107話 大賢者の強み
「……魔王討伐者? それに、そいつの半分にも満たない年齢の貴様が賢者だと?」
魔王ゴファは首をかしげていた。
なんだよ俺ぐらいの年齢の人間が魔王討伐したらいけないって言うのか。でも確かに俺はそこで膝をついている賢者ベルトリよりもずっと若い。
賢者って言ったら人間世界でも熟成した人間のイメージがあるよな。
まあ俺のことを年齢で侮ってくれるならそれに越したことはないんだけど。
「馬鹿野郎……ウィンフィールド、なんでお前……堂々と出てきたんだ」
賢者ベルトリが俺に向かって言う。え? 怒ってる?
ああ、そっか。賢者ベルトリが吸血王ゴファの隙を作って、俺が一撃を加えるってそういう話にしてたっけ。
「賢者ベルトリ。少しだけ見直した。あんた、本当に玉砕するつもりだったんだな」
「……滅茶苦茶にされたこの場所は俺たちの故郷だ。そう言っただろ」
「だから捨て石になるってかあ、ただの賢者にしておくには惜しいな」
「……賢者ウィンフィールド。勝算はあるんだろうな。お前が死んだら、俺の名前は前途ある学生賢者を巻き込んだ大馬鹿野郎になっちまう」
「その点は大丈夫。ちゃんと考えてあるから」
「……そうか。だが見ろよ、あの姿。お前が魔王討伐者なんて言うから警戒してるじゃねえか。あれは手加減してくれるって感じには見えねえぞ」
そもそも、あの魔王さんには不意の一撃は効かないよ。
ステータスにも記載のあったように、吸血王ゴファは最弱に分類される存在から始まった。そもそもあいつはモンスターでもない小さなヒヨコから成長していったモンスターだ。弱き存在だった過去は今だって吸血王ゴファの根幹を形成している。
尋常じゃない用心深さを持っているんだ。
「……」
ゴファは徹底している。
弱り切った賢者ベルトリに対しても、奥の手を持ってるんじゃないかって今でも地上に降りてくることもないぐらいは徹底している。
「賢者ウィンフィールド、ゴファを
「勿論」
「そうか……ならいい」
心眼ってのは賢者が持つ職業補正のことだ。
もっともただの賢者ならゴファの過去までは見えないけどな。あそこまで深く見えるのは俺が大賢者だからだ。
「……貴様のような若い人間が賢者か。しかし、馬鹿では無いのだろう。この圧倒的不利な状況からわざわざ姿を現したのだ。何か考えがあるのだろう」
空の魔王は俺に対する態度を改めたようだ。
おお、さすがゴファ。よく分かってる。勿論、無策で出てくるわけがない。
「賢者が二人か……最後は奴らにやらせるとしよう。おい、あの二人はどこに行った! また遊んでいるのか! 魔王ゴファが呼んでいると伝えろ!」
しかしゴファが呼び掛けたモンスター軍勢は誰も答えない。
ゴファが呼んでいるのは腹心の二体の吸血鬼のことだ。
「……どこで油を売っているのだ! ゴファの声が聞こえないのか!」
ほらほら、ゴファの顔が歪んでいく。
さて、果たしてミサキは俺の言う通りにやってくれるだろうか。だけど俺の心配も杞憂だった。最高のタイミングでそれが俺の足元に投げ込まれてきたからだ。
「……お、おお」
ボウリングボールぐらいの大きさの何かだった。
空の上からだと、目を凝らさないと見えないだろう。
今のゴファはこれが何か分かるかな。
「……おおおおおおおおおおおおおおお!」
だけど、こっちの心配も杞憂だった。
空の上に佇むゴファはすぐにこれが何か気付いたようだ。さすが。
「お……おおおおおおおおおおおおおおお!」
魔王にはそれぞれ固有の撃破パターンが存在している。
撃破パターンは弱点と言い換えても良いだろう。
魔王ゴファに対しては、パーティを二つに分けることが重要だった。だけど、闇雲にチームを分けても意味がない。
少なくとも魔王と対等に戦えるだけのパーティを二つ作らないといけない。
一つ目のパーティの役目は、魔王と戦いながら魔王の注意を引き付けること。
そして二つ目のパーティには足元のこいつらをゴファに気付かれず、早急に討伐することが求められる。
「テディ、サイガヤ! お前ら、なぜそのような姿で――!」
魔王ゴファが厄介な魔王として知られている理由が、この頭だけになった吸血鬼二体だ。正体はさっきミサキが討ち取った二体の真祖である。
「お前たちの程の実力者が何故――今すぐに生き返らせてやる!」
魔王ゴファは一体だけだったら大したモンスターじゃない。
いや、賢者ベルトリ一人だったらゴファを討伐出来ないぐらい強いんだけど、あの二体の真祖が傍にいる時の魔王ゴファは一体だけの時より二回りも強いのだ。
真祖二体は古き時代から魔王ゴファに付き従っているゴファの忠臣。奴らがゴファをサポートした時のゴファの強さは、はっきり言って元魔王の彼女だって叶わない。
「生き返らせる? そんなこと、させるわけないじゃん」
そうして時が止まったかのように動けない魔王ゴファの軍勢の中から、ひょっこりと小さな身体を見せて現れた彼女が俺の傍に戻ってきて。
「はあい、ゴファ。久しぶり―――」
役者は揃ったということだ。
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