第15話テヅカ
「ほう。ここですか。先ほどの番組を撮影したスタジオというのは。あそこにいるのがゴーストさんですね。なるほど。本物のモンスターを撮影に使えるようになる。これは大変なことになりましたね。私も負けてはいられませんね」
あれ、ツブラヤさんに続いて、また誰かスタジオに来た。誰だろう?
「テ、テヅカ先生。なんでこんなところに」
「おや、そう言うあなたはベンシさんじゃあないですか。たしか、第七回漫画カツベン大会で新人賞を受賞した」
「お、覚えててくださったんですか。新人賞を受賞した程度の僕を。あの授賞式では、僕のほかにもたくさんの受賞者がいたはずですが。それなのに、一番ちっぽけな賞の受賞者である僕をテヅカ先生が覚えていてくださるだなんて」
「当然ですよ。私の漫画をあんな風に活弁されたんですからね。『ずいぶん生きのいい新人が出てきた』と、私はおおいに嫉妬したんですから。『あのくらい私にもできるんですよ』なんて」
「そんな、僕なんてテヅカ先生に嫉妬されるほどのものじゃ……」
今度はベンシさんがかしこまってる。このテヅカさんって人も、さっきのツブラヤさんに負けず劣らずすごい人なんだろうな。こっそりベンシさんに質問してみよう。
「あの、ベンシさん。この方はどなたですか?」
「しっ! ユウシャさん。テヅカ先生の前でそんなことを言ってはいけません」
「どうしたんですか、ベンシさん。お連れの方がどうかされたんですか? ひょっとして、その方私のことを知らないなんてことは……」
「そんな。テヅカ先生のことを知らない人間なんてこの世界にいるはずないじゃないですか。漫画表現に革命を起こして、漫画界の神様と言われるテヅカ先生なんですから。漫画カツベンと言う、漫画の台詞や効果音をアテレコしてお客さんを楽しませるエンターテイメントが誕生したのもテヅカ先生もおかげなんですから。僕が世に出れたのもテヅカ先生あってのことですし」
この人そんなにすごい人だったんだ。それにしても、『私のことを知らないなんてことは……』って、なんだか面倒臭そうな人だな。ベンシさんも、憧れの人に会えて感激していると言うよりは、必死に気を使ってる感じだし。
「そうですよねえ。私のことを知らない人間がこの世にいるはずありませんものねえ。安心しました」
「ち、ちなみに、テヅカ先生はなんでテレビ局にいらっしゃるんですか? 漫画家のテヅカ先生がテレビに興味を持たれるとは」
「それはですね、アニメを作ろうと思いまして」
「『アニメ』? なんですか、それは」
「おやおや、ご存知ないのですか、ベンシさん。ダメですよ。勉強が足りませんね。簡単に言うと、パラパラ漫画のテレビ版ですね。テレビに僕の漫画の絵をパラパラさせるんです。ちょっとずつ動かした絵を素早くパラパラしていけば、その絵が動いているように見えるんです。これまでは幻灯機でスライドを映写してそのスライドを素早く入れ替えることでアニメにしていたんですがね、テレビ! これはすごい。これなら幻灯機よりももっと大衆にアニメを見られるようにすることができると踏んで、テレビ局に飛んできたんです」
「そ、そうですか。テヅカ先生自ら足を運ばれるだなんて」
「おっと、こうしちゃいられない。このテレビ局のベンチャー社長と約束があるんです。それでは失礼しますよ、ベンシさん。わたし、ベンシさんたちの番組に負けるつもりはこれっぽっちもありませんからね」
あ、なんがかんだ言ってテヅカさんも出ていった。それにしても……
「ベンシさん、テヅカ先生って、なんだか凄い人だね」
「そうなんだよ、ユウシャさん。テヅカ先生はね、漫画界に第一人者で、しかも今も第一線でバンバン漫画を出してるんだ。それなのに、僕みたいなペーペーに嫉妬して、それに影響された作品を作り上げちゃうんだよ。大御所が新人に嫉妬して、その新人の作品をインスピレーションの源として新作作り上げちゃうんだから。とにかく普通の人じゃないんだよ。だから、さっきは困っちゃったよ。ユウシャさんがテヅカ先生を知らないなんて言っちゃったら、テヅカ先生はどうなっちゃうことだったか」
普通の人じゃないか。たしかに、エキセントリックな人だったな。
「そして、漫画だけじゃなくアニメなんて文化も作り出す気でいるんだよ。白状するとね、僕、テヅカ先生の説明じゃあアニメがどう言うものかよくわからなかったんだ。『幻灯機』なんて言われてもなにがなにやらさっぱりだよ。でも、テヅカ先生のことだからきっとすごいものを作り出すんだろうな。社長と約束があるなんて……さすがテヅカ先生。テレビ局の社長と会う約束をとりつけられる漫画家なんてそうはいないよ」
その社長に秘密の任務をおおせつかったあたしって……あ、こんなことを考えてたら、その社長から呼び出しだ。なんだろう?
「オペレーターさん、ベンシさん、あたし、ちょっと席を外すわね」
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