第23話アニメのゴースト・打ち合わせ
「そ、それでは不肖、このアニメーターが皆様にアニメの動画作りについて説明させていただきます。それでは、この二枚の絵をご覧ください」
へえ、二枚の絵。どっちもゴーストさんの絵だな。それも似たポーズの。
「この絵はわたしが描いたんじゃありません。わたしにはこんな上手い絵かけませんからね。テヅカ先生の仕事場でもよく先輩にからかわれたんです。『お前は絵が下手だなあ。そんなのでよく漫画家目指そうと思ったよな』なんて。実際その通りなんですが……それはともかく、この絵はテヅカ先生の漫画のこのシーンをアニメ用に描いたものなんですね。どうです。ぜんぜん違うでしょう」
本当だ。漫画だと、変わった形のコマ割りの絵だけど、アニメ用の方はきちっとした長方形の紙に描かれてる。でもなんでだろう?
「これは、テレビの形に合わせた四角形なんです。テヅカ先生のコマ割りは斬新でとても素晴らしいんですけれど、そのコマ割りの形にテレビ画面を変形できませんからね。こうして、テヅカ先生の漫画の絵をテレビ用に描きなおす必要があるんです。もちろんわたしにはそんなことできませんけれど」
そうか。テヅカさんの漫画のコマ割りは、大きくなったり小さくなったりグニャグニャ形が変わったりしてるけど、テレビだとそうもいかないから、同じ形の紙に描きなおす必要があるのか。でも、それをアニメーターさんがしてないって言うのなら、アニメーターさんは何をするんだろう?
「で、ここからがわたしの仕事です。この二枚の絵の間を描くんです。こんなふうに」
うわ、なにこれ、すっごい速い。ほかのスタッフさんにも絵を描いてる人がいるけど、アニメーターさんの方が何倍も速い。なにを描いてるんだろう? もともとあったゴーストさんの絵と同じ絵? あれ、でも、ほんのちょっと違うような。
「できました。いいですか、このわたしが描いた絵をもともとの二枚に挟んでですね……」
もともとの二枚に挟んでって……アニメーターさんは何枚の絵を描いたんですか。分厚い百科事典みたいになっちゃってますよ。
「それをパラパラめくると……」
わ! 絵が動いてる。それも滑らかに。ゴーストさんが実際に紙の中で動いてるみたい。
「ね、動いて見えるでしょう。これがわたしのこの現場での仕事なんです。わたしのは元になる絵は描けませんけれど、それを真似して少しずつ動かした絵ならなんとか描けますから。そこをテヅカ先生に見出されて、この現場に抜擢されたんです」
『なんとか描ける』って、あの絵を描くスピードは凄まじかったっんですけれど。素早さのステータスはいくつなんだろう。
「わたし、絵なんて模写くらいしかできなかったんです。だから、テヅカ先生の仕事場でも、参考資料をもとに背景描くくらいしか仕事がなくて……でも、どうしても漫画家になりたくて悩んんでたら、テヅカ先生が言ってくれたんです。『君、アニメーター君だっけ? 絵を描くのが速いですね。ちょっと、このゴーストの絵と、ゴーストの絵を動かしてみたいんですよね。協力してもらえません?』なんて。最初は『絵を動かす』なんて言われてもなんのことかちんぷんかんぷんだったんですけれど」
『絵を動かす』かあ。あたしだったらそんなこと言われても、『いいですよ。どこに運べばいいんですか』なんてトンチンカンな答えを言っちゃうんだろなあ。
「最初はうまくいかなかったんです。テヅカ先生によると、『1秒間に8コマでいく。わたしのアニメを週1本放送するのなら、そのコマ数でないと無理だ』らしいんです。後で知ったんですが、アニメって1秒間に24コマないとヌルヌル動いて見えないそうなんです。でも、それだけの枚数を週ペースで描いてられないと言うことで、1秒間に8コマにしたそうなんです」
一秒間に8コマでも十分多いような気がするけれど……一秒間に24コマかあ。それだけこまごました動きだったら、1ターンに何回攻撃できちゃうんだろう?
「慣れないうちは、動きが足りなかったり、逆に過剰だったりしちゃってたんですね。一秒間に8コマで、上手く動いて見えるようにする動画を描くのには本当に苦労しました。テヅカ先生もそれに付き合ってくれて。ご自分の漫画の連載も抱えていらっしゃったのに。わざわざわたしのために専用の動画部屋までこっそり作ってくれて、ちょくちょく様子を見にきてくださったんです。『みんなには内緒だよ』って。テヅカ先生にはいくら感謝しても感謝しきれません」
漫画、連載、締め切り……そういえば、前に何かの漫画の作者コメントで読んだような。『アイデアがどうしても思いつかずに、仕事場からトンズラしたけれど編集者からは逃げられませんでした』なんて内容を。漫画を雑誌に連載するってことは、印刷しなきゃいけないし、印刷といっても時間がかかるだろうからそれなりに前もって作品を仕上げる必要があるだろうし。それが締め切りなんだろうけど、こっそり作った動画部屋にちょくちょく内緒で行ってた……なんで内緒にする必要があるんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます