第9話四人の自己紹介

 ふう、なんだかんだあったけど、オペレーターさんにもベンシさんにもオーディション合格を伝えられたな。やっとテレビ局に戻ってこれた。あ、オペレーターさんがいる。


「おーい、オペレーターさーん」


 あ、オペレーターさんがこっちに気づいた。


「あ、ユウシャさん。それに、たしか……ベンシさんでしたっけ」


「あ、どうもベンシです。そちらはオペレーターさんでしたよね」


「あれ、わたしベンシさんに自己紹介しましたっけ?」


「いえ、オペレーターさんに自己紹介されたわけではありませんが、なにせあのトップバッターの印象は強烈でしたから。あの正確無比な実況。僕の活弁とは違うけど、これはとんでもないことをするオーディション参加者がいるな。こんな人間がゴロゴロいるのかと思ったら、合格がとんでもなく高い壁に思えたからね」


「そんな、ベンシさんこそ。あのエンターテイメント性あふれる表現。活弁て言うんですか? わたし、これまでずっと軍にいたから娯楽の方には疎くて。活弁って言うステキなものがあるの、生まれて初めて知りました。あんな表現方法があるのかって思い知らされましたし、自分がいかに井の中の蛙だったか思い知らされましたもの」


 オペレーターさんにベンシさんはこの感じだと、仲良くやっていけそうだな。これであたしもお役御免かな。


「あら、あなたたちが専属女優になるっていう娘さんたちね。わたしは君たちと一緒に番組を作ることになったモンスターマスターよ、よろしくね」


「モンスターマスターちゃんじゃない。どうしてここに?」


「ベンチャーさんにお願いされたのよ。『番組づくりにモンスターを参加させたい。奴隷のような下働きじゃなくて、正式な出演者として』って。わたしも、ユウシャさんといろいろあって作品づくりに興味が出てきちゃったから、テレビの世界に飛び込んじゃおうと思って」


 そうなんだ。モンスターマスターちゃんなら、きっとすごい番組が作れるんだろうなあ。


「あの、ユウシャさん。そちらの方はどなたなんですか?」


「ああ、オペレーターさん、紹介するね。この人はモンスターマスターちゃんで、あたしのちょっとした知り合いなの。すっごくいい人だから、きっといい番組が作れるよ。モンスターマスターちゃん、こちらはオペレーターさん。言葉だけで正確な映像を聞く人にイメージさせられるんだ」


「まあ、それはステキなことができるのね。オペレーターさん。わたしはモンスターマスターです。よろしくお願いしますわ」


「こ、こちらこそよろしくお願いいたします。モンスターマスターさん」


「その、ユウシャさん。モンスターマスターさんの後ろのたくさんのモンスターが引き連れられているようなんですが……」


「そうなのよ、ベンシちゃん。モンスターマスターちゃんってね、いっぱいのモンスターを仲間にしちゃってるんだから。モンスターマスターちゃんがいれば、モンスターさんたちといい番組を作っていけるよ。モンスターマスターちゃん、こちらはベンシさん。モンスターとの戦闘をすっごくドラマチックに表現するんだよ」


「そうなの。それは是非一度お聞きしたいわね、ベンシさん。わたしはモンスターマスターよ。よろしくお願いしますわ」


「ど、どうもご丁寧に。よろしくお願いします、モンスターマスターさん」


 あれ、オペレーターさんとベンシさんがひそひそ話してる。なんだろう?


「ベンシさん。さっきから思ってたんだけど、ユウシャさんってモンスターを回復させたり、あんなにたくさんのモンスターを引き連れてるモンスターマスターさんと知り合いだったりして、けっこうやばい人なんじゃ……」


「オペレーターさんもそう思う? オーディション合格を僕たちに伝えにきたなんて言ってたけど、絶対ただのメッセンジャーじゃないよね。きっと、なにかユウシャさんにはあるはずだよ」


「ねえ、オペレーターさん、ベンシさん、何話してるの?」


「いえ、なんでもありません、ユウシャさん。そうだよね、ベンシさん」


「まったくもってその通りです、ユウシャさん。そうだよね、オペレーターさん」


「二人とも変なの? じゃあ、あたしはこれでサヨナラだから、モンスターマスターちゃん、オペレーターさんにベンシさんをよろしくね」


「あら、わたしはベンチャーさんに三人をよろしくお願いすると言われてたんですけど」


 三人? オペレーターさんとベンシさんと……


「ユウシャさんもベンチャーさんのテレビ局で専属女優をなさるんじゃないんですの? わたしはベンチャーさんにそうおうかがいしましたけど……」


 そういえば……あたし、オーディションを受けに来たんだった。すっかり忘れちゃってたよ。


「あたしも専属女優になっていいのかな? オペレーターさん、ベンシさん」


「わたしはユウシャさんとテレビをやっていきたいです」


「僕も、ユウシャさんとなら、なんだかすごいことが出来そうな気がします」


「決まりね。それじゃあわたしの仲間のモンスターさんもよろしくお願いしますね」


 勇者として魔王討伐の旅をしてたころは、テレビに出ることになるなんて夢にも思わなかったな。あれ? テレポート装置が何か知らせてる。あ、ベンチャーさんが呼んでるんだ。

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