーストが憑依するシーンのページをCMで使う。そこがこの漫画の肝のシーンだからね。そこをCMに使うんだ」
なるほど、軍を追い出されたゴーストさんが人間のハカセのために働くのか。これもツブラヤさんの特撮とは違った方向で人気が出るかも。
「ハカセの声をツブラヤさんの番組で実況なさってたオペレーターさんが、ゴーストの声をベンシさんがやってください。いいですか、ベンシさん。私の漫画のゴーストは人間の言葉を喋りますからね。『ゴースト』なんて鳴き声を使っちゃダメですからね」
うわあ、テヅカさん思いっきりツブラヤさんの特撮を意識してるなあ。けど、ツブラヤさんの特撮の巨大ゴーストさんも、テヅカさんのアニメの人間と触れ合うゴーストさんもエンターテイメントとしてはどちらも素敵だな。お互いはお互いをライバル視していた方がかえっていい番組ができるのかも。べつに実際に取っ組みあってバトルするわけじゃないし
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