【他者視点】賢者ベルトリ

 小国リンデマにて名高い観光地エルフィがゴファによって蹂躙されている。

 その連絡を誰よりも早く受けったのは、賢者ベルトリが故郷の家族と定期的に故郷とやりとりをしていたからだ。

 

「……」


 数十分にも及ぶ賢者ベルトリ、吸血王ゴファの戦いによって観光地エルフィ、以前の面影は消え失っている。


「……呆れる程にしぶとい男だ。しかし、心の中では理解しているのだろう?」


 空に佇む吸血王ゴファの力は遂に賢者ベルトリの肩を穿ち、戦闘は終わりを迎えた。賢者ベルトリの身体から大地に鮮血が垂れている。荒い息、止まらない悪寒。賢者ベルトリは敗北を悟る。むしろ、よくこここまで持ったほうだ。

 誰が見ても、賢者ベルトリの健闘を称えるだろう。


「貴様らでは我らには勝てぬ。賢者ベルトリ、お前は犬死をするのだ。だが心配をするな賢者ベルトリ。貴様の身体は我の血となり、肉となる。その身体、有効に活用してやろう」

 

 誰に言われずとも分かっていた。

 自分たちでは夜の王者ゴファには及ばない。


「……舐めるなよ……賢者に至るまでの道のりは軽くはねえ……これぐらいの逆境、幾らでも乗り越えてきた……」


「貴様の矮小な仲間二名はこちらの手に落ちている。これ以上、何が出来る?」


 だけど、それでいい。

 そもそも賢者ベルトリは――もとより、生きて帰るつもりはなかった。


 賢者が死ねば、小さくはない衝撃が世界に走るだろう。それに自分達の力でゴファの進軍を少しでも止めることが出来れば後に続く者達が楽になる。

 ベルトリには策を考える時間もなかった。ホーエルン魔法学園が所有する移動拠点ポータルを用いて、最短で故郷に帰還したのだ。


 ――賢者としての在り方は導くこと、そうベルトリは考えている。

 賢者ベルトリの死をもって吸血王ゴファに対する脅威はさらに一段、格上げされるだろう。ならば賢者ベルトリの生き方にも意味があった。


「気に入らないピヨ……いや、ごほっ。気に入らないな、賢者ベルトリ。賢者に至った人間が玉砕覚悟か?」

 

 吸血王ゴファの目から見ても、賢者ベルトリは満身創痍。

 これ以上何が出来るとも思えない。


 しかし、賢者という存在がどれだけ厄介か吸血王ゴファはよく知っていた。

 幾名もの高位な職業に就いた人間をゴファは葬ってきた。しかし、パーティに賢者と名乗る人間がいたパーティは最後まで気が抜けないものだ。


「へへ……ゴファ……俺から何かを引き出そうたって無駄だぜ……」


 賢者ベルトリの脳裏に蘇る青年の姿。


 ホーエルン魔法学園に在学していた一人の学生、彼とパトロアの大平原で出会ったことは偶然だった。

 ムカつくぐらいスラリとした長身と、覇気の無い表情。

 余りにも若い賢者。賢者として必要な経験を積んでいるようには思えない。それでも、青年はベルトリにはステータス看破の心眼ステータスを使った。


 パトロアの大平原で、彼から心眼ステータスの力を向けられた時は唖然としたものだ。思い返すだけで、ひやりと心に汗をかく。


「……俺だって、あいつが何をするか知らねえんだからな……」


 ベルトリは、賢者ウィンフィールドの存在を冒険者ギルドに報告していない。


『――賢者ベルトリ、魔王討伐のために捨て石になってくれ』


 ――そして、その時がやってきた。


 賢者ベルトリの全身に、パトロアの大平原で学生賢者と出会った時と同じように悪寒が走った。それは賢者にまで進化した人間特有の感覚。


 賢者の補正、心眼ステータスが自分に使われている。


 自分の全てが解析されている事実に対する拒絶反応。

 だけどこの瞬間――賢者ウィンフィールドが傍にいるという証でもあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ベルトリ・グンニグルレグ

 性別:男

 種族:人間(賢者)

 レベル:8

 ジョブ:『常人』『魔法使い』『魔歌詩』『光魔導士』『疾風の英雄』『賢者』

 HP:77/43327

 MP:100/112821080

 攻撃力:2301

 防御力: 211860

 俊敏力: 860

 魔力:41413702

 知力: 12000

 幸運: 1876

 悩み :魔王強すぎだろ……カッコつけずに逃げれば良かった……。死にたくねえ……もしこの場を生き残ることが出来たら、二度とカッコつけないでおこう……。後、服もちゃんと特殊効果ある高い奴、買おう。賢者なのに……粗末なローブ着てる俺庶民派とか思ってたあの頃の俺をぶっ飛ばしてえ……。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ベルトリが、新たな賢者の存在を冒険者ギルドに報告しなかった理由はウィンフィールドに対する配慮だ。


「……やはり賢者一人ではなかったかッ! 面白いッ」


 彼は栄光が約束される魔王討伐者でありながら、輝かしい事実を隠していた。

 実際に言葉を交わした回数も多くないが、賢者ベルトリをしても賢者ウィンフィールドの性格や心情を読み解くことは出来なかった。

 

 それでも賢者ベルトリが野良賢者ウィンフィールドを信頼するには十分。

 何故なら彼はベルトリと同じ賢者だから。


「……名乗れ、人間!」


 悠然と空に佇む夜の王者が吠える。

 ゴファの軍勢はどよめいていた。誰もベルトリを取り囲む軍勢の中で人間が隠れ潜んでいたことに気付けなかったからだ。


 多数に無勢なんて言葉では答えられない。圧倒的不利な状況下。

 しかし、軍勢の中から歩み出た青年は眠たげな眼差しで静かに名乗った。


「賢者ウィンフィールド。お前らの天敵、魔王討伐者サタンスレイヤーだよ』

 

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