第85話 驚き桃の木山椒の木
サイラスの誇るギルドホームである
「おい! おい! 何を考えてんだよ! 殺人事件なんて……。そんな依頼をなんで受けたんだ?」
ルーアからの追求にリディアはそっぽを向きながら答える。
「……ただの気まぐれだ」
「なんだそりゃ!?」
「落ち着けよ。ルーア。……でも、師匠。本当になんで……。殺人事件なんて……。解決できるんですか?」
「わからん。とりあえずは事件を探るところからだ。事件は十年前に起こったらしい」
「十年前……ですか? そんな昔の事件じゃあ、どこから調べれば――」
カイが困惑しているとルーがある情報を伝える。
「えーっと。実は追加情報があります」
ルーの言葉にカイ達の視線が集まる。その場にいる人間の視線を一身に浴びながらもルーはいつも通りの人当たりの良い笑顔で説明を続ける。
「実は、この事件の発端は十年前ですが……。ここ最近、また同じ事件が起こっているそうなんです……」
「えっ!? 最近って……。もしかして、裏通りで起こった?」
「はい……。殺人の手口が酷似していることから間違いないかと……」
神妙な面持ちで伝えるルー。その言葉を真剣に聞くカイ。そんな二人に対してあらぬ方向から疑問が投げかけられる。
「おいおい。ちょっと待てよ。十年前なんだろう? 同じ奴なのかぁ? たまたまじゃねぇーのか?」
「うん。ルーア君に同感。十年前と同じ手口だとしても、模倣犯や愉快犯の可能性も考慮した方がいいわ」
ルーアとクリエからの疑問にルーも同意するかのように小さく頷きながら口を開く。
「えぇ……。お二人の言うことも一理あります。……ですが、恐らく犯人は同一犯だと思われます」
ルーアとクリエの意見を肯定しながらもルーは十年前の犯人と現在起こっている事件の犯人は同じと確信めいたように告げる。そんなルーの言葉に全員が疑問を持つ。
「ルーさん……。何か証拠があるんですか?」
「……証拠というよりは……、襲われている人……。つまり、被害者が関係します」
「被害者?」
ルーは頷きながら、申し訳ないというような表情である二人を……クリエとパフを見た後に口を開く。クリエとパフはルーからの視線を感じながらも意味が分からないため、不思議そうに首を傾げる。
「……実は、この事件の被害者は――」
「待って下さい!」
突如としてカイ達の後方、つまり
「すみません。お話の邪魔をしてしまって……。ですが、ルーさん。その話は――」
一度言葉を切ったアルベインは周囲に視線を走らせた後に言葉を続ける。
「――できれば、内密に……。そうですね。会議室を使わせてもらってもいいですか?」
「……わかりました。では、みなさん。会議室の方へ移動しましょうか?」
こうして、カイ達はルーに案内されて
「……まずは、確認をさせてもらいたい。ここにいる全員が依頼を……つまり、サイラスの殺人事件を解決するために動くと思っていいのかな?」
確認を求めるアルベインの言葉にクリエ、ナーブ、アーロの三人は驚く。
「えっ!? 何で? 私はただリディアさんに用があったからついて来ただけよ! 殺人事件を解決する暇なんてないわ!」
「あ、あの……、僕もクリエ先生のお伴をしているだけですので……、先生が関わらないのでしたら遠慮したいのですが……」
「わ、私も……困る! 殺人事件なんて……私には王から受けた使命が――」
クリエ、ナーブ、アーロからの言葉にアルベインは理解したとばかりに頷く。
「わかりました……。では、お三人には退室して頂きます。リディア殿に御用事ということなら下で待って頂いてもよろしいですか?」
「まぁ……、いいけど……。じゃあ、みんな下で待ってるね」
「失礼します」
「……リディア殿。王都へは――」
「行かん!」
アーロの遠慮がちな勧誘を一刀両断するような力強い言葉でリディアは否定する。その言葉にアーロはまた涙目になり、すがるような視線をカイへと送りながら部屋を出る。
(……アーロさんの視線が痛いなぁ……。ま、まぁ、とりあえずは依頼の追加情報を聞いてからだな……。うん。順序よくいこう。決して、アーロさんのことを後回しにするわけじゃない! うん! そんなことはない!)
カイは面倒そうな問題を後回しにする自分に軽く言い訳をしながらアルベインへと視線を移す。
「さてと……。では、事件について説明させてもらうが? 準備はいいかい?」
「はい。お願いします」
「頼む」
「あー、眠い……」
アルベインからの確認にカイ、リディア、ルーアはいつも通りに、パフは少し緊張した面持ちで頷きながら話を聞く姿勢をとる。そんな四人を見てアルベインは少しだけ苦笑すると真剣な表情となり、事件の経緯を語り出す。
今から約十年前に、サイラスの街中で無差別による殺人事件が勃発する。当初は偶然、もしくわゆきずりによる犯行とも思われていた。しかし、捜査が進むにつれてある共通点が発覚する。一つは、殺害方法が異様なこと。殺害された人の多くが原型を留めないほど八つ裂きにされていた。二つ目は、犯行時間が夜間帯の裏通りということ。最後に三つ目、これが犯人が同一と決定づける要因だ。
「三つ目は何なんですか?」
「……それは――」
アルベインが躊躇していると感じたカイが急かすように尋ねる。だが、アルベインの表情が優れない。カイ、リディア、ルーア、パフからの視線を浴び続けたアルベインは意を決して話す。
「――共通点は、殺害された人物が全員――」
◇◇◇◇◇◇
「もぉー! 男なんだからうじうじしない! 鬱陶しい!」
「せ、先生……。落ち着いて下さい……」
「いえ……、仰る通りです……。こんな子供にも心配されるとは……」
「誰が子供よ! 私はハーフエルフで九十九歳なんだからね! あんたよりも余程――。って! 人の年齢を勝手に聞き出すんじゃないわよ!」
見事な自爆を果たしたクリエが一人で騒いでいると。ルーが笑いながら近づいてくる。
「うふふふ。クリエちゃんは相変わらず元気ねー。でも、もう少し静かにね? 周りの人に迷惑よ?」
「……あー。ごめんなさい。ルーさん」
「すみません……。先生がご迷惑を……」
「いえ……、彼女達のせいではありません……。私がいけないのです……」
「あんたねぇ……。いい加減に立ち直りなさいよ」
「まぁ、まぁ、先生」
クリエ達を見ていたルーがアーロに対して首を傾げと。クリエに対して質問をする。
「そういえば、クリエちゃん。この方は、どちら様ですか? 新しく
「えっ? 違いますよ。この人は……。あれ? なんだっけ?」
「先生……。この方は王都からリディアさんを迎えに来た使者の方ですよ……」
「あぁー! それそれ!」
思いだしたクリエが何度も首を縦に振る中、ルーが少し驚いて声を出す。
「あー! あなたが、リディアさんの言っていた」
「うん? リディアさんが何か言ってたの?」
「はい。今回の依頼を受けたのは、その人から逃げるためみたいですよ?」
『えっ……?』
ルーの何気ない一言にクリエ、ナーブ、アーロが一様にルーに注目する。注目されているルーはいつもと変わらない笑顔で説明を始める。
◇◇◇◇◇◇
一方、会議室では重苦しい雰囲気が漂う。事件の概要を知っているアルベインだけでなく説明を聞いているカイ、リディア、ルーア、パフの四人も表情が厳しい。とりわけ、パフの表情は優れない。この重苦しい状況を何とかしようとアルベインがあることを尋ねる。
「……あまり聞きたくない話をしてしまって申し訳ない。しかし、君達がこの事件に関わるなら知っておいて欲しかった……」
「……そ、そうですよね……。でも、犯人は一体……」
「それは、わからない……。と、ところで……、今回の依頼を受けたのはなぜですか? 何か気になった点でもあったのですか?」
アルベインからの質問を聞いてカイ、ルーア、パフも思い出す。この依頼をなぜ受けたのか、詳しい理由についてリディアから聞いていないことを……。そのため、カイ達もリディアへと注目する。全員の視線を受けているリディアが口を開く。いつも通りの口調、いつものリディア。……だが、リディアの口から飛び出した言葉に全員が耳を疑う。
「うん? この依頼を受けた理由か? それはルーに尋ねたからだ」
「ルーさんに? ルーさんがリディアさんに、この依頼を勧めたのですか?」
「違う。私がルーに頼んだのだ」
「……ん? どういうことですか?」
リディアの回答を聞いても理解できないアルベインは再度質問をする。当然だが、カイ達もリディアの言っていることが理解できないでいる。
「ふむ。最初から話そう」
◇
リディア一人で
「ルーよ。頼みがある」
「あれー。リディアさんじゃないですか? お久しぶりです。何かお仕事をお探しですか?」
「そうだ。お前に選んで欲しい」
「私に……? リディアさんのお仕事をですか?」
ルーの疑問にリディアは大きく頷く。そんなリディアにルーは不思議そうに首を傾げるが、すぐにいつもの笑顔でリディアの要望に応えるよう仕事をピックアップする。
「えーっと……。リディアさん達なら……この魔物討伐は――」
「別に魔物討伐でなくてもいい。とにかく達成困難な依頼を選んで欲しい!」
「はい? 達成困難な依頼ですか? それに魔物討伐でなくてもいいんですか?」
「そうだ。依頼は真面目にやるが成功率は極めて低く。尚且つ、時間のかかる依頼を頼みたい!」
リディアからの提案の意図が理解できないルーは詳しい事情を尋ねる。するとリディアから語られたのは、王都に行かないために誰からも文句を言われないよう困難な依頼をこなしているという言い訳をしたいとのことだった。
話を聞いたルーは少し困惑するが、リディアが真剣に願い出ているため、細かいところには目を瞑る。こうして、ルーは
◇
話を聞き終えた会議室のカイ、ルーア、パフ、アルベイン。
同じ頃、食堂でルーから話を聞き終えたクリエ、ナーブ、アーロ。
全く違う場所にいたカイ達四人とクリエ達三人は話を聞き終えると。
全員が全く同じ反応を示す。
『えーーーーーーーー!!!!!!!』
◇
会議室に鳴り響いた驚愕の声にリディアが不思議そうにカイ、ルーア、パフ、アルベインを眺める。
「なんだ? そんな大声を出して?」
「い、いや、し、師匠? そ、それだけの理由で、この依頼を受けたんですか?」
「そうだ。何か問題があったか?」
リディアはいつも通りの表情と口調で返答してくるため、カイがどのように話そうか迷っているとすかさずルーアが悪態をつく。
「アホか! テメーは! 王都に行きたくないにしても、こんな面倒な方法をとるなよ! 普通に行かないって断ればいいだろうが!」
言い方に問題はあるが、カイ、パフ、アルベインもルーアの意見に同感だった。するとリディアは少しだけ困ったような表情をする。
「……私もそのつもりだった。しかし、あの貴族の男だけでなく。クリエも王都へ行きたいと言う……。あの男はどうでもいいが……。クリエを傷つけたくはなかったのだ……。クリエは私の数少ない友の一人だからな……」
そう、リディアが行っている回りくどい方法は全てリディアなりにクリエを気遣った行動なのだ。普通に考えれば、クリエに直接事情を説明すれば終了する話だが……。リディアには苦い過去がある。傷つけるつもりは全くなかったが、周囲の人間を傷つけ、不快にさせてしまった過去が……。そのせいで、リディアは小さいころから友人も親しい人間もいない孤独な人生だった。そのため、リディアには分からないのだ。どう言えばクリエが傷つかないのか……、その方法がリディアには分からない。
リディアの想いを聞いたカイ、ルーア、パフはなんとなくだが、リディアの想いを理解できた。それと同時に少し苦笑する。
(師匠……。クリエさんを気遣ったのか……。でも、別に普通に断ってもクリエさんは怒らないと思いますけどね……)
(こいつは……。いつも、堂々としているくせに人間関係になるとホントにガキなんだなぁ。けっ! あの眼鏡ちびが、そんなことで堪えるかっつーの!)
(リディアさん……。失礼かもしれないですけど……。可愛いです!)
状況を理解したカイはリディアへとあることを提案する。
「師匠……。師匠の気持ちはわかりました。師匠が望んでるんですから依頼は一緒に頑張りましょう! まぁ……、達成できるかはわかりませんけど……」
「カイ……。ありがとう」
「いいえ。師匠にはいつもお世話になってますから、気にしないで下さい。でも、クリエさんにはちゃんと言っていいと思います。師匠が王都に行きたくないって。……大丈夫ですよ。クリエさんはわかってくれます」
「そうか?」
「はい!」
カイの提案を聞いていたルーア、パフ、アルベインの三人も力強く頷く。カイの言葉に後押しをされリディアは少しだけ笑みを浮かべる。
◇◇◇◇◇◇
会議室から出たカイ、リディア、ルーア、パフの四人はアルベインに別れを告げる。別れ際にアルベインから「何か分かったら報告して下さい。……でも、無茶はしないで下さい」と忠告を受ける。
カイ達は下で待っているであろうクリエ、ナーブ、アーロの三人と合流するために
「あっ! カイさん、リディアさん、ルーアさん、パフちゃん。ちょうど良かったです! お伝えしたいことがあります!」
「えっ? 何ですか? ルーさん」
いつもより大きな声と急いだ口調で話してくるルーに疑問を抱きながらもカイは聞く姿勢をとる。そんないつもと違うルーから飛び出した言葉はカイ達四人を更に混迷の渦へと落とすことになる。
「そ、その……。伝言があります……」
「伝言? もしかして、クリエさん達ですか?」
「は、はい……」
ルーからの弱々しい返事にカイは首を傾げる。
(あれ? もしかして、待たせ過ぎたかな? 怒って帰っちゃったのか? でも、そんなに待たせてないけどなぁ?)
クリエ達が気分を害して帰ってしまったのか不安を覚えたカイだったが、クリエ達は決して怒ってはいない。そう、怒っていない。クリエ達は――
「あの……。クリエちゃんからの伝言です――『リディアさん! 私が事件を解決させてみせるわ! そうなったら、リディアさんには王都まで一緒に行ってもらうからね! 楽しみにしててね!』とのことです……」
クリエからの伝言……もとい宣戦布告のような伝言を聞いたカイ達は唖然とした後に今日何度目かの驚きの声を上げる。
クリエ達は怒っていない。
怒ったのではなく。自分達で事件を解決させようと燃えていた。
◇◇◇◇◇◇
暗い部屋に一人佇む人物。何かを考えているような、祈っているような、はたまた後悔しているような……。謎の人物は何も言葉を発さずに目を閉じながら佇む。だが、突然思いだしたかのように目を見開くと歯ぎしりしながら怒りの表情となる。
『……
『……夜が来る……。……待っていろよ……。
謎の人物は両手である物を手にとると笑みを強める。謎の人物が何かをしていると持っている物体が光り輝き出す。
輝きはまるで、白い神々しいような光にも、黒い禍々しいような光にも見える。
その輝きが強くなると謎の人物の前に突如として何かが出現する。
それは――
◇◇◇◇◇◇
魔王城の一室。魔王の側近である五大将軍の一人、レイブンの研究施設にある部屋だ。そこでレイブンは
フィッツがブレイルへと奥義を叩きこむ瞬間の映像をレイブンは何度も見返している。特にフィッツが奥義を放つ際に言った言葉を何度もリプレイする。
『おう! 行くぞーーー! フリード流気闘拳奥義『
フィッツの奥義をレイブンは仮面の奥にある瞳で何度も眺めながら一人口を開く。
「間違いない。これはフリードの技……。懐かしいわね……。この技を使うということは……。フリードの弟子? 子供にしては若すぎるし……。血が繋がっているようには見えない。顔も似てないし……。まぁ……、性格はそっくりだけど……。単純そうなところとか……」
独り言を呟くレイブンの口元は仮面に隠されて見ることはできない。しかし、仮面の中でレイブンの口元には笑みが浮かんでいる。
「フリード。あなたは……どうなったの? 百年前に別れたきり……。もう生きてはいないかしらね……。……確認したい……。あなたが生きているのか……。それとも死んでいるのか……。この男に確認してみるしかないわね」
『確認する』と言った時、レイブンが見ていたのは
レイブンはあることを決意をすると研究施設の部屋を後にする。
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