101話 賢者ベルトリの魔法
朝っぱらから、マリアの来訪を交わして、俺とミサキは待ち合わせ場所に急いだ。
青春通りを超えた先、他愛のない雑踏の中にあるカフェが指定された場所。中に入ると、まるで別世界に飛び込んだような寒気を感じる。
「……ウィン、今のって」
「結界だな。解除されてたけど」
各地に飛ぶことが出来る
特に他国の重要地点に飛ぶことが出来る移動拠点の場所は、ホーエルン魔法学園を管理する重要人物にしか知らされず、学生には絶対に教えられない。
カフェの中には、
「よう、新米賢者。逃げずに来たことだけは褒めてやる。でも、いいぞ。当たり前のように
小国リンデマは魔王軍領地に近い危険地帯、学園にとってはああやって結界を用いて守るべき移動拠点なのだろう。凄いのは、学園と交渉して
明かりもないカフェの中で賢者ベルトリ――の姿が見えた。
「小国リンデマは今、吸血王ゴファに襲われている。まだどこの国もゴファ撃退に向けて動き出せていない程、ホットな話だ。お陰で、この移動拠点の価値はウナギ上りだ。昨日の話だがな、学園の冒険者ギルド職員の連中が間違ってもこの移動拠点に学生が気付かぬよう結界を更新した。一時的に解除させたのは、俺だけどな。ははは」
ボサボサ髪の眼鏡中年、白くて不健康な腕。両脇には、二人の仲間。頬に大きな傷のある大柄の赤い短髪。黒髪を後ろでポニーテールにしたやたらと細い目の女。
「まあ、座ってくれ。短い時とはいえ、俺たちは命を共にする仲間だからな」
促されてソファに座る。隣に座るミサキは、何やら考えごと。
「ベルトリ! やっぱり正気かよ! こんなガキ二人が協力者!? 俺らが仕留める相手はあの吸血王ゴファだぜ? 」
「タイフーン。黙れ」
「……っ」
ベルトリの魔法によって、大柄の男の口が閉じられる。
こいつらの中には明確に賢者ベルトリがリーダーらしい。まあ、賢者だもんなあ。賢者、賢者。職業としては極めて高い位階にあるもんな。
……もう一人の女は俺とミサキを値踏みするように目を細めている。
……え? 見過ぎじゃない? 緊張するなあ。ステータスでこの二人の力を確認したいけど、目の前にはあの賢者ベルトリ。今はやめておこう。
後でチャンスはいくらでもあるだろ。
「まずは……そうだな。感謝を、賢者ウィンフィールド。新米だろうと、その年齢で賢者に辿り着いた事実は驚嘆に値する。で、だ。報酬の件だが……」
「えっと。俺に賢者としての在り方を教えてくれるんだろ?」
「ああ。それについては、心配するな。お前には嫌って程、賢者としての生き方を教えてやる。ホーエルンの主、あのユバ・ホーエルン、公爵姫は賢者でありながら、お前には何も教えてないようだからな。勿論、それとは別に正式は報酬を用意している。俺たちの魔王討伐が成功に終わるにしろ、失敗にしろ、な」
「……え? そうなの?」
ミサキが報酬って言葉に目を輝かせた。
きちんと賢者ベルトリの話を聞いていたらしい。
「ホーエルン魔法学園の生徒を魔王討伐に駆り出すために、俺たちも出来るだけのものを差し出したってわけだ。安心しろ、お前たちだけは死んでもこのホーエルンに帰してやる。それが学園との約束だからな」
でも結末だけは俺は知っている。
こいつらは吸血王ゴファに絶対に勝てないわけだ。
『聖マリ』の世界で吸血王ゴファはマリアに倒されるまで魔王の一人として君臨しているからな。勝ち目はない。
じゃあ、どうして俺はこいつに協力することにしたのか。
「ウィン! 聞いた! 報酬だって!?」
吸血王ゴファに対し、並々ならぬ思いがある彼女の熱にかられたからだ。
「じゃあ、移動するか。あ、そうだ。ちょっと前に、その前に――二人、手を出せ。こうだ、こうだ。利き手を開いて、手を広げろ」
言われるがまま、差し出した。ミサキは少し嫌がっていたみたいだけど。
「へへ、俺特性の――
俺達の手のひらに黄色の六芒星が浮き上がる。
「お前たちには戦わせないと言っても、場所が場所。何があっても可笑しくないからな……」
賢者ベルトリの仲間二人は何とも言えない顔をしていて、俺は咄嗟に机の下で足をミサキの足にぶつけた。ミサキ、何も言うな。分かってる、これは違うって。
「へへっ。じゃあ、行くか。楽しい楽しい……」
俺とミサキが受けた攻撃を、誰かに転換する魔法。転換先を調べる。
……こっそりと。俺も賢者だ。ベルトリにばれないように。それぐらいのことは出来る。俺とミサキが受けたダメージは目の前の3人に等しく配分。
成程。随分と過保護なことだ。
「――魔王討伐の時間だ」
魔法の正体にミサキも気づいたんだろう。
ミサキは訝し気な表情で、賢者ベルトリの後ろ姿を見つめていた。
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