第21話 ハーピーツーリー

 カイ、リディア、ルーアの三人は鳥人間ハーピーに案内されて鳥人間ハーピーの隠れ里へ到着する。霧を抜けて目に入った光景にカイは驚愕する。驚愕する光景……それは天にも届きそうな巨大な大樹の存在だ。


鳥人間ハーピーの住みか:ハーピーツーリー


ハーピーツーリー:鳥人間ハーピーの集落。四方を大きな山脈に囲まれ、山脈の頂点には特殊な結界を張り巡らせている。そのため、山脈を越えて集落へ入ることはできない。ハーピーツーリーへ入るためには正しいルートを通る必要がある。ハーピーツーリーの中は樹齢何千年にもなる神樹シーラを中心に木々が覆い茂っている。鳥人間ハーピーは各々が大樹に家を作り暮らしている。


「す、すごい……。大きな木ですねー」

「はい! カイ様。あれは我らを育み生活の中心であり、このハーピーツーリーを象徴する神樹シーラです! もう何千年もそびえているのに、全く衰えを感じさせない伝説の大樹です!」

「な、何千年ですか! すごいなぁー!」


 神樹シーラを見てカイは感嘆の声を漏らす。何千年も存在しているのにも関わらず未だ堂々と存在する姿に言葉では表現できない感動を感じていた。しかし、感動しているカイ、リディア、ルーアを乗せたゴンドラが鳥人間ハーピーの暮らしている集落へ近づいて行くと、集落にいた鳥人間ハーピーの声が漏れ聞こえてきた。


「あれ? フォルネ様じゃない?」

「うん? 本当だ。何であんなものを運んでるの? 侵入者を捕らえるって出て行ったんじゃなかったっけ?」

「あの中に侵入者がいるみたいよ」

「そうなの? いつも捕まえるときにあんなものわざわざ作ってたっけ?」

「そんなことより男はいるの? いないの?」

「くんくん。匂う。匂う。男はいるわね!」

「やったー! 私がもらうねー!」

「はぁー? 何言ってんの? 今回は私に決まってるでしょう!」

「君達は何を言っている。私に決まっている」

「違う! ボクがもらうんだー!」


 鳥人間ハーピー達の話声が嫌でもカイの耳に入ってきてしまう。そのあまりの内容にカイはため息をつきたくなる。


(本当……。さっき、ルーアが言った通りだな……。女性しかいない……。それに会話の内容から察すると……。いや……、もう考えるのはよそう。余計に疲れそうだ……)


鳥人間ハーピー:四肢以外は人間の女性とほとんど変わらない。両手は大きな翼で、両足は鳥の足、脚先には鋭い爪が生えていて戦闘時には攻撃に使用する。自然を操る魔法が得意。種族の特性として女性しかいないため、子孫を残すには他種族との交配が必要。そのため種族繁栄の意識が強く子供を身籠ることができるようになると他種族との交配へ積極的になる。


 フォルネ達がカイ、リディア、ルーアを乗せたゴンドラを大樹の広場へと下ろす。すると、数秒もしないうちに多くの鳥人間ハーピーがゴンドラを取り囲んだ。ゴンドラの周囲に集まった鳥人間ハーピーは口々に騒ぎ始める。


「どれどれ、見せてよ」

「ちょっとー、押さないでよ!」

「あー、男がいるー!」

「本当だ! 結構タイプかも!」

「あれ? 小悪魔インプもいない?」

「うん? あー、本当だ!」

「でも、小悪魔インプも男じゃん!」

「じゃあ、私は小悪魔インプくんをもーらい!」

「あー、汚い! ……まぁ、いいわ。私は人間の男をもらうわ」

「何を二人で勝手に決めてんのよ! 私がもらうのよ!」


 鳥人間ハーピー達がそれぞれ勝手な主張を展開するため、広場が混乱してしまい収集がつかない状況になる。すると、色めき立つ部下を見かねたフォルネが声を張り上げる。


「愚か者が!」


 フォルネの怒声に広場の鳥人間ハーピーが身を縮ませる。状況を理解させるため、フォルネは広場にいる全ての鳥人間ハーピーにリディアを注目させる。


「よく見ろ! この方が誰であるか、わからない愚か者がいるか!」


 フォルネに言われて、リディアを見た鳥人間ハーピーは一様に驚きの表情となる。間髪入れずにフォルネは声を張り上げる。


「そうだ! 我らが大恩人! かつて我らを苦しめ、この山を支配していた雷竜ボルクを討伐して下さった。ドラゴンスレイヤーのリディア様だ!」


 リディアを確認した鳥人間ハーピーは口々に「リディア様だ」「リディア様」と騒ぎ始める。周囲の鳥人間ハーピーがリディアを認識したことを確信したフォルネは全員へ命令する。


「そして、こちらの人間はリディア様の愛弟子である。カイ様! それから、こちらの小悪魔インプはリディア様の友人であらせられるルーア様だ! お前達如きがもらうなどと口にするとは恥を知るがいい! それから、お前達! 頭が高い! 直ちに平伏しろ!」


 フォルネの言葉を受け、その場にいた全ての鳥人間ハーピーがカイ達へ……というよりはリディアへ平伏する。全員が平伏するのを確認した後、フォルネも平伏の姿勢をとりリディアへ謝罪する。


「申し訳ありませんでした。リディア様。我らが大恩人であるにも関わらず、このような騒ぎを起こしてしまい。ご不快な思いをさせてしまいました。何卒、お許し下さい!」


 フォルネと広場にいる鳥人間ハーピーの態度にリディアは大きなため息をつく。ため息を聞いたフォルネは自分を含めた何人かの鳥人間ハーピーへ罰を下すことを提案しようとするが、その前にリディアが口を開く。


「構わん。フォルネ。私は何度も言っているはずだ。別に私を相手にそこまで畏まる必要などないと。私がお前達を助けたのは事実だが、それは私が選んだことだ。お前達がそこまで恩義を感じる必要などない。私の願いとしては、これから一ヵ月程の滞在を許可して欲しいだけだ。わかったか?」 


 リディアの要望にフォルネは、額が地面へ着くほど頭を下げ感謝を伝える。


「はっ! リディア様のお優しいお心遣い。この場にいる全ての鳥人間ハーピーを代表して感謝をお伝えいたします! よし! 皆の者、聞いたな! リディア様達はしばらく我らが集落でご滞在なされる。粗相のないよう歓迎の準備などを急ぐのだ!」


『はい!』


 フォルネの言葉に従い鳥人間ハーピー達は羽をバタつかせて大急ぎで散って行く。その光景を、カイとルーアは呆然と眺める。鳥人間ハーピーと出会ってから驚きの連続のため、カイとルーアはリディアと鳥人間ハーピーについての詳しい内容をどのタイミングで尋ねるか模索していたが聞きあぐねていた。


 そこうしているうちにフォルネがカイ達を鳥人間ハーピー女王クイーンの元へ案内すると告げる。


「では、リディア様、カイ様、ルーア様。これから我らが女王様がいらっしゃる場所へとご案内いたします。……そして、リディア様はご存じと思いますが我らの集落は人間の移動を想定して作られてはいません。つまり、空中移動を前提として作られた集落になっています。ルーア様は飛行が可能と思いますが、リディア様とカイ様の移動は我らが運ぶような形での移動になってしまうことを先に謝らせてもらいます」


 そう、この集落は鳥人間ハーピーのため――というよりは、鳥人間ハーピーが造り上げた集落だ。そのため、歩行での移動よりも飛行での移動をメインに考えられた造りになっている。つまり、人間なら階段や梯子といった物を取り付けるような高さでも飛行できる鳥人間ハーピーには必要のない物のため、この集落には存在しない。それは外の移動だけでなく屋内でも同じことだ。二階建ての建物内にも階段や梯子は存在せず、一階から二階へ上がりたければ飛行するという造りなっている。


「私は大丈夫だ。つい先日だが、飛行魔法を教えてもらったので問題はない。しかし、私もまだ飛行魔法には慣れていないのでカイを抱えての移動には不安がある。だから、カイには誰かしら鳥人間ハーピーを付けて補助をしてもらいたい」

「そうでしたか。畏まりました。では、カイ様には専属の鳥人間ハーピーをお付けしますので少しお待ち頂いて――」


 するとフォルネが言い終わる前に、黄緑色の髪をした鳥人間ハーピーが元気よく手を上げる。


「はーい! フォルネ様! 私がカイ様のお付きをしまーす!」


 声を上げたのはプリムだ。周囲の鳥人間ハーピーが抜け駆けをしたプリムを睨みつける。一方のフォルネはプリムを一瞥する。


「プリム! リディア様との会話に割り込むなど無礼だぞ!」

「……すみません」


 フォルネに怒鳴られプリムは少し身体を縮こまらせる。しかし、フォルネはカイへ向き直り提案をする。


「話の腰を折ってしまい大変に申し訳ありません。……ですが、カイ様。どうでしょうか? カイ様がよろしければ、このプリムにカイ様の移動を補助させようと思いますが?」


 フォルネの言葉にプリムは目を輝かせカイを見つめる。問われたカイはプリムを見ながら少し考える。


(プリム。さっきの鳥人間ハーピーか……。何か、すごい見られている気がする。でも、どの鳥人間ハーピーを選んでもあんな感じな気がするなぁ。……まぁ、いっか……)


「はい。じゃあ、プリムさん。お願いしてもいいですか?」

「はい! お任せ下さい! カイ様!」


 羽をバタつかせ喜ぶプリムはカイの腕へ抱きつく。あからさまなプリムの行動に他の鳥人間ハーピーが嫉妬心を露わにして睨みつける。下手をすると争いが勃発しそうになるが、一連の行動を見ていたフォルネがプリムへ注意をする。


「プリム! そのような軽々しい行動をするな! わかっているとは思うが、カイ様はリディア様の愛弟子なのだぞ! 粗相をすれば、お前の命でも償うことはできないと知れ!」

「はーい! 失礼しましたー。カイ様!」


 怒られたプリムだが、あまり堪えているとは思えずカイは一抹の不安を覚える。


 何はともあれ、カイ、リディア、ルーアはフォルネの案内で鳥人間ハーピー女王クイーンの元へと移動する。しかし、鳥人間ハーピー女王クイーンがいる場所は神樹シーラの頂きにある。そのため、まだまだ上空を目指さなければならなかった。カイはプリムの足に肩を掴まれる形での移動となる。傍から見ると猛禽類に捕まった餌のように見えるが、そこは動物ではなく魔物だ。本来鳥人間ハーピーの足には鋭い爪がついているが、その爪は必要に応じて体内へ収めることが可能だ。カイを傷つけないようプリムは爪を体内へ収め、苦痛を与えないよう十分に配慮した移動を心掛ける。また、上空へ行けば行くほど冷たい風にさらされることになるが、プリムは自身の翼を上手く羽ばたかせてカイへ風が当たらないよう飛行していた。移動中に鳥人間ハーピーの一団と出会う。一団を引き連れている隊長らしき鳥人間ハーピーがリディアへ近づいてくる。


「フォルネ様! リディア様!」


 声をかけてきたのは、赤い髪を肩まで伸ばし、栗色の瞳、豊満な身体つきの鳥人間ハーピーだ。声をかけられたフォルネは笑顔を向け、鳥人間ハーピーを見たリディアは思い出したように名前を呼ぶ。


「お前は、……もしかしてフィーネか?」

「はい! リディア様! お久しぶりです! 覚えていて下さったのですね! 感激です!」

「やはりそうか。大きくなったものだな。あのときは、まだ小さかったのに……」

「それはそうです。リディア様と再開するのは二年ぶりですから」

「二年前……?」


 リディアとフィーネの会話を聞いたカイは疑問を感じた。


(二年前は小さかった? この人が? どう見ても成人しているようにしか見えないけど……。それとも小さかったっていうのは言葉のあやかな?)


「どうしたんですかー? カイ様?」


 カイが何か悩んでいることに気づいたプリムは心配そうに顔を覗き込む。


「えっと……。プリムさん。ちょっと聞いてもいいですか?」

「はい。何なりと仰って下さい! それから私のことはプリムとお呼び下さい。敬語も不要です。カイ様」

「えーと、わかりました。じゃあ、プリム。失礼かもしれないけど、あのフィーネさんって方は、おいくつなの?」

「フィーネですか? フィーネは私と同じで確か三歳だったはずですけど」

「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 プリムの答えにカイは思わず大声を上げてしまう。そのため、リディアとルーアだけでなく。その場にいた全ての鳥人間ハーピーがカイとプリムへ視線を向ける。カイはすぐに自分の口を手で押さえたが時すでに遅しであった。すると、フォルネが険しい表情でプリムへ詰め寄っていく。


「プリム! 貴様……。カイ様に何か不出来を働いたのか!」

「えー! ち、違います。私はただ――」

「そ、そうです。フォルネさん。俺がただ大声を上げてしまっただけなんです。プリムはすごく優秀で助かっています」


 フォルネがプリムを糾弾しようとしていたので、カイがすかさずプリムをフォローする。カイの言葉を聞くとフォルネは頷きながら納得する。


「そうでしたか、それでしたら幸いです。すまなかったな、プリム。その調子で頑張れよ」

「はーい!」


 フォルネが怒りを鎮めたのを見てカイは胸を撫で下ろす。しかし、先程の回答はカイにとって驚きでしかなかった。そのため、カイは眉間に皺を寄せ腕を組みながら考える。


(三歳? 三歳って、おかしくないか……? もしかして、人間とは年の数え方が違うのか? うーん。でも、これ以上はどう質問すればいいかわからない……)


 カイがまた悩んでいると感じたプリムは再度声をかける。


「カイ様ー? まだ、何か悩んでるんですか?」

「うん……。悩んでるんだけど、どう言えばいいのか……」

「なーに、やってんだ? オメーは?」


 カイとプリムの会話に突如としてルーアが入ってくる。ルーアを見たカイはしめたとばかりに質問する。


「ルーア。ちょうどいい。あのさ、プリムって何歳に見える?」

「あん? プリムの年? そんなの知るか。本人がいるんだから聞きゃあいいだろうが」

「私は三歳ですよ? カイ様ー? 先程、申し上げたじゃないですかー」

「だとよ」


 ルーアがプリムの年齢を聞いても全く動じないため、カイはルーアへ疑問をぶつける。


「で、でもさ? どう見てもプリムは成人してるじゃんか。三歳には見えないんだけど? それとも鳥人間ハーピーって人間とは年齢の数え方が違うのか?」


 カイの質問にルーアは呆れてしまう。一方のプリムはカイの話している意味を理解できないでいる。


「あのなー、……カイ。オメーは本当に知らないことが多いんだなぁ。はぁー、そもそも人間を基準に考えてんじゃねぇーよ。こいつらは魔物だぞ? 人間みたいな生易しい世界で生きてねぇーんだよ。いいか? 魔物の成長速度は人間とは違うんだよ。大抵の魔物は一年ほどで成人する。だから、こいつらは人間で換算しちまえば二十歳は超えた成人って考えればいいんだよ。全く。そんなことで驚くのは人間ぐらいだぞ?」


 ルーアの説明でカイはようやく理解する。


(つまり、フィーネさんが師匠に出会ったときは一歳になったか、なっていないかの成人していない時期。そして、それから二年の時を経て師匠と再会したから師匠は大きくなったって言ったのか。成程ね。しかし、一年で成人って考えられない成長速度だな。……あー! そうか! だからだ! 鳥人間ハーピーに違和感があったのは! 全員が大人に見えていたけど、それは身体だけで精神的にはまだ幼いから違和感があるんだ。はぁー、やっと納得できた……)


 数々の疑念が晴れたカイとは逆にプリムが新しい発見に興奮する。


「カイ様! カイ様! ルーア様が仰っていたことって本当なんですか?」

「うん? 何のこと?」

「人間は成人するまでに、二十年ぐらいかかるっていう話です!」

「うん。そうだよ」

「へー! 鳥人間ハーピーと全然違うんですね! そっかー。だから、カイ様も驚いていたんですね?」

「ははは。そういうこと」

「納得しましたー! うふふ。何だか私達って気が合うと思いませんかー?」

「えっ?」

「だって、同じ疑問をほとんど同時に解決できたじゃないですかー。何か運命を感じませんかー? カイ様ー」


 プリムがカイへ甘えるように語りかける。しかし、先程とは違いカイはあまり動じなくなる。理由は先程まで鳥人間ハーピーは長く生きている。もしくは自分と同等ぐらいの年齢と思い込んでいた。しかし、実際は身体だけ大人な子供が多いということを認識したからだ。特にプリムの実年齢が三歳と理解しているため、甘えてくるような挙動は子供が甘えているよう感じていた。その事実がカイに余裕を与えている。


「うん。そうだね。プリムの言う通りかもしれない。俺達は気が合うかもね」

「えっ! カイ様! それって……オーケーってことですか!」

「オーケーの意味はよくわからないけど、気が合うことだけは認めるよ」

「はぁー。カイ様……。私、感激ですー! じゃあ、今晩は夜伽よとぎに行きますね!」

「いや、それは駄目! 絶対にしないように!」

「あれー?」


 プリムの提案をカイはすぐさま却下する。一方のプリムは断れた理由がわからず首を傾げる。カイとプリムの話が一段落つくとリディアとフィーネの話も終了する。フィーネは翼を羽ばたかせ自分が率いる鳥人間ハーピーの一団へ戻っていく。


「フィーネも立派になったな」

「はい。これも全てはリディア様のおかげです。リディア様が我らをお救い下さったから今の我らはあるのです。今ではフィーネも女王様を守護する一団を率いるまでになっております」

「そうか、それは頼もしいな」

「はい! では、案内を続けます。付いて来て下さい」


 再びフォルネが先行して、鳥人間ハーピー女王クイーンの元へと案内を開始する。しばらくすると神樹シーラの頂き……。つまり鳥人間ハーピー女王クイーンの居城へ到着する。見えてきたのは木で造られた社のような住まい。フォルネは周囲を守護している鳥人間ハーピーへリディアが来たことを伝え、鳥人間ハーピー女王クイーンへの謁見を打診する。社を守護する鳥人間ハーピー達はフォルネの指示に従う。


 五分後に謁見の許可が下りてカイ、リディア、ルーアの三人はフォルネ、プリムの先導で鳥人間ハーピー女王クイーンが鎮座する場所へ移動する。移動した先は、風情のある大広間。俗にいう和室という作りで正面には高座がある。そこに鳥人間ハーピー女王クイーンが座していた。その姿を初めて見たカイとルーアは驚愕する。


「うむ。久しぶりじゃのう。リディア殿。息災でなによりじゃ」

「あぁ、久しぶりだ。以前よりは大きくなったな」

「じゃろう?」


 二人の会話を余所にカイとルーアは何度も瞬きして鳥人間ハーピー女王クイーンを凝視する。しかし、我慢の限界を超えたルーアが叫び出す。


「な、何だ!? このちびは!」


 鳥人間ハーピー女王クイーン:エメラルドのような美しい髪が腰まで伸び、ルビーのような綺麗な瞳、異性を引きつけるような魔性の色香、両手の翼も一般の鳥人間ハーピーと違い光沢を放つ。全ての鳥人間ハーピーを束ねる女王の姿はまるで幼児のような姿だ。


 無礼ともとられるルーアの発言にフォルネとプリムは顔面蒼白になり狼狽する。一方でリディアはルーアを睨みつける。カイに至っては声を上げることはなかったがルーアとほとんど同じ感想のためアクションを起こせずにいる。しかし、当の鳥人間ハーピー女王クイーンは状況を楽しむが如く朗らかに笑っている。


「なははははは! ちびか! まさに正論じゃ! そこの小悪魔インプよ。お主の言うとおり今の妾はこの通りのちびすけじゃ!」

「すまん。あの羽虫は礼儀を知らない」

「構わん。構わん。知らぬ者が今の妾を見れば驚いて当然じゃ。それよりも、とても素直な反応で妾は実に愉快じゃ」


 女王の対応を見てフォルネとプリムは安心したのか、緊張が解け大きく息を吐く。だが、状況の理解できないカイとルーアは今も女王から目が離せずにいる。困惑する様な二人の視線に気がついた女王は至って冷静に対応する。


「ふむ。まぁ、いろいろ説明をせぬといかんようじゃが。お主ら、まずは楽にしてくれ。そんなところで客人を、しかも我らの大恩人を立たせたままでは妾も心苦しい」


 女王の言葉でフォルネとプリムは自分達のミスに気づき焦ってカイ、リディア、ルーアへ植物の葉で作った敷物を用意して座ってもらう。三人が座ると女王が口を開く。


「よし。これで、ゆっくりと話ができそうじゃな。では、妾から自己紹介をさせてもらうぞ。妾はこのハーピーツーリーの女王であり、鳥人間ハーピーを束ねている。鳥人間ハーピー女王クイーン、名はフウ・ラ・ラーウという。呼び方は好きに呼んでもらって構わぬ。女王だろうが、フウだろうが、もちろんちびすけでも構わんぞ?」

 

 最後の呼称に対してフォルネとプリムは高速で首を横に振り「その呼び名は、おやめ下さい!」と心の中で叫びルーアを見る。しかし、ルーアはフウを見てあることに気がつく。


「……なるほどね。あんた、そんななりだがかなり長生きしてんな……。その姿も訳ありっぽいな」

「ぬふふふ」


 ルーアの指摘にフウは悪戯っ子のような含み笑いをする。


「まぁ、いい。俺様は大悪魔のルーア様だ。縁があってこいつらとつるんでる。よろしくな、女王さん」


 ルーアがいつも通り謙虚さの全くない自己紹介をした後にカイが緊張した様子で口を開く。


「失礼します。女王様。俺はカイといいます。師匠……じゃなくて、リディアさんから剣を教わっています」


 カイの自己紹介を聞いたフウはカイを凝視する。強い視線を感じたカイは首を傾げるとフウが満足そうな笑みを浮かべる。


「ほほぅ。よい面構えじゃ。流石はリディア殿の愛弟子じゃ。……しかし、惜しいのぉ」


 フウはカイを褒めた後で心底残念というように頭を軽く横へ振る。フウの反応を見たカイは不安に襲われる。


(えっ? 惜しい? 何のことだろう? もしかして、俺に足りない何かを女王様は感じ取ったのか?)


 不安を感じながらも確認をすべきとカイはフウへ懇願する。


「女王様! 惜しいというのは一体? 俺に何か不足している部分があるのですか?」


 真剣なカイの問いにフウは軽く頭を横へ振り真剣な眼差しで語り始める。


「そうではない。妾が惜しいと言ったのは――」


 カイは唾を呑み込みフウが告げるであろう次の言葉に神経を集中する。


「――妾が惜しいと言ったのは、お主はいい男なのに……。今の妾では、お主の子を身籠ることができぬ。それが心底残念でのう」

「……はい?」

「そうじゃのう、あと十年。……いやいや、五年程でも成長していればギリギリなんとかなったと思うんじゃが……。しかし、流石に今の姿ではのう。はぁ……、成長がゆっくりなのは難点じゃなー……」


 フウの言葉を受けてフォルネとプリムは同意の意味を兼ねてか強く頷く。一方でルーアはくだらないという表情、リディアは相変わらずだなという表情、当事者のカイは何とも言えない表情。


(……真剣に聞いて損した……。はぁ、そっか女王様もそういう人なんだな。……いや、鳥人間ハーピーだから人じゃないけど……。いや、別にいいか……。……もう、疲れた……)


 カイが精神的に疲労したのを尻目にルーアがフウへある質問をする。


「おーい、女王さんよ。聞いてもいいか?」

「うむ。何をじゃ?」

「あんたが、そんななりになっちまった理由。それと、リディアの野郎が何であんたらにそこまで崇められているかをだ」


 ルーアの質問にカイは顔を上げて反応する。リディアはルーアを軽く見る。フウは一瞬だが表情を固くして、すぐに笑みを浮かべる。


「そうか、リディア殿はお主らに妾達のことを説明していなかったのか?」

「聞かれなかったのでな。聞かれていれば話していた」

「なははは! なるほどのう。リディア殿らしいわ。まぁ、話すのは構わんが妾から話をしてよいのか? リディア殿。それに恐らくじゃが長い話しになってしまうぞ?」

「私は構わない。フウから説明をしてもらった方がわかりやすいだろう。それと時間に関しては気にしないでいい。今日は拠点の確保ができればいいと思っていた。カイへ本格的な修行をするのは明日からと決めていた」


 リディアの言葉を受けてフウは頷く。


「わかった。では、妾から話そう。そう、あれは――」


 フウは全てを語り出す……。


 リディアと鳥人間ハーピーとの関係を――。

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