ユウシャちゃんねる テレビ撮影で虐げられているモンスター娘を救済します

@rakugohanakosan

第1話白黒テレビ

「ユウシャさん、大変なことになりました」


 あ、ベンチャーさんだ。テレビを発明したすごい人。でも、大変なことってなんだろう?


「ユウシャさんにお見せしたテレビはカラーでしたよね。しかし、部品の供給の都合上で……テレビの画面を白黒にせざるを得なくなってしまったのです」


「え、でも、じゃあ、今まで販売されたテレビはどうなるんですか?」


「今までカラーで映っていたテレビも白黒でしか映らなくなります。テレビ放送が白黒のものしか行われなくなりますので」


 そうなんだ。テレビが白黒画面になるのか。なんだか部品の供給とか大変そうだなあ。


「それで、ユウシャさんに頼みごとがあるんですけれど……」


「なんですか、なんでも言ってくださいよ」


「われわれは普段ものをカラーで認識していますよね。それを白黒の画面にするわけですから、どんなふうにカラーのものが白黒になるか試してみたいんです。カラーでは華やかなものが、白黒になると地味になってしまうかもしれませんので」


「はあ、それはわかりましたけど、具体的にあたしは何をすればいいんですか?」


「ユウシャさんに、いろんな服を着ていただきます。それを白黒の映像にして、どんな衣装が白黒で映えるか確かめたいんです」


「えええ、いろんな衣装ですか、ベンチャーさん? ですが、あたしは冒険を始めた頃からずっとこの衣装でいましたから、そんな着せ替え人形みたいな扱いをされてもですね……」


「いいじゃないですか。『なんでも言ってください』とユウシャさんはおっしゃられたじゃないですか」


「それはそうですけど……」


「ではまずこの衣裳です。白を基調としたセーラー服に黒のスカート。女学生の定番ですね。この服をユウシャさんが着て白黒の映像にすると……」


「わ、いつのまにかあたしの服がセーラー服に。あれ、あたし、いつのまに着替えたんですか?」


「何を言ってるんですか、ユウシャさん。服なんて装備を変更するくらいの手間で着替えられますよ。ユウシャさんが皮の鎧から鉄の鎧に装備を変更する際、特別な着替え場所に引っ込んだりしていましたか? していなかったでしょう。服の着替えもそれと同じです。着替えなんて、いつでもどこでも誰の前でもパパッとやっちゃうもんなんです。しかし、ユウシャさんのセーラー服姿……これは」


「なんですか、ベンチャーさん。何かおかしいところありますか?」


「いえいえ。ユウシャさんの可愛らしさが白黒になると、これはこれで引き立ちますねえ。では次です。水着です。白黒テレビで水着の女の子はどのように映し出せれるんでしょうか?」


「あの、ベンチャーさん。ずいぶん際どい水着のような気がするんですが……」


「何言ってるんですか、ユウシャさん。このくらいの露出度、センシさんのビキニアーマーと似たようなものじゃないですか。さあ、着替えてください」


「ううう、海にいるわけでもないのに、なんで水着姿に……しかもカメラで撮影されちゃって……」


「なるほど。白黒映像では水着姿はこのように映し出されると。いいですねえ。ではお次はバニーガール衣装といきましょうか。うさ耳バンドに網タイツで完璧なコーディネートです」


「バニーガールですか……それってアソビニンちゃんがいつも着てる衣装だから、アソビニンちゃんを撮影した方が早くないですか?」


「ダメです。ユウシャさんがいろんな衣装を着るから意味があるんです。さあ、とっとと着替えてください」


「こんな衣装、モンスターと戦ってた頃は着たことなかったのに」


「ほうほう。これはいいですね。水着ほど露骨でもなく、かと言ってセーラー服よりもずっと色っぽい。映像に花を添えるのに、これはうってつけの衣装かもしれませんね」


 なんでこんなことに。なんだかんだで魔王討伐の冒険を辞めて引退生活を送ってたのに。テレビなんてものが発明されてちょっと興味を示した途端にこの仕打ち。あんまりだ。


「いいですねえ、ユウシャさんは実に画面映えしますよ。どうですか、今度うちの放送局で専属の役者を募集するんです。それに参加してみたらいかがですか?」


「え、そんな、これまで冒険ばかりしてきたあたしが役者だなんて……」


「これからはテレビの時代になりますよ。『あんな小さな箱でちまちま動いているのを見て何が面白いんだ。演劇は生で舞台を見てこそだ』なんて言う輩もいますがね。一家に一台テレビがあるような時代になれば、そんなことを言う人間はいなくなりますよ」


 テレビの時代かあ。たしかに、家にいながら遠く離れたところの映像が見られるんだから、これからどんな風に世界が変わっていくか想像もつかないや。そんなテレビに、あたしが少しでも関われたら……


「その気になったみたいですね、ユウシャさん。ではこれ、募集要項です。ぜひ参加してくださいね。お待ちしてますから」

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