第16話二人の神様

「やあ、ユウシャさん。今、ツブラヤさんとテヅカさんと会っていたところでね。二人とも、ずいぶんユウシャさんの番組を褒めていたよ。と言うよりも、わたしをほっておいて二人でテレビ番組制作談義に花を咲かせて、その中でユウシャさんの番組が話題として出てきたって感じかな。いやいや、クリエーターって人種はアクが強い人間ばかりだね」


「そうだったんですか。あの二人が。二人ともずいぶん個性的な人だったから、その二人が会話に花を咲かせたとなれば、それはもうすごいことになったんでしょうね」


「それはもう。あの二人の対談で番組が一本作れるほどだったよ。カメラを回していなかったのがテレビ屋としては悔やまれてならないよ。ツブラヤさんとテヅカさんが映像についてそれはもう熱く語り合ってね。


 ツブラヤさんが『特撮ではこんなことができるんやで』なんて言って、ほら、そこに麦茶が入ったグラスがあるでしょ。それをストローで書き換えてね、『どうや。渦を巻いとるやろ。これを、カメラを上下逆さまにして撮影すれば、竜巻の映像が出来上がるんや』なんて特撮をアピールするんだよ。


 で、テヅカさんは、そこの紙ナプキンを何枚も取り出してパラパラ漫画……テヅカさんに言わせればアニメ動画ってことになるんだろけれど。を描き始めてね、『どうです。これがアニメなんですよ。実写でこんな表現ができますか』なんてね。いや、たしかにディフォルメが効いた素敵な表現でしたけれど……物腰は丁寧だけれど喧嘩腰でしてね……


「あの、ベンチャーさん。あたしに用って、ツブラヤさんとテヅカさんの話のことですか?」


「ああ、本題はそうじゃなくてね。ユウシャさんのゴーストの番組の反響がすごくてね。主に悪い方面で。例えば、『モンスターが夜の闇に紛れてお店に不法侵入してる! 許せない』とか、『お墓を寝ぐらにするなんて、死者に対する冒涜もはなはだしい!』とかね」


 ううう、やっぱりそんなふうにゴーストさんの日常は見られちゃうのか。


「おっと、ユウシャさんに責任はないよ。『モンスターさんの生態をありのまま伝えろ』と指示したのはわたしだしね。それに、良い方面の反響もあった。例えば、家の外に洗濯物を夜中にも関わらず、干す家庭が増えたそうだ。それもなぜか女の子向けの可愛い服を、ハンガーにぶら下げてね。それも針金製の細いやつじゃなくて、木でできた干しても服の形が崩れないやつで」


「???」


「おそらく、ゴーストさんが本当にあの番組みたいに服を着ているふりをするのなら、自分の目で確かめてみたい。なんて思っての行動なんだろうね。中には、家の人とゴーストさんとの目があって、ゴーストさんが慌てて逃げたなんて話もあったんだ」


 そんなことをする人間もいたんだ。人間とモンスターも仲良くなれるのかも。


「あるいは、こんな話もある。子供が可愛がっていたペットのお墓を建てた。で、その子供がゴーストさんの番組を見たら、そのお墓の隣にゴーストさん用の寝ぐらをこさえたそうなんだ。なんでも、『ペットのミーちゃんがいつも一人でかわいそう。だから、ゴーストさんが昼間だけでもいっしょにいてくれるのなら、ここで眠ってほしい』だそうだ」


 そうかあ。ゴーストさんの寝場所がきちんとあれば問題は解決しちゃうのかも。


「で、こういうことは個人が勝手にやってもお互いの都合があるからね。そのあたりのマッチングを、わたしのテレビ局とマオウさんが請け負うことにした。もちろん、わたしとマオウさんの関係は極秘だからね。適当な形式はつけておく。例えば、街のはずれにいつのまにかマネキンが何体か立つようになって、そこで街の服屋がなぜか宣伝として自分の店の商品をマネキンに着せた。そこで夜になると決まってゴーストがマネキンに入り込み、見物客もちらほらと……」


「あの、ベンチャーさん。それはゴーストさんの日常がありのままと言う訳ではないような……非常に作為的なものが感じられるんですが」


「おっと、気付いちゃったか。ちなみに、このプランはツブラヤさんとテヅカさんの二人にも話したからね。二人ともおおいに創作意欲をかき立てられたみたいだよ。いやあ、あの二人がどんなテレビ番組を作るのか、今から楽しみで仕方ないよ」


「ベンチャーさん。ツブラヤさんとテヅカさんのイマジネーションのために、あたしにモンスターさんのドキュメンタリーを撮らせたんですか?」


「それだけじゃないよ。モンスターさんのドキュメンタリーを撮れる人間はユウシャさんとモンスターマスターさんくらいしかいないからね。じゃあ、その二人にタッグを組んでもらってモンスターさんのドキュメンタリーを取れば、視聴率は天井知らず。これは社長であるわたしにとってなによりも重要視すべきことだから。ユウシャさんは人間とモンスターの友好のためにおおいに番組づくりにはげんでもらいたい。わたしも裏で力を貸すからさ」


「はあ……」




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