第13話ドキュメンタリーのゴースト・撮影
マオウちゃんもああ言ってくれたことだし、ゴーストさんの日常生活をありのまま伝えるテレビ番組を作らなきゃ。
「服屋と宿屋のセットできました。撮影準備も完了です」
もう撮影準備ができたんだ。今までモンスターさんは撮影の下働きしかしてなかったなんて話だったけれど、モンスターさんだけでも撮影準備ができるんだ。こんなにすごいモンスターさんが人間と暮らすには、人間の奴隷になるしかないなんてやっぱり間違ってるよ。
「ええと、オペレーターさん、ベンシさん。準備できてますか」
「わたしはいつでも平気です、ユウシャさん。軍の通信兵時代は眠っているところを叩き起こされて、戦闘の状況説明をさせられることなんてしょっちゅうでしたから」
「僕もです。活動弁士だったころは、台本のない戦闘の活弁をしてたんです。いつでもいけますよ」
よおし、これならいけるかも。
「モンスターマスターちゃん。撮影始められると思います」
「あら、そうなの。ゴーストさん、それじゃあ、服屋さんでいつもしていらしたようにやってくれるかしら」
「わかりました、それじゃあわたしがご主人様の仲間になる前にどんなことをしていたかをやらせてもらいます」
「モンスターマスターさん、今、知らせが入りました。人間側の放送に突然問題が発生して、なにか放送できる番組がないか探し回ってるそうです。五分の穴を埋められる番組を。奴隷モンスターの番組でも構わないそうです」
「あら、ちょうどいいじゃない。それじゃあ、今からゴーストさんの日常風景の番組を生放送しちゃおうかしら」
「では、撮影開始です!」
ゴーストさんが服屋のセットに入り込んだ。あ、オペレーターさんが実況を始めた。
「時刻は深夜午前二時。あたりは真っ暗。起きている人間は一人もいません。画面には服屋のショーウインドウが映し出されております。マネキンに様々な服が着せられています。画面に何か映し出されました。なにやらぼやけているようですが。撮影カメラの具合が悪いのでしょうか。いえ、違います。人間の形状をした半透明の姿をしたモンスターが浮遊しています。ゴーストです。服屋にゴーストが入り込んでいます」
うわあ。オペレーターさんがあんなに上手にゴーストさんが服屋に入り込んでいる映像を実況してる。
「さあさあ、あのゴーストはいったいぜんたい何をするつもりなのでしょうか。おおっと、ショーウインドウのガラスをすり抜けた。なんということだ。これがゴーストがゴーストであるゆえんなのか。われわれ人間のはすり抜けられないガラスをああもやすやすとすり抜けました。ゴーストの体はどうなっているのでしょうか。そして、なんとなんとゴーストがマネキンに入り込んだ。マネキンの顔からゴーストが自分の顔を出しています。まるでゴーストが服を着ているようだ。ゴーストは次から次へと試着……という言葉が適切かどうかはわかりませんが、自分を着せ替え人形のようにして楽しんでいます」
ベンシさんも活弁を始めちゃった。オペレーターさんとベンシさんがいなかったら、この映像はたいして面白くないものなのかも……でも、いますごいテレビ番組をあたしたちは作ってるんだ。
「さて、すっかり夜も明けて太陽が顔を出しました。人間が活動を始める時間です。画面はお墓の映像に切り替わりました。ここは、戦死した軍人のお墓です。ゴーストが、木陰に身を潜めています。その体を横たえました。夜中に街をさまよっていたゴーストにとっては、日中が休息の時間となるのでしょうか」
あ、ゴーストさんはお墓に入り込むわけじゃないんだ。これなら、問題にならない……のかな。
「さあさあ、太陽がサンサンと降り注ぐなか、ゴーストが木陰で眠っております。夢でも見ているのでしょうか。ゴーストも夢を見るのでしょうか。そもそも、ゴーストが眠るということ自体、こうして映像で撮影されるのは初めてではないでしょうか。これはとんでもないことです。われわれ人間が知らないモンスターの日常が、こうして今、テレビに映し出されているのです」
あれ、ベンシさんがあたしの方をチラチラ見ながら活弁してる。それにモンスターマスターちゃんもあたしの方を。あれれ、オペレーターさんにスタッフのモンスターさんもあたしの方を……これって、あたしが撮影の終了を宣言しなきゃいけないってこと? たしかに、これは撮影なんだからいつ始めていつ終えるのか決める人がいるはずだけど。
そういえば、あたしが勢いに乗って『撮影開始です!』なんて言っちゃったんだった。なら、少なくともこの撮影はわたしが撮影の終了を宣言しないと。時間は……あ、ゴーレムさんが指を五本立ててる。もう五分だってことなのかな。なら……
「撮影終了です!」
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