第22話アニメのゴースト・顔合わせ
ツブラヤさんの番組見たテヅカさんにあたしとオペレーターさんとベンシさんの三人が呼びつけられちゃったよ。いったいなんなんだろう。
「絵に声を合わせるなんてできませんか。自分は顔出しの役者だから、そんなわけのわからないちんちくりんな絵に声なんて当てれませんか。わかりました、もう結構です。あなたのような人は私の作品作りには必要ありません。どうぞお帰りください」
「なによ、こんな口だけしか動いていないような絵にセリフなんて、バカバカしくてやってられないわよ。絵を動かすなら動かすで、もっとグリグリ動かして見せなさいよ」
「私もそうしたいのはやまやまなんですがね、なにせ先立つものがなくて」
「ふんだ。こんな貧乏くさい撮影現場なんてこっちから願い下げよ」
わ、しかめっつらした人が怒って出てっちゃった。こんなこと、前にもあったような。
「これはこれは。ユウシャさんに、オペレーターさん。それにベンシさんですね。ようこそいらっしゃいました。あなたたちにやってほしいことがありまして。まずは紹介したい人がいます。アニメーターさんです。アニメーターさん、あいさつしてくれますか」
「は、はじめまして。アニメーターと申します。テヅカ先生のもとで修行させていただいています」
アニメーターさんかあ。この人も、スーツアクターさんみたいになにか一芸に秀でた人なのかな。
「アニメーターさんのする仕事は……見せた方が早いですね。ユウシャさんたち、いいですか。これが私の漫画です」
これがテヅカさんの漫画かあ。うわ、なんだかコマ割りが独特。わたしも漫画は何度か読んだことあるけれど、四コマ漫画みたいにコマは全部同じ大きさだったな。けれど、テヅカさんの漫画のコマ割りは、すごい。いろんな形がある。これ、グイグイ引き込まれちゃうよ。
「あの、テヅカさん。とりあえず、この漫画最後まで読ませてもらっていいですか?」
「どうぞどうぞ。その漫画が今回アニメにする原作ですからね。ユウシャさんに読んでもらわないと話になりません。オペレーターさんにベンシさんもどうぞ。漫画は何冊も用意してありますから」
え、なにこれ。視点が決まった方向からじゃない。あたしが読んできた漫画は、舞台みたいにキャラを同じ視点で見続けたものばかりだったけれど、テヅカさんの漫画はキャラを上から見てたと思ったら、次のコマでは下から見上げてる。でも、わかりにくいかと言うとそんなことは全然なくて、どんどん引き込まれちゃう。
「すっかり私の漫画を楽しんでもらってるようですね。その様子ですと、コマごとの視点変更にもついていけていらっしゃるようですし……そうですよねえ。視点が固定されてなくとも、物語は理解できますよねえ。世間では、ツブラヤさんのモンスター番組を『違う視点から映した映像がいっぺんに見られるなんてすごい!』なんて誉めそやしているそうですが、視点の変更なんて、私がすでに漫画で発明した手法なんですよね。まったく、ツブラヤさんの方を元祖だなんて思われては困りますよね」
テヅカさんが何か言っているみたいだけれど、ちっとも耳に入らない。そのくらいこのテヅカさんの漫画が面白い。モンスター軍を、『このふぬけが。貴様のような軟弱者はモンスターの面汚しだ。出て行け』なんて追い出されたゴーストさんが、人間のハカセに拾われて、ハカセとゴーストさんが心を通いあわせ合う。こんな話は今まで読んだことがない。
そうか。魔王軍を追い出されちゃうモンスターっていう発想があるのかあ。実際のマオウちゃんはそんなことしないだろうけれど。
「おや、三人とも読み終わられたようですね。いかがでしたか。私の漫画は」
「それはもう。こんな漫画読んだの産まれて初めてです」
あ、オペレーターさんにベンシさんもコクコクうなづいてる。もう、なんて表現したらいいかわからないって感じだな。あれだけ達者に言葉を操れるあの二人が、あの二人だからこそテヅカさんの漫画をどう評価したらいいのかわからないんだろうな。
「そうですか。それは良かったですね。それで、この漫画をアニメにするんですが……アニメ制作というのは漫画を描くのとは少しばかり勝手が違いましてね。そこで、このアニメーターさんの出番になるんです。この子は私の仕事場でアシスタントをしていたんですが、この子には漫画とはまた違った才能がありましてね。私が口説き落としてアニメ作りに参加してもらうことになったんです。いや、アニメーターさん。申し訳ない。漫画を描きたくて私のところに弟子入りしたっていうのに、アニメ制作なんてやらせちゃって」
「そんな、テヅカ先生。わたしは先生のもとで修行させていただくだけで幸せなんです。わたしは動画なんて大役を仰せつかって感激しているんですから」
「では、私は他のスタッフさんとの打ち合わせがありますから……アニメーターさんがアニメをどう作るかを三人に説明してください。お願いしますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます