第12話ドキュメンタリーのゴースト・打ち合わせ

「それじゃあ、まずはゴーストさんから紹介させてもらおうかしら。ゴーストさん、こちらに来てみなさんに挨拶してくださらない?」


 ゴーストさんか。幽霊さんなんだよなあ。スライムさんとはまた違った感じの半透明の体で向こうが透けて見えて。一体どんな素材の体なんだろう? そもそも素材とかって話なのかな、ゴーストさんの体って。


「こんにちわ。ゴーストです。ご主人さまに仕えてます」


 まあ、いきなりモンスターであるゴーストさんが人間であるあたし達に自己紹介しろって言われても、そうペラペラしゃべれたりはしないわよね。たしかに、これはしっかり打ち合わせした上での番組づくりが必要になるかも。


「ゴーストさん。ゴーストさんは普段どんな生活をしていらっしゃるのかしら。そうね、わたしと仲間になる前の生活の方が、番組づくりには役立つかもしれないわね。人間のわたしと仲間になった後の生活だと、モンスターの日常とは言いづらいかもしれませんから」


 それもそうか。モンスターマスターさんが仲間のモンスターさんとどんな生活をしていたかはそれはそれで興味があるけれど、普通の人間にモンスターの日常を紹介するって言う番組のコンセプトには合わないもんね。さすがモンスターマスターちゃん。それとなく指示するだけでなく、こんなふうにはっきり導くこともあるんだ。ゴーストさんって照れ屋みたいだし、その方がいいのかも。


「わたしはご主人様に仕える前は……人間が寝静まった夜に洋服屋に忍び込んで服を着せられたマネキンに入り込んで、自分が服を着た気になっていました。わたしたちモンスターは人間の服屋で買い物なんてできませんから、そうやって試着みたいなことしてました。あ、これってまずいですよね。不法進入ですもんね。すいません」


 たしかに不法進入と言えばそうだけど……へえ、ゴーストさんはそんなことしてたんだ。モンスターさんにもおしゃれに興味がある子がいるんだな。あたしはどちらかと言うと、。いっつも同じ服装でいいやってタイプだけれど……モンスターさんに衣装をコーディネートかあ。それって素敵かも。


「ほかには……わたしはもっぱら夜行性ですから、昼間は眠ってますね。お墓なんて居心地がいいんですよね。その、人間さんには申し訳ないんですけれど、戦場で戦死して、ご遺体がそこにないお墓とががありまして、そこなんてネグラとしては最高なんですね。やっぱりご遺体があるお墓だと、そのご遺体がゾンビやスケルトンになってる場合もありますし。先客がいると思うと、わたしもちょっと怖くなったりしちゃうんですよね」


 ゴーストさんでもホラーが苦手だったりするんだ。なんだか意外。


「じゃあ、服屋さんのセットとお墓のセットを作ればいいんだな。そこで、ゴーストさんがモンスターマスターさんのの仲間になる前にどういう風に暮らしていたかという番組を作るんだな」


 わ、スタッフのモンスターさんがいきなり建物を作り出した。ああ、そうか、セットって撮影用の建物のことか。でも、わざわざセットを作らなくても、実際にその場所で撮影するわけにはいかないのかな。


「あらあら、スタッフの皆さん悪いわね。そんなに大急ぎで撮影用のセット作っていただいて」


「いえ、モンスターマスターさん。俺たちモンスターに撮影させてくれる場所なんてありませんよ。だから、自分たちで作るしかないんです。それに、人様のお墓で俺たちモンスターが撮影なんかしたら、それこそ『英霊をなんと思ってるんだ』って殺されちゃいますよ」


 そうかあ。モンスターさんが『店を撮影に使わせてくれ』なんて言ったら、普通の人は『何事か? 軒先き貸して母屋までぶんどる気か』なんて不信感持っちゃうのか。それに本物のお墓で撮影なんかしちゃったら……テレビ番組作りって難しいんだな。あれ、でも……


「それなら、ゴーストさんがお墓をねぐらにしてるってこと事態を番組にしたら問題になっちゃうんじゃないですか。人間の中には、『ゴーストは英霊のお墓をネグラにしてるのか。なんということだ。やはりモンスターは人間の敵だ』なんて印象を持っちゃう人もいるんじゃないですか」


「はい、ユウシャさん、黒電話。マオウさんから連絡よ。あたしもユウシャさんと同じことを考えてね、モンスターさんのボスであるマオウさんにさっき連絡したの」


 あたしの思いつくことはモンスターマスターちゃんも思いついてたんだ。それにしても黒電話……テレポート装置を使わなくても、遠くのマオウちゃんと話せるようになったんだ。テレビと言い、黒電話と言い、テクノロジーの進歩ってすごいなあ。


「あのマオウちゃん、ユウシャですけど」


「ユウシャちゃんか。モンスターマスターちゃんから話は聞いたよ。モンスターの日常生活をありのまま伝えてくれ。仮にもし人間側が受け入れやすいようにでたらめな内容を作っても、それではモンスターと人間の共存なんて無理だからね。ユウシャちゃんのテレビ番組を見て、モンスターを襲う人間が出てくるかもしれないが、それは今までと同じことだ。そのあたりの人間に襲われたモンスターの対応はわたしに任せてくれ」




 

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