100話 出発前夜
賢者ベルトリは学園側に掛け合って、ホーエルン魔法学園が管理している
まさか、学園側がここまで協力するなんて……。
やはり魔王討伐というのは、国を超えて協力すべきミッションってことかな。
「ごめん、ウィン。僕の我儘につき合わせちゃって……」
深夜に頭の中で情報を整理していると、ひょっこりミサキが顔を出した。ちょっと申し訳なさそうにしているけど、俺たちは仲間なんだ。当たり前のこと。
「それでエアロは何か言ってた?」
「……」
俺たちが明日から向かう先は、帝国バイエルンの国境を越えた先。
リンデマと呼ばれる小国だ。魔王領のすぐ近くにあり、しょっちゅう魔王軍のちょっかいを受けている。向かうには移動拠点を用いるので楽ちんだ。
「無理しちゃだめよって……言ってた」
「魔王討伐に同行するなんて、無理の極みだと思うけどな」
「……実はね、詳しい話はしてないんだ。エアロはああ見えて心配すると思うし……止められるかもしれない」
「まあー、真実を知ったら止めるだろうな、魔王討伐は帝国バイエルンでも数年に一度の軍事遠征ぐらいでしかやらないし、魔王討伐に同行するなんて自殺と同じだ」
「……ウィンは何も聞かないの? その……理由とか」
「それはまた、ミサキが言いたくなった時で大丈夫」
「……」
なんか、言いづらそうにしてるしな。
さて、俺たちが死ねば、この小さい冒険者ギルドはすぐに潰れる。
成功した時のリターンは計り知れない程大きいけど、失敗すれば俺達ともどもこの冒険者ギルドは破滅だ。エアロは俺たちを何かの案件に送り出すにしても、まさか魔王討伐の同行とは夢にも思っていないだろう。
――でも、吸血王ゴファかあ。
見事、討伐出来たら、賢者ベルトリの名前はもっと上がるだろうな。
「……気持ちいい」
明日からの遠征に備え、枕を低反発のものに取り換えたんだ。枕の中には水鳥の羽が詰まっている。長旅をするなら、お気に入りの枕って案外欠かせなかったりするのだ。これ、明日からの旅にも持っていこうかな。
翌日、つまり出発の朝。
あいつらとの待ち合わせ一時間前にぴったり起きると、16番の冒険者ギルド一階がやかましかった。二階の廊下に出ると、うんざりした顔のエアロと出くわす。
え、俺なんかした? こっち見てるし。
「君にお客様が来てるわよ。人気者ね、ウィンフィールド君。前回の反省を生かして、一階で待ってもらっているわ。追い返すのも忍びないんだけど、どうする?」
「……誰?」
朝っぱらからこんな俺にお客様なんて誰だよ。
「貴方たちの学年の有名人なんだけど……また、あの子よ。ウィンフィールド君と会いたいってうるさいよの……」
「あいつか……」
マリア・ニュートラル。
あいつはおれに用事があったようだが、こちとら忙しいのである。もう少ししたら、魔王討伐に向かう賢者たちと合流しなければいけない。あいつと無駄話をしている暇なんてない。
「そういえば、聖女見習い様は、2番の冒険者ギルドからスカウトされて専属になったらしいわよ」
「……へえ、凄いな。2番ギルドからスカウトされるなんて」
2番は黒金鍛冶士という職業を持つ3年生がギルドの顔として君臨している。優秀な学生が2番ギルドを専属とした場合、恩恵として黒金鍛冶士が特注の武器を作ってくれる割のいいギルドだ。俺が『聖マリ』のプレイヤーだった頃は実力主義の3番冒険者ギルドを選ぶことが多かったけど、2番も結構人気があったよな。
最初から強い武器が手に入るからって。
「……言葉の割には全然興味無さそうな顔だけど」
「寝起きだから眠いだけだよ。ミサキ、悪いけどマリアを追い返してくれ。俺はちょっとこれからの準備をしておきたい」
「分かった! 任せて!」
しかし、マリアの用事……何だろう?
あいつらが学園を留守にしている間に、俺がズレータを育成したから育成法でも聞きに来たんじゃないだろうな。そんなん、眼鏡だよ。ズレータが目が悪いから、あいつに合う眼鏡を俺が選んでやっただけだ。
「――こんな狭い場所で魔法を使うなんて、何考えているの!?」
「ウィンが追い返せって言ったから!」
一階でどんぱちが聞こえてきた。
てかあの二人、やっぱり相性が悪いなあ。
「ちょっと! ウィンフィールド! なんで、避けるの! 二階にいるんでしょ! こっちはわかってるのよ!」
「ウィンフィールド君。呼ばれてるわよ?」
「……」
マリアが、俺の知るアマリアだったことには驚いたけど、近寄らない。
あいつに近寄ると、吸血王ゴファ討伐よりも面倒になるからな。命がいくつあっても足りないぐらいだ。マリア、お前は俺の知らない場所で王道を進んでください。
「それよりウィンフィールド君。ミサキちゃんが実はリンデマ出身で秘境の観光案内が出来るなんて……あの子、意外な特技があるのねえ……」
――ミサキ。もっと上手い理由、幾らでもあっただろ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます