第4話社長室にて
「なんの騒ぎだね、騒々しい。これはどう言うことだね、シケンカン君。オーディションの件は君に一任していたはずだが」
「これはこれは、ベンチャー社長。よくいらっしゃいました。いえ、なんでもありません。少々問題のあるものがオーディションに参加しておりまして……すぐつまみだしますので。おい、だれか。この人間のくせにモンスターに味方する裏切り者を放り出せ」
「ほう。その裏切り者とやらをこの場から立ち去らせる役なら社長であるわたし自らが引き受けよう。そう言うことだから、ユウシャさん。少し付き合ってもらえますか。もちろん、ユウシャさんが回復したスライムさんとリビングアーマーさんに、後ろの方で控えていらっしゃるスライムさんもご一緒に」
「そんな、社長がそんな汚れ仕事をなさらずとも……ユウシャさん? あの、ベンチャー社長、その方をご存知なので?」
「そうだよ、シケンカン君」
「そ、そういうことだったんですか、ベンチャー社長。いや、社長もお人が悪い。社長のお知り合いなのでしたら、即採用ですよ。こんなオーディションやる必要なんてありませんよ。さあ、オーディションは終了だ。いますぐ撤収作業に入れ」
「バカモン! 貴様は何もわかっとらんようだな。そういうコネ採用が嫌だったから、わたしはこのオーディションに何も口出ししなかったのだ。どうやらそれが裏目に出たようだな。ユウシャさん、申し訳ありませんでした。ユウシャさんがわたしの知り合いだと言うことを表ざたにするとこう言うことになるので秘密にしておいたのですが……まさか、こうなるとは。それではユウシャさんにスライムさんにリビングアーマーさん、行きましょうか」
「社長。申し訳ありませんでした。クビだけはご勘弁を。このシケンカン。ここを追い出されたら行くところがありません。なにとぞお慈悲を。寛大なる御処置を」
ベンチャーさんって、仕事場だとこんな人なんだ。仕事の鬼って感じで。プライベートをビジネスに持ち込まない仕事人さんなんだ。普段のベンチャーさんとはなんだか感じが違うなあ。
「さ、ユウシャさんにスライムさんにリビングアーマーさん。ここが社長室です。どうぞお入りください」
「その、社長さん……せっかくなんですけれども、俺たちみたいなモンスターが社長室に入るわけには……俺たちモンスターにはモンスター専用の場所がありますし……
「そんなものはないよ。このわたしのテレビ局には人間とモンスターを区別する場所はない。ほかのテレビ局はどうだか知らないがね」
「その、スライムさんにリビングアーマーさん。この人はべンチャーさんって言ってね、いい人なんだよ。わたしも最初は勘違いしちゃってひどいことを言っちゃったことがあるんだけど、それを水に流してくれた優しい人なんだから。ちなみにあたしはユウシャ。よろしくね」
「俺たちモンスターを回復してくれたユウシャさんがそう言うのなら……」
「話はまとまったようだね。それではわたしの社長室にどうぞ」
うわあ。すごい立派な部屋。ベンチャーさんの会社って、思ってたよりもずっと大きい会社だったんだなあ。
「ユウシャさん。さっきは申し訳ないことをしたね。なにせ、会社の規模が急に大きくなって、わたしも目が回りきらないんだ。で、中にはさっきのシケンカンみたいなのも出てくるんだな。まあ、人間界全体で見れば、シケンカンみたいな人間の方が多数派なんだけどね。人間とモンスターは同じ仲間だなんて考えを持つ人間は少数派だからねえ」
「あたしは全然気にしてrませんけど……スライムさんたちやリビングアーマーさんは平気? あたしの回復魔法で回復した?」
「そ、それはもう。人間に俺たちモンスターが回復魔法をかけてくれるなんて初めてのことですけど……もうだいじょうぶです。それに、こんなことしょっちゅうですから」
かくいうあたしも、魔王征伐の道中はさんざんモンスターを倒してきたんだとね。色々あってモンスターさんとも仲良くするようになったけれど。
「ところで、ユウシャさん。社長であるわたしとユウシャさんがこういう関係だってことを、おおっぴらにしたほうがいいと言うのなら、わたしはそうしてもいいんだけど……どうする?」
「いえ、そんな、必要ありません」
「ユウシャさんならそう言うと思っていたよ。なら、わたしたちの関係は秘密のままということにしよう。そのほうがいろいろ都合がいいしね。スライムさんたちに、リビングアーマーさんも内緒にしてくれるかな」
「わ、わかりました。それに、俺たちモンスターの言うことなんて、人間は聞く耳持ちませんよ。あ、これはその、人間への悪口とかそういう話ではなくて……」
「聞いての通りだ、ユウシャさん。まだまだこの世界には、人間とモンスターの深い壁がある。わたしはそのことに関して思うところがある。これはビジネスに利用できるとね」
人間とモンスターの間の深い壁かあ。そんなもの、なくなってしまったほうがいいに決まってるよね……ビジネス?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます