第2話採用試験・オペレーター
ふう、ベンチャーさんに誘われてテレビ局専属俳優のオーディションを受けにきちゃった。どんな試験方法なんだろう? わ、なんだか偉そうな人が出てきた。いかにも、『わたしが選ぶんだ。お前らは選ばれる立場なんだから、そのあたりをわきまえておくんだぞ』って感じの人だ。
「はい、今回の皆さんのオーディションを担当させて頂くシケンカンです。皆さんのオーディション方法を説明させていただきます。今から、人間とスライムが戦闘をします。皆さんはそれを見て、お好きなように自分をアピールしてください。以上です」
うわあ、言葉遣いは丁寧だけど、ビジネスライクと言うか……言葉も短いし。『お前らじっぱひとからげに割く時間なんてわたしにはないから、さっさと済ませたい』って感じがビンビンに伝わってくる。あたしたちひとりひとりを育てる気なんてまるでないみたい。『うちには新人を育成する余裕なんてないから。即戦力って言うのなら、採用してやらなくもないけどね』なんて言われてるみたいだ。
あれ? え? 自分をアピールって……そんなのどうすればいいかわからないよ。あ、人間とスライムが戦い始めた。なんだか本気で戦っているような……ううん、そんなことないよね。だってこれって、テレビの役者のオーディションなんでしょ。そのオーディションで本当の戦闘なんてするはずが……あ、スライムさんがやられちゃった。でも、これってお芝居なんでしょ。スライムさんもすぐに起き上がって……あれ、別のスライムさんが出てきちゃった。
「シケンカンさん。ではわたしから自己アピールをやらせてもらってよろしいでしょうか?」
「お、自分からトップバッターを志願するとは威勢がいいですねえ。気に入りましたよ。それじゃあお名前をうかがわせてもらおうかな」
言葉では調子の良いことを言ってるみたいだけど、この人なんだか信用できなさそう。
「オペレーターと申します。軍で通信を担当しておりました」
「なるほど、オペレーターさんね。それでは、人間とスライムの戦闘を始めますから……」
「その前に、人間側をなんと呼べば良いのか教えてもらえますか。コードネームでもなんでもよろしいですから」
「いいねえ、その用意周到っぷり。人間側の呼び方を確認するなんて、準備の仕方をわきまえてるじゃないか。それじゃあ、仮に人間側はヒーローと呼んでもらおうかな」
人間がヒーローか……それにしても、あの人間さんも演技にしては目のあたりの雰囲気が血走っていると言うか殺気立っていると言うか……あれ、人間なのかな、あの人? 全身が装備品に覆われててわかりにくいな。肌の部分がどうなってるかもわかりにくいし……
「わかりました。ヒーローですね。それでは戦闘を始めてください」
「それでは、戦闘始めちゃって」
「スライムがヒーローに向かっていく。そのスピード人間の全力疾走と同程度。ヒーロー避けない。ヒーローその場にじっと立ったまま。その避けないヒーローにスライムがまとわりつく。ヒーローの首筋をスライムが両手で抱きしめた。ヒーローの右足にスライムが両足をからみつける。ヒーローの顔にスライムがその顔を押し付ける。ヒーローの装備が溶かされていく。盾がみるみるうちにスライムの溶解液で溶かされていく。盾が全て溶かされてしまった。ヒーローの鎧も溶かされ始めている。ヒーローがスライムを振り払った。スライム、地面に倒れこむ。スライム動けない。ヒーローがスライムに右手に持っら剣で斬りかかる。スライム斬り伏せられた。スライム動けない。死亡してはいないようですが、気絶してしまっている様子です」
「はいオッケー。見事なものだねえ。オペレーターさん。戦闘を言葉で忠実に表現できていますね」
「そうですか、ありがとうございました。わたしは軍で戦闘状況を音声で伝える通信兵をしていましたので、戦闘描写を言葉だけで相手に伝える能力には自信があります。戦場では、映像を相手に伝えられませんので、言葉だけで情景描写をする必要があるんです」
「なるほど。見事な自己アピールありがとうございました」
あれ、さっきのスライムさんとの戦闘と様子が違ったような……さっきはまず人間からスライムさんに襲いかかってたし……それに、さっき人間にやられたスライムさんもさっきから地面に倒れっぱなしだし。これってお芝居のオーディションじゃないの?
なんだか、人間側も疲れ果てているような……そりゃあさっきと合わせて二回も戦ったんだから疲れるだろうけれど……それにしても疲れすぎと言うか……まるで実戦を連戦でし終えたように肩で息をしているし。
これって舞台のお芝居の演技なんじゃないの? なんだか、本気で戦ってるように思えてきちゃったんだけれど……
「それでは、次に自己アピールをしたいと言う方はおられませんか?」
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