第21話特撮のゴースト・反応
「いやあ、ツブラヤさんのゴーストの特撮は大反響だったよ、ユウシャさん。もう、わたしのテレビ局の電話がジャンジャン鳴りっぱなしでね」
「そうですか、ベンチャーさん。どんな電話だったんですか?」
『面白かった』って電話かな。『楽しかった』って電話かな。
「『あの街はどこだ? 及ばずながら助太刀いたしたいので場所を教えていただきたい』とか、『軍隊はあれで足りるのか? 街の住民を早く避難させた方がいいんじゃないか』とかって電話だね。どうも、本気で信じちゃった人間が大半だったみたいなんだ」
「見てる人があの番組を本物の映像だと思っちゃったんですか?」
「そう言うことだね。それだけツブラヤさんの特撮が真に迫ってたってことなんだろうけれど……それと、オペレーターさんとベンシさんの声の演技もね。で、CMに入ってこれはフィクションだってみんな気づくかななんて思ったんだけどそうもいかなくてね。『なんでこんな緊急事態にCMなんて入れるんだ』とか、『他のテレビ局じゃ何も教えてくれないぞ。だからここに電話してるんだ。責任とれ』とかね。いやいや。現実とフィクションの区別がつかない人間があんなにいるとはね」
「はあ」
「そして、CMが明けて、ゴーストさんの恥ずかしがる姿が映るとさらに電話の数が増えてね。『再放送しろ』とか、『もう一度見せろ』とか。そんな生で放送したものをもう一回テレビで放送するなんて技術はまだ開発されてないんだから無茶言わないでほしいよ。そんな時間を巻き戻すよな高位呪文は人間にはほいほい使えないんだから。まったく、そんなに何をもう一度見たいんだろうねえ」
それはおそらくゴーストさんの恥ずかしい姿じゃないかと……じゃなくて。
「それ、結構一大事じゃないですか、ベンチャーさん」
「一大事も一大事。この後、社長であるわたし自ら謝罪会見をすることになっちゃったよ」
「そ、それは……どうも申し訳ありませんでした」
社長のベンチャーさんが謝罪会見を開くなんて……これってどうなっちゃうの。番組中止? 活動休止? 損害賠償?
「なあに、ユウシャさんが気にすることじゃない。わたしのような経営者の頭は下げるためにあると言っても過言じゃないからね。わたしが頭を下げればそれで話が済むのなら、いくらでも頭は下げるさ。それに、じつはもう落とし所ができていてね」
「落とし所? それってどういうことですか、ベンチャーさん」
「簡単に言うと、国のお偉いさんがこの事件でテレビの大衆に与える影響力を理解したってことさ。このメディアは敵にするよりも味方に取り込んでおいた方がいいと国の上層部が判断したんだね。と言うわけで、政治的な話の決着はすでに済んでるんだ。この件でわたしが刑事的な責任を追及されることはない。わたしが頭を下げて、これからはあのような番組では冒頭に『この番組はフィクションであり、実在の人物や事件とは一切関係ありません』なんてテロップを入れることを宣言すればそれでこの話はおしまいさ」
国の上層部との政治的な話……マオウちゃんもそんなこと言ってたな。でも、こういう話はあたし苦手だな。
「そりゃあ、新聞やら雑誌やらでは叩かれるだろうけどね。かえっていい宣伝になるってものさ。メディアなんて新聞や雑誌しか知らなかった人間がテレビと言うメディアを知るきっかけになるんだからね。おかげでCM契約もうなぎのぼりだよ。見る人間がたくさんいると言うことは、宣伝効果が高いってことだからね」
CMかあ。CMの間、スタッフさんが矢や石の回収やCM明けの発射の準備で大わらわだったな。スーツアクターさんも矢や石が当たってるはずなのに『こんなの平気です。いい番組を作るためなんですから』なんて言っちゃって。そんな、何度も死んではやり直しをする魔王退治じゃないんだから、そこまで体を張らなくても。CM中にあたしが回復魔法かけたけど。
「ツブラヤさんの番組にもCMのオファーが殺到してるらしいよ。子供相手の商売してるお菓子やさんとか、子供服扱ってる業者さんとかね。これからは、ツブラヤさんも撮影機材にお金をかけられるようになるんじゃないかな」
お金、CM。もうちょっとなんかないのかな。あの特撮を子供たちはどう思ったかとか。でも、番組作りをするにはお金が必要だしなあ。
「そうそう。好評につき、ツブラヤさんのモンスター特撮番組の週一でのレギュラー放送が決まったよ。ツブラヤさんに伝えたら喜んでたよ。これからは『寝る暇もないぞ』なんて」
寝る暇もないか。宿屋で休まないとヒットポイント回復しないのにな。宿屋で休まずに冒険をし続けたら死んじゃうのに。
「これからは、ユウシャさんも忙しくなるよ。がんばってね」
「わ、わかりました、ベンチャーさん」
テレビの世界ってのも大変だな。魔王討伐の頃が懐かしくなってきたよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます