第87話 敵を騙すには、まず味方から

 俺の故郷、ピクミンは閉鎖的な国だ。

 山脈に囲まれ、他国と関係を持とうとせず、生活は国の中で閉じている。明日は今日の繰り返しで、危険な冒険に身を任せる国民なんて滅多にいない。

 大多数の国民が職業『常人ノーマル』で終わる国が、ピクミンぐらいしかないだろうな。


 俺はそんな閉鎖国家に転生した。 

 知的好奇心に溢れた俺。『厄病神ゴースト』という隠れ職業を持っていなくても、家族から厄介者扱いされるのは時間の問題だっただろうな。


「ウィンフィールド王子……あの子、何者?」


 サントリーは床に寝ころんだままだ。

 対して俺は、寝起きなのに目まぐるしく思考を動かしている。


「サントリー、お前どこで寝てるんだよ。風邪引くぞ。ベッドなら貸してやるから」


 秘儀、話題逸らし。


「王子の真似をしていた頃は、野山で寝てた頃もあった。アレに比べれば、天井があるだけマシ。はぐらかそうとしても無駄。王子、あのミサキって子、何……?」

「うーん。俺の奴隷?」

「何で疑問形……?」


 サントリーとキリキ。

 こいつらは俺の祖国で、国を襲った魔王を討伐した大英雄の子供としてもてはやされている。職業『常人ノーマル』が多い俺の国じゃあ、珍しく『常人ノーマル』から2回も進化もしている超有望株だ。

 あの親父の跡を継いで、ピクミンの兵士になるんだと思っていたけど……。 


「王子は奴隷なんか拾う性格じゃ無かった。百歩譲っても、奴隷という立場からすぐに解放した筈。あの子、どこで拾ったの……?」

「ピクミンを出て、帝国バイエルンに向かう途中でだよ。あと、野良猫みたいに拾ったとかいうな」

「はあ……王子、聞いてくれるなって顔してるからこれ以上、聞かないけど……一応、王子はピクミンの王族。素性不明な子を傍に置くのはお勧めしない」


 サントリーがすくっと立ち上がる。 

 床に敷かれていた毛布を持って、俺をじっと見た。


 一年振りに見る、故郷の関係者。

 まさかホーエルン魔法学園で、故郷の人間に出会うことに会うとは。あの国は、ホーエルン魔法学園の存在すら知らない国民が大多数なのに……。


「それより、お前とキリキはどこに住んでるんだ。三食食べてるのか? このホーエルンで生きていく金、あるのか? 無かったら、俺が――」

「王子に心配される程、落ちぶれてません。私たちは寮に住んでる。特待生扱い」

「へーえ。さすがだなぁ」


 特待生って、あのマリアと同じ待遇かよ。

 学費無料だったり、一部の施設が無料で使えたり。ご立派なことだ。


「あと。一応、伝えておくけど、王子がホーエルン魔法学園で過ごしている生活は国王様達に定期的に報告されてる」

「えっ、そうなのか?」

「うん。でも王子がこの一年間、ホーエルン魔法学園で腑抜けたことばっかりしていたから、すっかり国王様たちも王子のことを警戒しなくなった」

「そ、そうか。そうだよな」


 ミサキに洗脳されていた俺は、無口スケルトンなんて悲しい名前で有名だったからなぁ。マックスを中心にした苛めっ子連中のサンドバッグにされ、灰色の学園生活を送っていた。 

 俺の家族からすれば、井の中の蛙大海を知らずみたいな感じに映っているんだろうか。


「……」

「王子、人の顔をじっと見て、なに?」

「いや、別に……」


 俺は恐る恐るサントリーの様子を伺う。

 こいつと兄のキリキは俺に憧れていたから、俺のこの一年間を知って失望されてたりするかな。

 なんか、それはそれで少しだけ寂しい。と思っていたんだけど。


「敵を騙すには、まず味方からって言葉が帝国バイエルンにあるって聞いた。国王様らの目を欺くために、腑抜けていたんだから……王子はやっぱり天才」


 あ、あれ? なんか、妙に尊敬してる目で俺のこと見てない?



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