第17話特撮のゴースト・顔合わせ

 うう、あたしとオペレーターさんとベンシさんがツブラヤさんに呼びつけられちゃった。『ゴーストの番組でゴーストにおもろいアテレコつけとった姉ちゃんおったやろ。その姉ちゃんとオペレーターちゃん連れて来てくれへんか』なんて、いったい何の用なんだろう。


「冗談じゃないわ。ゴーストの役だなんて。あんな店先荒らしまわったり、墓場をうろつきまわったりするようなモンスターなんてやりたくないわよ。だいたい、あんな変な特殊メイクして演技すればいいって、ふざけないでよ。役者は顔を出してなんぼじゃない。こんな現場やってられないわ」


「おお、だったら帰ってくれてかまわんわ。『顔を出さなきゃ役者じゃない』? あんた着ぐるみ装者なめてんのか。あの特殊メイクで、モンスターらしゅう演技することがどれだけ大変なんかわかってんのか? そんな口だけは達者なくせに、その自慢のお顔は全く見覚えがないあんたなんてこっちから願い下げや」


「なによ、軍で何してたか知らないけれど、演劇の世界ではツブラヤなんて名前聞いたこともないのに。何様のつもりよ。偉そうにしちゃってさ」


 あ。誰かがスタジオを出て行っちゃった。うわ。なんだか険悪な雰囲気。現場がピリピリしてる。あ、ツブラヤさんがこっちに気づいた。


「おお、お嬢ちゃんたちか。よう来てくれたな。見ての通りや。よう知らへんけど、なんやキャリアはそこそこあるらしい役者が来たんやが、プライドばかり高うてちっとも使い物にならへん。というわけで、あのゴーストのドキュメンタリーでええ仕事しとったお嬢ちゃんたち3人にお願いや。ゴーストの特撮作るさかい、セリフアテレコしてーな」


 お嬢ちゃんたち3人……あたしもセリフアテレコするの?


「ゴーストは着ぐるみでいく。ここの社長の話聞いてな、親しみやすいゴーストを演出することにした。そないなら、なんといっても着ぐるみ、特殊メイクや。ワシらには、軍の宴会の余興でお偉いさんをモンスターの着ぐるみ着て楽しませとった実績がある。作戦映像ではおどろおどろしかったモンスターの着ぐるみも、演出を変えればコミカルでチャーミングなものになるんや。ほれ、自己紹介せい」


 あ、着ぐるみが顔を取り外して人間の顔が出てきた。


「はじめまして。スーツアクターと申します。ご覧の通り、ツブラヤ先生のもとで着ぐるみ装者やらせてもらってます。以後よろしくお願いします」


「このスーツアクターちゃんはごっついで。わしの秘蔵っ子や。作戦映像でおっそろしいモンスターをやったっちゅうのに、同じ着ぐるみでその映像を見たお偉いさんをゲラゲラ笑わせるなんて、そんじょそこらの人間にはできへんことやからな」


「そんな……ツブラヤ先生、恐縮です」


「照れることあらへん。スーツアクターちゃんのような着ぐるみ装者を、『着ぐるみなんて、顔出しで勝負できない役者がアルバイトでやるものでしょ』なんて馬鹿にする輩もおるけども……そんなことを言う手合いは顔出しは顔出しでもエキストラがせいぜいや。かたや、十把一絡げで一山いくらのその他大勢。かたや顔は見えんともその筋の一流。どっちが上等かは言うまでもあらへんな」


 ふうん。ツブラヤさんって、さっき役者さんを怒鳴りちらして追い返した時は大魔王様みたいなワンマンな感じがしたけれど、スーツアクターさんの様子を見ると下の人には慕われてるんだな。ツブラヤさんがスーツアクターさんを褒めちぎってるのを見て、現場のスタッフさんも和やかな雰囲気になってきたみたいだし……オペレーターさんがツブラヤ組だなんて言ってたけど、結構いい感じのチームなのかも。


「それでやな、お嬢ちゃんたち。ワシは、巨大モンスターで行く。スーツアクターちゃんにモンスターの着ぐるみ着せてな、ミニチュアの村や町のセットを襲わせるんや。雲をつく見上げるような巨大モンスター。そんなモンスターおらへんやろ。そんな誰も見たことがないような巨大モンスターを、ワシが特撮で映像化するんや。どうや、いいアイデアやろ、お嬢ちゃんたち。そして、そんな巨大モンスターのおもちゃを作って売りまくるんや。これは金になるで。儲かれば、さらにその儲けをつこうてええ番組を作れるようになる。ええことづくめやな」


 ミニチュアの村や町? あ、ほんとだ。スタッフさんが箱庭サイズの村や町を作ってる。大の大人が子供がやるようなことをあんなに一生懸命に。でも、大人が必死こいてやってるだけあって、すごいリアルな完成度。あそこを着ぐるみを着たスーツアクターさんが動き回ったら、子供はもちろんだけど、大人のあたしも熱中するような番組が作れそう。


「と言うわけで、とりあえず着ぐるみを動かすスーツアクターちゃんとお嬢ちゃんたち三人で親睦を深めてえな。動きと声を担当するもんどうしが息を合わせんといかんからな。なにせ生放送やさかいに」


 え、ツブラヤさん。『親睦を深めてえな』って、何をすればいいんでしょうか。いきなりそんなこと言われても……あ、なんだかセットや照明、それに音響のスタッフさんと打ち合わせ始めちゃった。それもなんだかえらく綿密に。特撮の神様って言うくらいだから、やっぱり撮影には厳しかったりするのかなあ。


 

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