第20話特撮のゴースト・シナリオ
「あの、ツブラヤ先生。わたしはそんな長い文章覚えられるかどうか……軍では通信兵でしたから、文章を覚えることなんて要求されませんでしたし……」
「あほう。だれがオペレーターちゃんにセリフを覚えろゆうた。オペレーターちゃんのその可愛いお顔が画面に映るわけやないんやから、台本をこっちで用意したる。オペレーターちゃんは、その台本に書いてあるセリフ……ちゅうよりナレーションやな。を読んでもらう。もちろんただ読んでもらうんだけやあかんで。小学生が朗読をやるんやないんやからな。ちゃあんとプロのナレーションをしてもらう」
台本のナレーションを読む? ただ読むじゃだめ? プロのナレーションって、何がどうあるべきなの?
「オペレーターちゃん。軍で通信兵のいろはについて叩き込まれたやろ。滑舌、抑揚、イントネーションその他もろもろ。オペレーターちゃんは聞き取りやすい言葉でナレーションをするんや。子供が見るもんやさかい、子供にもわかるような言葉のナレーションがいるんや。ワシが作るんは子供だましやのうて子供向けの映像やからな。そのへんよろしく頼むで」
子供だましだと、いいかげんなちゃちい出来損ないってイメージだけど、子供向けだと、『子供は正直。つまらないと思ったらすぐに見るのをやめる。だからこそいい加減なものは作れない』なんてツブラヤさんのメッセージを感じるな。なんだか気合が入ってきた。
「で、そこの活弁士の姉ちゃん。ゴーストの番組で活弁やっとったんやろ。姉ちゃん、モンスターの鳴き真似できるか? 別に本物そっくりやなくても構わへん。ゴーストならこんな鳴き声だろうと見とるもんに納得させられるものをこっちは要求しとるんや。ある意味これはただの鳴き真似よりも難しいで。どや、できるか?」
「は、はい。人間とモンスターとの戦闘に、モンスターの叫び声や悲鳴をアテレコしてましたから。お客さんも喜んでました」
「ほんまか。ならちょいとやってみい。巨大なゴーストが街の乗り込んでくる時の鳴き声や」
「そ、それでは……『ゴースト、ゴ、ゴーストーーー』」
これは! 文字にすると『ゴースト』ってだけなのに、ベンシさんが言うと『ゴースト』って言葉だけでゴーストさんの喜怒哀楽が伝わってくる。これが活動弁士!
「ええやんけ。『ゴースト』と言うモンスターの種族名をそのまま鳴き声にするんか。わかりやすうておおいにけっこうや。それでいて、モンスターの感情がビンビンに伝わってくるで。気に入ったで、活動弁士の姉ちゃん。姉ちゃんのセリフは『ゴースト』だけやそれでやってもらうで」
「は、はい、勉強させていただきます」
「よっしゃ。なら、今から筋書きや。ええか、あそこが街のセットや。どうや、不自然な凹の形をしとるやろ。そこのへっこんだ部分に着ぐるみ着込んだスーツアクターちゃんが潜んで、少しずつ頭から全身を出して行って、最後にはワイヤーで宙ぶらりんになるんや。それをカメラが下方向から見上げるようにして撮る。そうすれば、地面に潜んどったゴーストが頭から全身をすり出して、しまいには空を飛ぶように見せるっちゅう筋書きや。さあ、オペレーターちゃん、これをどう通信……やのうてナレーションする?」
「『ここはのどかな街並み。おや、地面から何かが吹き出してきました。霧でも出てきたのでしょうか。いや、違います。これはゴーストです。それも巨大な。まだ顔だけしか出していませんが、その顔だけで山のような大きさです。あああ、ついにその全身が現れました。浮かんでいます。巨大なゴーストが空を浮かんで街を覆い隠しています。その割合は、空が3でゴーストが7です。繰り返しますが、皆さん間違えないでください。空が3でゴーストが7です』こんなものでどうでしょうか、ツブラヤ先生」
「ええで。そして、軍のお出ましや。弓矢を雨あられと撃ち出してゆく。それだけやのうて、街の住民も投石攻撃や。さあ、ナレーションしてみい」
「『軍です。軍隊です。巨大ゴーストの出現に、すぐさま軍が駆けつけました。選りすぐりの精鋭兵が、弓に矢をつがえております。そして、街の住民も自分たちの街を守ろうと投石の準備を始めています。いま、今まさに矢が放たれました。石も発射されました。その矢や石がゴーストに飛んでいきます』どうですか、ツブラヤ先生」
「ばっちしやで。そして、CM明けや。矢も石もゴーストをすり抜けた。そのシーンのナレーションや」
「『ああ、矢も石もゴーストの体をすり抜けて行きました。なんと言うことでしょう。通常の武器攻撃がゴーストには通用しません。その間にも、巨大ゴーストは街を覆い尽くしてしまいました。これでは巻き添えの被害の危険性のため魔法も使えません。いったいどうなってしまうのでしょうか?』……この先どうなるんですか、ツブラヤ先生」
「あほう、ゴーストちゅうても女の子やないか。下から人間に覗き込まれてみ。大事な部分が丸見えや。それに気づいたら、巨大ゴーストも二度と人里に出てこようとはせえへんやろな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます