第5話ビジネスパートナー

「どういうことですか、ベンチャーさん。ビジネスに利用できるって?」


「落ち着いてくれ、ユウシャさん。一から説明する。しばらく現役を引退していたユウシャさんには、今の世の中がどうなっているかよくわからないだろうから説明させてくれ」


「はあ、わかりました」


 しばらくって言っても、そんなには経ってないと思うけど、そんなに世の中いろいろ変わっちゃったのかなあ。


「まず、モンスターを生きたまま捕獲する技術が発達したんだね。モンスターが人間をさらうことがある。それに対する手段として、人間がモンスターを生け捕りにして人質を交換する慣習ができたんだ」


 そういえば冒険してた頃、モンスターにさらわれた女の子を助けたことがあったな。そのモンスターは、女の子と結婚しようとしてたみたいだったからあたしたちが倒しちゃってめでたしめでたしってことになったけど……モンスターと人間の結婚自体はおかしくないし、モンスターを倒さずに交渉で解決するのなら、そのほうがいいのかな?


「ところが、人間がモンスターを生け捕りにできるようになると、モンスターを安価な労働力として売買する商売が誕生してね。奴隷商人の誕生というわけだ。人間にしてみれば、憎たらしいモンスターを奴隷としてこき使えるんだからこんないいシステムはないってことでね」


 う、あたしもモンスターさんには結構お世話になったし……モンスターを労働力としてみていたのかも……


「そしたら、モンスターを奴隷として人間と取引するモンスターなんてのもでてきてね。もう奴隷商売は一大産業さ。そんな中で、人間とモンスターはともに手を取り合って生きていける仲間だなんてわたしのような人間が言ったら、そりゃあ大騒ぎになるんだ」


 モンスターを人間に売り飛ばすモンスターと、そのモンスターを奴隷としてこき使う人間かあ。もう、人間が悪いのか、モンスターが悪いのかわからなくなってきちゃったよ。


「大騒ぎになれば、わたしのテレビ番組を見る人間が増えるということだ。これはわたしのビジネスにとって非常に都合がいい。そんなわたしの意見に賛同してくれるモンスターさんがいてね、紹介しよう、ユウシャさん。と言っても、二人はすでに顔馴染みなんだけどね」


「どうも、ユウシャさん。ゴーレムです」


「あ、ゴーレムさん。どうしてここに?」


「自分は魔王様にユウシャさんの世話を仰せつかっております。ユウシャさんがこのテレビ局の専属女優になるというのでしたら、自分もお伴します。魔王様の許可はすでにいただいております」


「あ、ごめんね。そうだよね。そうなるか。ゴーレムさんにオーディション受けるなんて言って出てっちゃった時にゴーレムさんなんだか考え込んでたけどそういうことだったのか。ゴーレムさんも一緒にいこうって誘うべきだったね」


「ところが、話はそう単純じゃないんだ、ユウシャちゃん」


「どういうことですか、ベンチャーさん」


「この世界ではさっきのシケンカンのような人間が多数派だ。となると、暴力に訴えようとする人間も出てくる。それに対して、ゴーレムさんにはけっしてやり返さないでほしい。ただじっと耐えて欲しいとお願いした。それができないようなら、申し訳ないけどこのテレビ局にはいさせられないとね」


「え、だって、それじゃ……」


「いいんです、ユウシャさん。そんな時にやり返したら、どうせ『モンスターはやっぱり乱暴者なんだな』と思われてしまいます。それに、このテレビ局でモンスターである自分が働くことは、人間世界でもモンスターが働けることを証明するチャンスなんです。ベンチャーさんは自分たちモンスターを利用するとおっしゃられましたが、自分もベンチャーさんを利用させてもらうつもりです」


 理屈はわかるけれども……それじゃあゴーレムさんがあまりにも大変と言うか、一人でしょいこみすぎと言うか……


「と言うように、人間とモンスターの関係はややこしくてね。そこで、ユウシャさんにお願いがあるんだ。ユウシャさんにモンスターが人間をどう思っているか探って欲しい。これは、ゴーレムさんにもこれだけ忠誠心を持たれているようなユウシャさんにしかできない役割だとわたしは思うんだけどね」


「そんな、あたしにしかできないなんて……それに、ゴーレムさんはマオウちゃんに忠誠心を持っていて、そのマオウちゃんに命令されたからあたしの世話をしてくれているわけで……」


「前者はともかく、後者は本当にそうかなあ? ゴーレムさん。君は、マオウさんに命令されたと言うだけの理由で、『人間に暴力を振るわれてもやり返してはいけない』と言う理不尽なわたしのお願いを聞いてくれたのかな」


「だから、『自分はベンチャーさんを利用する』とさっき言ったじゃないですか」


「おっと、そうだった。モンスターであるゴーレムさんがユウシャさんをどう思っているかはこの件には一切関係ないかもしれないしね」


 ベンチャーさんは何を言ってるんだろう? ゴーレムさんがあたしをどう思ってるか? そりゃあ、ゴーレムさんとはいろいろあったけど……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る