第3話採用試験・ベンシ

「では、僭越ながらこの僕がやらせていただきます。僕はベンシと言います。よろしくお願いします」


「そう、ベンシさんね。それじゃあ、戦闘始めちゃって」


 あ、また別のスライムさんが出てきた。これで三人目だよ。いったいどうなってるの?


「さあ、スライムがその身をヒーローの前に表した。その姿は半透明で向こうが透けて見える。しかし、異形のモンスターと言うわけではなく、その姿は人間とよく似ている。シルエットだけで判断するならば、人間と同じといっても差し支えないかもしれないぞ。違うといえば、服を着ている様子がないと言うことか。その体は不透明のゲル状で、全裸と言えば全裸なんだろうが、人間の全裸とはまるで様子が違う」


 うわ、さっきのオペレーターさんとは全然違う。オペレーターさんが『スライムが現れた』だけで済ましたところを、スライムさんの様子を事細かに表現している。そうか。わたしや軍のようにモンスターとの戦闘に慣れてたら、『スライム』って言われたら、『ああ、あのスライムね』ってわかるけど、そうじゃない人もいるからああ言う風に逐一表現する必要もあるのか。


「そのスライムが、ヒーローに向かって突進していく! その半透明の姿には骨格がある様子はないのに、その走る姿のメカニズムは我々人間とそっくりだ。いったいどうなっているのか。髪が走る勢いでたなびいている。しかし、はたしてあれを髪と表現して良いのでしょうか? 髪といっても、ほかの体の部分と同様に半透明のゲル状の物質なのだが……おおっと、その姿を球体状に変化させてと思ったら、そのままヒーローにぶつかり、ヒーローを自らの体内に取り込んだ。ああ、しかし、なんとなんと、すぐさまヒーローの後ろ側から抱きつき、ヒーローの首を両手でスリーパーホールド、ヒーローの胴体を両足で締め付ける格好になった」


 すごい。すらいむさんの不定形の体を活かした戦い方もすごいけれど、それよ言葉で面白おかしく表現するベンシさんもすごい。


「さあ、ヒーローの運命やいかに? このままスライムに絞め落とされてしまうのか? あああ、なんとなんと。ヒーローの両手が外れたぞ。どういうことだ。その鎧の内部は空洞だ。空っぽです。ああ、地面に落ちたヒーローの剣に、両手がもげたヒーローが、自分にまとわりついたスライムを押し付けているぞ。これは、地面の剣の刃にスライムがその体を切り裂かれているのか」


 ヒーローって、人間じゃないよ! あれって、リビングアーマーじゃない。何が人間側よ!


「スライム、その体を切り刻まれていく。くっつくか? 切り裂かれたスライムの体はくっついて元に戻ったりするのか? ゲル状の物質で体が構成されていると言うのなら、それも可能なのか? スライムの体が……くっつかない。スライムの体はバラバラのままだ。これは勝負ありです。ヒーローの勝利です。ヒーロー、外れた自身の両腕を再び肩につけると、勝利のガッツポーズ!」


「いやあ、お見事お見事。さっきの事実を客観的に言葉で表現したオペレーターさんも見事だったけれど、ベンシさんのエンターテイメント性あふれる話術も見事でしたね」


「ありがとうございます、シケンカンさん。僕は活動弁士をしておりました。モンスターの討伐に行く冒険者に同行して、その戦闘を実況して見物客を楽しませていました」


「ほう。活動弁士ですか。それならばあの愉快な表現も納得です。それにひきかえ、そこのリビングアーマー! 何事ですか! 自ら両手を外して危機を脱するなんて。お前は人間の役どころと説明したじゃないか! 人間にそんな真似ができるか! いいか、お前らモンスターの仕事は、人間がやらないような危険な仕事なんだ。リハーサルをお前らモンスターで済まして。危険がないとわかって始めて、我々人間様の撮影が開始されるんだ。もういい、お前はクビだ。そのへんでのたれ死んでしまえ!」


「あんまりです! スライムさんにリビングアーマーさんが可哀想すぎます! スライムさん、リビングアーマーさん、今回復呪文をかけますからね。あたしも回復呪文は得意な方じゃないけれど……」


「何をやっているのです、そこの受験生! このシケンカンはそんな指示は出していませんよ。だいたい、モンスターを回復させるなんて、お前はそれでも人間か! モンスターは我々も人間の敵なんだぞ。そいつらは、人間に襲いかかったところを返り討ちにして奴隷にしたんだ。そいつらは我々を殺そうとしたんだぞ。そんなやつらを奴隷として使って何が悪い! 生かしてやっているだけでも感謝されることこそあれ、非難されることなどこれっぽっちもない」


「そんな、モンスターさんだって悪いモンスターじゃないんです。モンスターが人間を殺そうとするのにはきちんとした理由があるんです。それなのに、こんなひどい扱いをするなんて……」

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