第21話 ハーピーツーリー
カイ、リディア、ルーアの三人は
ハーピーツーリー:
「す、すごい……。大きな木ですねー」
「はい! カイ様。あれは我らを育み生活の中心であり、このハーピーツーリーを象徴する神樹シーラです! もう何千年もそびえているのに、全く衰えを感じさせない伝説の大樹です!」
「な、何千年ですか! すごいなぁー!」
神樹シーラを見てカイは感嘆の声を漏らす。何千年も存在しているのにも関わらず未だ堂々と存在する姿に言葉では表現できない感動を感じていた。しかし、感動しているカイ、リディア、ルーアを乗せたゴンドラが
「あれ? フォルネ様じゃない?」
「うん? 本当だ。何であんなものを運んでるの? 侵入者を捕らえるって出て行ったんじゃなかったっけ?」
「あの中に侵入者がいるみたいよ」
「そうなの? いつも捕まえるときにあんなものわざわざ作ってたっけ?」
「そんなことより男はいるの? いないの?」
「くんくん。匂う。匂う。男はいるわね!」
「やったー! 私がもらうねー!」
「はぁー? 何言ってんの? 今回は私に決まってるでしょう!」
「君達は何を言っている。私に決まっている」
「違う! ボクがもらうんだー!」
(本当……。さっき、ルーアが言った通りだな……。女性しかいない……。それに会話の内容から察すると……。いや……、もう考えるのはよそう。余計に疲れそうだ……)
フォルネ達がカイ、リディア、ルーアを乗せたゴンドラを大樹の広場へと下ろす。すると、数秒もしないうちに多くの
「どれどれ、見せてよ」
「ちょっとー、押さないでよ!」
「あー、男がいるー!」
「本当だ! 結構タイプかも!」
「あれ?
「うん? あー、本当だ!」
「でも、
「じゃあ、私は
「あー、汚い! ……まぁ、いいわ。私は人間の男をもらうわ」
「何を二人で勝手に決めてんのよ! 私がもらうのよ!」
「愚か者が!」
フォルネの怒声に広場の
「よく見ろ! この方が誰であるか、わからない愚か者がいるか!」
フォルネに言われて、リディアを見た
「そうだ! 我らが大恩人! かつて我らを苦しめ、この山を支配していた雷竜ボルクを討伐して下さった。ドラゴンスレイヤーのリディア様だ!」
リディアを確認した
「そして、こちらの人間はリディア様の愛弟子である。カイ様! それから、こちらの
フォルネの言葉を受け、その場にいた全ての
「申し訳ありませんでした。リディア様。我らが大恩人であるにも関わらず、このような騒ぎを起こしてしまい。ご不快な思いをさせてしまいました。何卒、お許し下さい!」
フォルネと広場にいる
「構わん。フォルネ。私は何度も言っているはずだ。別に私を相手にそこまで畏まる必要などないと。私がお前達を助けたのは事実だが、それは私が選んだことだ。お前達がそこまで恩義を感じる必要などない。私の願いとしては、これから一ヵ月程の滞在を許可して欲しいだけだ。わかったか?」
リディアの要望にフォルネは、額が地面へ着くほど頭を下げ感謝を伝える。
「はっ! リディア様のお優しいお心遣い。この場にいる全ての
『はい!』
フォルネの言葉に従い
そこうしているうちにフォルネがカイ達を
「では、リディア様、カイ様、ルーア様。これから我らが女王様がいらっしゃる場所へとご案内いたします。……そして、リディア様はご存じと思いますが我らの集落は人間の移動を想定して作られてはいません。つまり、空中移動を前提として作られた集落になっています。ルーア様は飛行が可能と思いますが、リディア様とカイ様の移動は我らが運ぶような形での移動になってしまうことを先に謝らせてもらいます」
そう、この集落は
「私は大丈夫だ。つい先日だが、飛行魔法を教えてもらったので問題はない。しかし、私もまだ飛行魔法には慣れていないのでカイを抱えての移動には不安がある。だから、カイには誰かしら
「そうでしたか。畏まりました。では、カイ様には専属の
するとフォルネが言い終わる前に、黄緑色の髪をした
「はーい! フォルネ様! 私がカイ様のお付きをしまーす!」
声を上げたのはプリムだ。周囲の
「プリム! リディア様との会話に割り込むなど無礼だぞ!」
「……すみません」
フォルネに怒鳴られプリムは少し身体を縮こまらせる。しかし、フォルネはカイへ向き直り提案をする。
「話の腰を折ってしまい大変に申し訳ありません。……ですが、カイ様。どうでしょうか? カイ様がよろしければ、このプリムにカイ様の移動を補助させようと思いますが?」
フォルネの言葉にプリムは目を輝かせカイを見つめる。問われたカイはプリムを見ながら少し考える。
(プリム。さっきの
「はい。じゃあ、プリムさん。お願いしてもいいですか?」
「はい! お任せ下さい! カイ様!」
羽をバタつかせ喜ぶプリムはカイの腕へ抱きつく。あからさまなプリムの行動に他の
「プリム! そのような軽々しい行動をするな! わかっているとは思うが、カイ様はリディア様の愛弟子なのだぞ! 粗相をすれば、お前の命でも償うことはできないと知れ!」
「はーい! 失礼しましたー。カイ様!」
怒られたプリムだが、あまり堪えているとは思えずカイは一抹の不安を覚える。
何はともあれ、カイ、リディア、ルーアはフォルネの案内で
「フォルネ様! リディア様!」
声をかけてきたのは、赤い髪を肩まで伸ばし、栗色の瞳、豊満な身体つきの
「お前は、……もしかしてフィーネか?」
「はい! リディア様! お久しぶりです! 覚えていて下さったのですね! 感激です!」
「やはりそうか。大きくなったものだな。あのときは、まだ小さかったのに……」
「それはそうです。リディア様と再開するのは二年ぶりですから」
「二年前……?」
リディアとフィーネの会話を聞いたカイは疑問を感じた。
(二年前は小さかった? この人が? どう見ても成人しているようにしか見えないけど……。それとも小さかったっていうのは言葉のあやかな?)
「どうしたんですかー? カイ様?」
カイが何か悩んでいることに気づいたプリムは心配そうに顔を覗き込む。
「えっと……。プリムさん。ちょっと聞いてもいいですか?」
「はい。何なりと仰って下さい! それから私のことはプリムとお呼び下さい。敬語も不要です。カイ様」
「えーと、わかりました。じゃあ、プリム。失礼かもしれないけど、あのフィーネさんって方は、おいくつなの?」
「フィーネですか? フィーネは私と同じで確か三歳だったはずですけど」
「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
プリムの答えにカイは思わず大声を上げてしまう。そのため、リディアとルーアだけでなく。その場にいた全ての
「プリム! 貴様……。カイ様に何か不出来を働いたのか!」
「えー! ち、違います。私はただ――」
「そ、そうです。フォルネさん。俺がただ大声を上げてしまっただけなんです。プリムはすごく優秀で助かっています」
フォルネがプリムを糾弾しようとしていたので、カイがすかさずプリムをフォローする。カイの言葉を聞くとフォルネは頷きながら納得する。
「そうでしたか、それでしたら幸いです。すまなかったな、プリム。その調子で頑張れよ」
「はーい!」
フォルネが怒りを鎮めたのを見てカイは胸を撫で下ろす。しかし、先程の回答はカイにとって驚きでしかなかった。そのため、カイは眉間に皺を寄せ腕を組みながら考える。
(三歳? 三歳って、おかしくないか……? もしかして、人間とは年の数え方が違うのか? うーん。でも、これ以上はどう質問すればいいかわからない……)
カイがまた悩んでいると感じたプリムは再度声をかける。
「カイ様ー? まだ、何か悩んでるんですか?」
「うん……。悩んでるんだけど、どう言えばいいのか……」
「なーに、やってんだ? オメーは?」
カイとプリムの会話に突如としてルーアが入ってくる。ルーアを見たカイはしめたとばかりに質問する。
「ルーア。ちょうどいい。あのさ、プリムって何歳に見える?」
「あん? プリムの年? そんなの知るか。本人がいるんだから聞きゃあいいだろうが」
「私は三歳ですよ? カイ様ー? 先程、申し上げたじゃないですかー」
「だとよ」
ルーアがプリムの年齢を聞いても全く動じないため、カイはルーアへ疑問をぶつける。
「で、でもさ? どう見てもプリムは成人してるじゃんか。三歳には見えないんだけど? それとも
カイの質問にルーアは呆れてしまう。一方のプリムはカイの話している意味を理解できないでいる。
「あのなー、……カイ。オメーは本当に知らないことが多いんだなぁ。はぁー、そもそも人間を基準に考えてんじゃねぇーよ。こいつらは魔物だぞ? 人間みたいな生易しい世界で生きてねぇーんだよ。いいか? 魔物の成長速度は人間とは違うんだよ。大抵の魔物は一年ほどで成人する。だから、こいつらは人間で換算しちまえば二十歳は超えた成人って考えればいいんだよ。全く。そんなことで驚くのは人間ぐらいだぞ?」
ルーアの説明でカイはようやく理解する。
(つまり、フィーネさんが師匠に出会ったときは一歳になったか、なっていないかの成人していない時期。そして、それから二年の時を経て師匠と再会したから師匠は大きくなったって言ったのか。成程ね。しかし、一年で成人って考えられない成長速度だな。……あー! そうか! だからだ!
数々の疑念が晴れたカイとは逆にプリムが新しい発見に興奮する。
「カイ様! カイ様! ルーア様が仰っていたことって本当なんですか?」
「うん? 何のこと?」
「人間は成人するまでに、二十年ぐらいかかるっていう話です!」
「うん。そうだよ」
「へー!
「ははは。そういうこと」
「納得しましたー! うふふ。何だか私達って気が合うと思いませんかー?」
「えっ?」
「だって、同じ疑問をほとんど同時に解決できたじゃないですかー。何か運命を感じませんかー? カイ様ー」
プリムがカイへ甘えるように語りかける。しかし、先程とは違いカイはあまり動じなくなる。理由は先程まで
「うん。そうだね。プリムの言う通りかもしれない。俺達は気が合うかもね」
「えっ! カイ様! それって……オーケーってことですか!」
「オーケーの意味はよくわからないけど、気が合うことだけは認めるよ」
「はぁー。カイ様……。私、感激ですー! じゃあ、今晩は
「いや、それは駄目! 絶対にしないように!」
「あれー?」
プリムの提案をカイはすぐさま却下する。一方のプリムは断れた理由がわからず首を傾げる。カイとプリムの話が一段落つくとリディアとフィーネの話も終了する。フィーネは翼を羽ばたかせ自分が率いる
「フィーネも立派になったな」
「はい。これも全てはリディア様のおかげです。リディア様が我らをお救い下さったから今の我らはあるのです。今ではフィーネも女王様を守護する一団を率いるまでになっております」
「そうか、それは頼もしいな」
「はい! では、案内を続けます。付いて来て下さい」
再びフォルネが先行して、
五分後に謁見の許可が下りてカイ、リディア、ルーアの三人はフォルネ、プリムの先導で
「うむ。久しぶりじゃのう。リディア殿。息災でなによりじゃ」
「あぁ、久しぶりだ。以前よりは大きくなったな」
「じゃろう?」
二人の会話を余所にカイとルーアは何度も瞬きして
「な、何だ!? このちびは!」
無礼ともとられるルーアの発言にフォルネとプリムは顔面蒼白になり狼狽する。一方でリディアはルーアを睨みつける。カイに至っては声を上げることはなかったがルーアとほとんど同じ感想のためアクションを起こせずにいる。しかし、当の
「なははははは! ちびか! まさに正論じゃ! そこの
「すまん。あの羽虫は礼儀を知らない」
「構わん。構わん。知らぬ者が今の妾を見れば驚いて当然じゃ。それよりも、とても素直な反応で妾は実に愉快じゃ」
女王の対応を見てフォルネとプリムは安心したのか、緊張が解け大きく息を吐く。だが、状況の理解できないカイとルーアは今も女王から目が離せずにいる。困惑する様な二人の視線に気がついた女王は至って冷静に対応する。
「ふむ。まぁ、いろいろ説明をせぬといかんようじゃが。お主ら、まずは楽にしてくれ。そんなところで客人を、しかも我らの大恩人を立たせたままでは妾も心苦しい」
女王の言葉でフォルネとプリムは自分達のミスに気づき焦ってカイ、リディア、ルーアへ植物の葉で作った敷物を用意して座ってもらう。三人が座ると女王が口を開く。
「よし。これで、ゆっくりと話ができそうじゃな。では、妾から自己紹介をさせてもらうぞ。妾はこのハーピーツーリーの女王であり、
最後の呼称に対してフォルネとプリムは高速で首を横に振り「その呼び名は、おやめ下さい!」と心の中で叫びルーアを見る。しかし、ルーアはフウを見てあることに気がつく。
「……なるほどね。あんた、そんななりだがかなり長生きしてんな……。その姿も訳ありっぽいな」
「ぬふふふ」
ルーアの指摘にフウは悪戯っ子のような含み笑いをする。
「まぁ、いい。俺様は大悪魔のルーア様だ。縁があってこいつらとつるんでる。よろしくな、女王さん」
ルーアがいつも通り謙虚さの全くない自己紹介をした後にカイが緊張した様子で口を開く。
「失礼します。女王様。俺はカイといいます。師匠……じゃなくて、リディアさんから剣を教わっています」
カイの自己紹介を聞いたフウはカイを凝視する。強い視線を感じたカイは首を傾げるとフウが満足そうな笑みを浮かべる。
「ほほぅ。よい面構えじゃ。流石はリディア殿の愛弟子じゃ。……しかし、惜しいのぉ」
フウはカイを褒めた後で心底残念というように頭を軽く横へ振る。フウの反応を見たカイは不安に襲われる。
(えっ? 惜しい? 何のことだろう? もしかして、俺に足りない何かを女王様は感じ取ったのか?)
不安を感じながらも確認をすべきとカイはフウへ懇願する。
「女王様! 惜しいというのは一体? 俺に何か不足している部分があるのですか?」
真剣なカイの問いにフウは軽く頭を横へ振り真剣な眼差しで語り始める。
「そうではない。妾が惜しいと言ったのは――」
カイは唾を呑み込みフウが告げるであろう次の言葉に神経を集中する。
「――妾が惜しいと言ったのは、お主はいい男なのに……。今の妾では、お主の子を身籠ることができぬ。それが心底残念でのう」
「……はい?」
「そうじゃのう、あと十年。……いやいや、五年程でも成長していればギリギリなんとかなったと思うんじゃが……。しかし、流石に今の姿ではのう。はぁ……、成長がゆっくりなのは難点じゃなー……」
フウの言葉を受けてフォルネとプリムは同意の意味を兼ねてか強く頷く。一方でルーアはくだらないという表情、リディアは相変わらずだなという表情、当事者のカイは何とも言えない表情。
(……真剣に聞いて損した……。はぁ、そっか女王様もそういう人なんだな。……いや、
カイが精神的に疲労したのを尻目にルーアがフウへある質問をする。
「おーい、女王さんよ。聞いてもいいか?」
「うむ。何をじゃ?」
「あんたが、そんななりになっちまった理由。それと、リディアの野郎が何であんたらにそこまで崇められているかをだ」
ルーアの質問にカイは顔を上げて反応する。リディアはルーアを軽く見る。フウは一瞬だが表情を固くして、すぐに笑みを浮かべる。
「そうか、リディア殿はお主らに妾達のことを説明していなかったのか?」
「聞かれなかったのでな。聞かれていれば話していた」
「なははは! なるほどのう。リディア殿らしいわ。まぁ、話すのは構わんが妾から話をしてよいのか? リディア殿。それに恐らくじゃが長い話しになってしまうぞ?」
「私は構わない。フウから説明をしてもらった方がわかりやすいだろう。それと時間に関しては気にしないでいい。今日は拠点の確保ができればいいと思っていた。カイへ本格的な修行をするのは明日からと決めていた」
リディアの言葉を受けてフウは頷く。
「わかった。では、妾から話そう。そう、あれは――」
フウは全てを語り出す……。
リディアと
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