第7話女優オペレーター

 あの後シケンカンさんにオペレーターさんとベンシさんの住所聞きに言ったけど、シケンカンさん面白いくらいに怯えてたな。『社長のお知り合いとは知らずにとんだご無礼を……あ、いや、ユウシャさんと社長がお知り合いであることは極秘だとの社長からのお達しが……』なんて。あんなに怯えさせちゃって。逆にシケンカンさんに申し訳なくなってきちゃったな。シケンカンさんにもシケンカンさんなりの事情があったのかもしれないし……あ、ここがオペレーターさんの住所だ。なにか聞こえてくるな。


「生麦生米生卵! 赤巻紙青巻紙黄巻紙! 隣の客は良く柿食う客だ!」


うわ、凄い。早口言葉をあんなに早口で正確に聞き取りやすく。オペレーターさんって軍の通信兵だって言ってたな。それでこんなふうに早口音葉を言えるんだ。


「あの、すいません。こちら、オペレーターさんの家でしょうか?」


「はーい、そうですよ。なんですか? 今、テレビ局の採用試験の練習で忙しいって言うのに……今日のオーディションはなんだかよくわからないうちにうやむやになっちゃったし。今ドアを開けますよっと……あんたは確か社長の知り合いってシケンカンが騒いでた! な、何か用? うそ! モンスターまで引き連れてるじゃない。これはお礼参り? そうか。わたしもモンスターを大勢殺してきた軍の一員だもんね。そのモンスターによる軍事裁判でもされるのかしら?」


 いえ、オペレーターさん。そうではなくてですね……それにしても、よくもまあここまで達者に口が回るなあ。自分のことまでもここまで詳細に


「そうか、そういうことね。今回のオーディションはフェイクだったってことね。モンスターの殺戮ショーをいかに残虐に表現できるかが裁判の争点となるわけですか。となると、そこのスライムがやられる様をあそこまで冷静に客観的に事実をありのままに言葉で説明したわたしは有罪間違いなしね。『あんな残虐なジェノサイドをあれだけ冷徹に表現するなんて、実に冷酷無比な人間だ』なんてね。さあ、わたしはどんな罰をくだされるのかしら。モンスターに奴隷として送りこまれるのかしら」


 オペレーターさん、自分のことを褒めてるのかけなしてるのかよくわからないなあ。それにしても、裁判がどうのこうのなんて、よくもまあ即興で難しい言葉が出てくるなあ。通信兵って、そんな能力も必要なのかなあ。


「あーあ。軍でのモンスターとの殺し合いに虚しさを感じていた矢先に、テレビの専属女優のオーディションの知らせを見つけて『これだ!』と参加したけどそれがそもそもの罠だったとはね。道理でタイミングが良すぎると思ったのよ」


「オペレーターさん! とりあえず話を聞いてください。とりあえず、中に入れてもらっていいですか?」


「いいでしょう。こうなったら観念しました。さあ、煮るなり焼くなり好きにしてください。部屋に入ってちょうだいな」


「それでは失礼しまして……ええと、あたしはユウシャと申します。こちらはスライムさんたちに、リビングアーマーさん。オペレーターさんが実況されていた戦闘をしていたモンスターさんでして……」


「あああ! 自分たちの殺し合いを実況していたわたしへの復讐に来たんですね。そうです。わたしはスライムがリビングアーマーの装備を溶かす所をそれはもう細かく説明しておりました。さあ、わたしの服を思う存分溶かしちゃってください。そしてその後は……」


 ずいぶんな被害妄想だな。軍ってモンスターにそんな残虐なことしてたから、自分もそんなことをされると思っているのかな。


「落ち着いてください、オペレーターさん。いまスライムさんたちやリビングアーマーさんがオペレーターさんをどう思っているのか話してもらいますから」


「そういうことですか。モンスターが奴隷として人間にどれだけ苦しめられていたかを話すことでわたしを糾弾するんですね。いいでしょう。言葉を生業としてきたわたしにふさわしい罰ですね。甘んじて受けましょう」


「あの、俺たちモンスターはオペレーターさんをどうこうする気はありませんよ」


「???」


「とりあえず、ユウシャさんの話を聞いてもらえませんか、オペレーターさん。俺たちモンスターは、俺たちを回復してくれたユウシャさんの願いを叶えるためにユウシャさんに同行してきたんですから」


「ユウシャさんがわたしに話ですか?」


「そうなんですよ。その、オペレーターさんさえその気ならぜひベンチャー社長のテレビ局の専属女優になってもらいたいんですが」


「それって、オーディション合格ってことですか?」


「そういうことです。ああ、あたし、オペレーターさんの次に自己アピールしたベンシさんにもこのことを伝えにいかなければならないんです。というわけで、あたしはこれで失礼しますから、オペレーターさんはベンチャー社長のテレビ局にぜひ行ってください」

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