第14話ツブラヤ
「お、ここか。なんやおもろいもんやっとったな。そうか。モンスターの映像を人間が撮影する時代になったんか。年は取るもんやな」
あれ、だれかスタジオに入ってきたな。誰だろう?
「ツ、ツブラヤ上官殿! お久しぶりであります! 自分は……」
「ああ、通信兵やっとったオペレーターちゃんやな。さっきの番組の実況しとったな。声でわかったわ。オペレーターちゃんの通信は軍でも評判やったさかいな」
「わ、わたしのような下っ端のことを覚えていただいたなんて、光栄であります」
ずいぶんオペレーターさんがかしこまってるな。話を聞くと、軍の相当なお偉いさんみたいだけど……よし、こっそりオペレーターさんに質問してみよう。
「あの、オペレーターさん。この方はどなたですか?」
「この方はですね、軍で作戦立案用の映像を作成せていらっしゃったツブラヤ閣下なんです。わたしにしてみれば、神さまみたいなお方なんですよ」
「そんなかしこまらんでもええわ、オペレーターちゃん。わしも軍を除隊してこのテレビ局にやっかいになっとる身やでな。しっかし、軍事機密やったテレビがこうやって大衆のものになるんやからな。おちおち引退もしとれんわ。わしの映像が大衆の目に触れるようになるとあっちゃあ、黙っとれんからな」
???
「なんや、お嬢ちゃん。けったいな顔しとるなあ。さてはお嬢ちゃん、軍属やなかったな。軍の間では、テレビは使われとったんやで。こう言った娯楽目的やのうて、モンスターの生態を映像で観察して作戦立案のヒントにしたり、新兵のトレーニング目的やったけどな。せやけど、そうそうほんまもんのモンスターの映像なんて準備できへんからな、わしが特撮でモンスターの映像を作っとったんや」
「『特撮』ですか?」
「お嬢ちゃんにしたら、特撮なんて言葉耳慣れんかもしれへんな。簡単に言うとな、わしはそこにいるゴーストはんを実際に撮影できへんかったから、フィルムに直接傷をつけてな、ゴーストっぽい見せかけの映像を作っとったんや」
「そうなんですよ、ユウシャさん。ツブラヤさんの特撮はもう神業だったんですから。どんなモンスターの映像だろうと人間業で作り出しちゃったんですから」
モンスターの映像を人間だけで作り出す特撮かあ。モンスターの撮影ができないのなら、モンスターを映像で表現するにはそんな方法が必要になるのか。
「フィルムに直接傷つける以外にも、色々な技があるんやで。人間に着ぐるみ着せたり特殊メイクしたりして、モンスターを演じさせたりもしたな。そんな軍事機密やったテレビの技術が一般に公開されたんや。これはゼニが稼げると思うて、ワシらもテレビ局に集団で転職したんやがな……」
『集団で』?
「ツブラヤさん、『ワシら』ってことは、ツブラヤ組が全員テレビ局にいるんですか? うわあ、ツブラヤ組の映像がテレビでも見られるようになるなんて、このオペレーター感激です」
「しかしなあ、モンスターの映像が実際にモンスターを使って撮影されるようになったら、ワシらはおマンマの食い上げかもしれんな。なにせ、ワシらが特撮使わへんでも、ホンマモンのモンスターの映像が撮れるようになったみたいやからな」
あ、そうか。モンスターを人間が演じてたってことは、モンスターがモンスターをそのままやるようになれば、今までモンスターを演じてた人間は用無しになるってこと? どうしよう、そこまでは考えてなかった……
「せやけど、今のところは人間は人間だけで、モンスターはモンスターだけで番組を作っとるみたいやな。そなら、人間が作る番組で人間がモンスターを倒す映像を作るときはワシらの特撮がまだまだ必要になるかもしれへんな。しばらくは食うに困ることはなさそうや。ああ、安心しい。わしは人間がどうとかモンスターがどうとかは興味ないんや。ただ、人間だけでモンスターの映像を撮ることに興味があるだけやからな」
人間がモンスターを倒す番組か。魔王退治を夢見る小さな頃のあたしだったら喜んでそんな番組を見てたかも。でも、今はこうしてモンスターマスターちゃんの仲間のモンスターといっしょに番組を作ることになったわけだし……そんな番組を単純に面白がれないかも。
「オペレーターちゃんやお嬢ちゃんは自分たちで番組を作っていけばええわ。こっちも、ホンマモンのモンスターを使った映像に負けないもん作ったるさかいな。とりあえず、今日のところは戦線布告がてらの見物っちゅうこっちゃな。ほならまたな。あんたらの番組楽しみにしとるで」
あ、ツブラヤさんがさんざん言いたいこと言って出ていっちゃった。オペレーターさんが呆然としてる。
「神様に宣戦布告されちゃった。そんな、ツブラヤさんと番組づくりで勝負だなんて……」
いつもあんなに客観的に実況するオペレーターさんがここまでうろたえるだなんて……あのツブラヤさんって、そんなにすごい人なんだなあ。
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