第6話オーディション合格者

「それはそうと、ベンチャーさん。さっきのオーディションなんですけど……」


 戦闘描写を克明に言葉だけで表現できて、聞いている人にまるで見ているかのように情景をイメージさせられるオペレーターさんに、戦闘をあんなにエンターテイメントとして表現できるベンシさん。二人とも凄かったなあ。きっとあの二人なら合格間違いなしね。


「ああ、あれはやり直さないとね。あんなシケンカンには任せておけないからね」


 え、やり直しちゃうの? そんなのオペレーターさんにベンシさんが可愛そう、二人ともあんなにすごいパフォーマンスを披露したのに。


「そうじゃなくてですね、ベンチャーさん。あたしの前に自己アピールをした二人がそれはもうすごくてですね。スライムさんとリビングアーマーさんとの戦闘をそれはもう見事に表現されてですね……あ! スライムさんにリビングアーマーさん、ごめんなさい。あんなひどい光景を黙って見ていちゃって」


 あれが演技だと思い込んでたとは言え、スライムさんにリビングアーマーさんがあんなふうに殺し合うのを黙って見ていて……どうお詫びすればいいんだろう。


「そんな、俺たちモンスターを回復してくれたユウシャさんが謝ることなんてぜんぜん」


「スライムさんにリビングアーマーさん。シケンカンは仮にもわたしの部下だ。その部下がしでかしたことは上司であるわたしの責任でもある。良ければ、シケンカンが君たちにどんな命令をしたか教えてくれないか?」


「それは……『お前ら殺しあえ! 生き残った一人を生かしてやる』と言われまして……そう言われたら俺たち奴隷モンスターは従うしかありませんから」


「なるほど。わたしのテレビ局でそんなことが。それじゃあ、その殺し合いをショーアップしたユウシャさんの前のオーディション参加者を、スライムさんやリビングアーマーさんはどう思ってるのかな? 『あんな俺たちモンスターを見世物に仕立て上げる連中、絶対に許さない』なんて思ったりしてるのかな?」


「そんな、俺たちは慣れてますし諦めてますから」


「じゃあ、このオーディション合否の件はユウシャさんとゴーレムさん、そしてスライムさんとリビングアーマーさんに一任しよう。今からそのユウシャさんの前に自己アピールしたって言う二人のところに行ってきてよ。ユウシャさんがそんなにすごいって言うのなら、わたしは専属女優としての採用に文句はないから」


「え、あたしがですか?」


 あたしの意見で、専属女優の人選を決めちゃっていいんですか、ベンチャーさん。


「そう。オーディションに参加してくれて自己アピールまでしてくれたのに、こっちの都合でオーディション中止なんてのはあまりにも申し訳ないからね。そのお詫びにユウシャさんが行ってもらうと考えてくれればいい。その上で、その二人がわたしのテレビ局に専属女優として参加してくれると言うのならば、それはわたしとしては文句のありようもないさ」


「あ、あたしはそれで構いませんけれど……スライムさんにリビングアーマーさんはそれでいいの? 自分をあんなふうに見世物扱いにした人間に会いに行くなんて嫌じゃない?」


「俺たちは、ユウシャさんが『来てくれ』と言うのなら、一緒に行きますが」


「そ、そう、ありがとう。ゴーレムさんは……」


「自分は魔王様に命令されてユウシャ様のお世話をさせていただいております。もちろん同行させていただきます」


 わ、ゴーレムさん。あたしがお願い内容を言わないうちに『同行させていただきます』なんて言っちゃった。ほんと、マオウちゃんの命令に忠実だなあ。それにしても、あたしたちに一任かあ。そんな、一任なんてされなくても、あの二人、凄かったもんなあ。ああいう人が女優になるんだろうなあ。あんなに素敵な二人をオーディションに落選なんてさせるわけにはいかない。あたしがなんとかしなきゃ。


「それで、ユウシャさん。これからもこの社長室にちょくちょく来てもらうことになると思うけれど、一応わたしとユウシャさんは知らない間柄でいくってことになったから。これ、テレポート装置。これでこの社長室にテレポート出来るようになるから。でも、来る前に連絡はしてね。いきなり来られたら、わたしもどんなハプニングが起こるかわからないからさ。こちらからユウシャさんに連絡したいときは、そのテレポート装置で連絡するから」


「わかりました、ベンチャーさん。それじゃあ、ゴーレムさんにスライムさんたちにリビングアーマーさん、いこうか。ベンチャーさん、とりあえず失礼します」


ベンチャー・ユウシャたちがテレポートした後独り言を言う


「やはりユウシャさんは掘り出し物だったな。あれだけの逸材を引退したままにしておくなんてもったいないにもほどがある。ユウシャさん以外にも、引退している逸材はたくさんいるんだ。その逸材がわたしのテレビに出演してくれるななら、テレビは間違いなく娯楽の王様になる」


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