第10話敵対心

「なんですか、ベンチャーさん。いきなり呼び出して。オペレーターさんやベンシさん、それにモンスターマスターちゃんをごまかすの大変だったんだから。そうだ。モンスターマスターちゃんをテレビの世界に来るよう誘ったなら教えてくださいよ。いきなりテレビ局で会っちゃったもんだからびっくりしたじゃないですか」


「はは、ごめんごめん、ユウシャさん。なにせいろいろ忙しくてね」


「それに、あたしもオーディションに合格したって言うのなら、そう言ってくださいよ。ベンチャーさんがあたしに言ったことって、オペレーターさんとベンシさんを専属女優としてこのテレビ局に連れてくるってことだったから、あたしが専属女優になるなんて思っても見ませんでしたよ。だいたい、ベンチャーさんオーディションをやり直すだなんて言ってたじゃないですか。それなのに、なんであたしが専属女優に合格したってことになってるんですか」


「でも、オーディションに参加したってことは、女優をやってみたくなったってことでしょう、ユウシャさん。『オーディション受けました。合格しました。でも辞退します』と言うのは、ほかの受験者にも申し訳ないんじゃないかなあ」


「それはそうですけれど……」


 なんだかうまく丸め込まれちゃった気がするな。でも、ベンチャーさん、こうして社長室にいると、前と全然雰囲気が違う感じがするなあ。やり手の経営者って感じだから不思議だな。こんな立派なテレビ局の社長さんなんだから当然か。


「で、ユウシャさん。実は困ったことが起きてね」


「なんですか、困ったことって」


「人間側の役者組合が、『モンスターとなんか舞台できるか』と大ブーイングでね。なにせ、役者ってのは、これまで舞台をやってきたから連帯感があってね。がっちり組合を作ってるんだ。経営者としては頭が痛い問題でね。なにせ、テレビってのは新しいメディアだからね。役者側の要望を無下にはできなんだ。出演する役者からボイコットされると、どんな番組を作るかってことになっちゃってね」


 マオウちゃんと一緒にやったあの舞台はすっごく楽しかったのにな。でも、あたしだってマオウちゃんと初対面の戦闘で全滅させられた直後に、マオウちゃんから『いっしょに舞台やろう』なんて言われても戸惑うだろうし……人間とモンスターかあ。なんとかみんなで仲良くできないのかなあ。


「それで、とりあえずモンスターさんはモンスターさんだけで映像を作ることになった。ユウシャさんはどうする? ユウシャさんは別に役者組合に入っているわけじゃないから、モンスターさんと映像を作るも作らないもユウシャさんの自由だけど」


「オペレーターさんとベンシさんに聞いてからでいいですか? ベンチャーさん。オペレーターさんとベンシさんの三人でやっていくってことになりましたから、あたしだけで決めちゃうってのはどうも……」


「ユウシャさんならそう言うと思っていたよ。ユウシャさんは自分一人で先行する『わたしについてこい』ってタイプじゃないからなあ。どちらかと言うと、周りがユウシャさんを盛り立てるタイプで」


「そういうの、あたしよくわからないです。みんながリーダーってどういうものかなんて話をあたしにしてきますけど……あたしも自分がリーダーだなんて言われても、なんだかピンと来ないし」


「わからないならそれでいいさ。頭ではわかっていなくても感覚的にわかってるってこともあるからね」


「???」


「おっと、話が難しくなってしまった。リーダーがどうあるべきかなんて話はこれくらいにして……それじゃあ、モンスター映像の件よろしく頼んだよ」


「わかりました、ベンチャーさん」


 とは言うものの、モンスターさんたちで映像を作るのかあ。いったい、どんな映像を作ればいいんだろう。


「ちなみに、カメラや照明、音響とかの技術スタッフのことなら心配いらないよ。そういうスタッフの仕事でもモンスターさんはこき使われていたからね。わたしがモンスターさんたちに、『自分たちだけで映像作ってみない?』なんて聞いたら、我も我もと参加者が出てきたよ。モンスターにもいい番組を作りたいって情熱を持ったモンスターがいるとわかったら嬉しくなってきちゃってね。いいものを作りたいって気持ちは、人間もモンスターも同じだなんてね」


「スタッフとしてもモンスターさんが参加してもらえるんですか。それは心強いです」


「『奴隷のモンスターがテレビ番組なんて作れるかよ』なんて人間もいるけどね、そんな人間の言うことなんて気にしちゃいけないからね」


「はい、わかりました、ベンチャーさん」


「それでは、ユウシャさん。人間とモンスターさんとの橋渡しを頼んだよ。なに、マオウさんとも仲良くなれたユウシャさんならきっとできるさ。マオウさんは、レトロゲームセカイの運営でいそがしいみたいでテレビには関われないみたいだけど」


 


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