第18話特撮のゴースト・打ち合わせ

「よ、よろしくおねがいします。先ほども自己紹介させていただきましたが、スーツアクターです。ゴーストの番組を拝見させていただきました。本物のゴーストさんみたいに、窓をすり抜けられたりはできませんけれど、一生懸命やらさせていただきます」


「その、スーツアクターさん。着ぐるみ装者って、どんな仕事なのかな。あたしは着ぐるみ装者のことをよく知らないから、良かったら教えて欲しいんだけれど……」


「わたしもユウシャさんと同意見だな。わたしは軍の通信兵でも下っ端だったから、お偉いさんが作戦立案で見るような映像はお目にかかったことがないし、これからスーツアクターさんの動きに声を当てていくことになったんだ。ぜひお聞かせ願いたい」


「僕も教えてもらいたいな。今まで実際の戦闘や漫画を活弁したことはあったけど、着ぐるみの動きにアテレコしたことはなかったから。と言うよりも、着ぐるみの中の人って大概が自分が喋って動いちゃうから、僕みたいな活動弁士にはアテレコの誘いがなかったんだよね。ツブラヤ先生ってのもすごい人みたいだし……そんなツブラヤ先生のお墨付きのスーツアクターさんの動きに声をあてられるか。考えてきただけでワクワクしてきちゃった」


 あ、オペレーターさんにベンシさんもあたしと同じでスーツアクターさんの話を聞きたいみたいだ。それもそうか。これからいっしょに番組を作っていくことになるんだもんね。


「お三方にそこまで言われては……では、まずはわたしの生い立ちから。わたしは、旅芸人の一座に産まれまして。そこで子供の頃からパントマイムを担当していたんですね。パントマイムわかりますか? こうやって、目の前にありもしない壁があるように見せたり、こうやって置いてあるだけの簡単に持てるはずのカバンをさも重たそうに喋らずに見せるやつです」


 うわ、本当だ。何もないはずの空間に、スーツアクターさんが手を当てているとそこに壁があるように見えてくる。壁、ないよね。思わず壁があるかないか触ろうとして確かめちゃったよ。本当に何もないんだな。それに、スーツアクターさんがカバンを持ち上げようとしてるけど、ちっとも持ち上がらないからカバンがすごく重そうに見える。あ、ヒョイっとカバン持ち上げちゃった。本当はあのカバンあんなに軽々と持ち上げられるんだ。


「ですが、モンスターとの戦闘激化ということで、わたしも軍に徴兵されまして。その軍で『お前旅芸人だったんだってな。なにか面白いことやってみろよ』なんて上官の命令に答えてパントマイムを披露していたところがツブラヤ先生の目に留まりまして……着ぐるみの動きを一から仕込まれたんです。なにせ、いままでお客さんを目の前にしてパントマイムをすることはあっても、テレビなんてもので映像にされるのは初めてでしたからね。いろいろ勝手が違って戸惑いました」


 テレビかあ。あたしも初めて見た時は驚いたな。でも、軍事機密ってだけで、軍ではツブラヤさんみたいな人が映像作りしてたのか。そんな映像作りの大先輩がテレビ番組を作ることになる。これってすごいことかも。


「例えば、ゴーレムやサイクロプスみたいな巨大なモンスターを下から見上げるようにしてカメラで撮影すると、それだけで見上げるような映像になって画面では巨大そうに見えるんですね。実際の着ぐるみを着たわたしはこの通り巨大でもなんでもないんですが、カメラワークの妙技で巨大っぽく見せられるんですね」


 人間が着ぐるみでゴーレムさんらしく巨大に見せるかあ。本物のゴーレムさんと話している時はそんなこと考えもしなかったけれど、巨大そうに見せるとなるとなんやかんや大変なんだなあ。


「動きもわざとスローモーションにするんですね。基本的に小さいものはチョロチョロしてて、大きいものはドッシリしてるイメージがありますから、巨大なゴーレムをわたしみたいな人間が表現しようと思ったら、動きをゆっくりにする必要があるんです」


 たしかに。ゴーレムさんがちょこまか動いてる姿って、実際にゴーレムさんがするかどうかはともかく、そんな姿を見せられたらゴーレムさんのイメージと違うってなるな。だからゆっくり動いたほうがいいのか。勉強になるな。


「で、今回のゴーストの着ぐるみでの演技です。ゴーストの番組を一度見ただけではとてもじゃないけれどゴーストらしい演技なんてできそうにありません。そこでお三方に相談なんです。わたしはどんな着ぐるみの演技をすれば良いのでしょうか?』


 え、そんな。演技なんて言われても……そりゃああたしは本物のモンスターさんは今まで何人もあってきましてけれど……それを着ぐるみでどう表現すればそれらしく見えるかなんて専門外もいいところで……あ、オペレーターさんにベンシさんも困った顔してる。きっと二人とも、他の人に演技指導するなんて今までなかったんだろうな。

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