第85話 故郷ピクミン

 マリアにがらんとした空き教室に連れ込まれる。


「ズレータと二人で出かけたって聞いたけど! お兄ちゃん、何をしていたの!」


 あ、そうか。つい忘れそうになるけれど、こいつはアマリアだった。

 この学園で唯一と言っていい。俺の過去をちょっとだけ知っている女の子。


「……情報が早いなあ。わざわざ朝早くから出かけたのに」

「あの教室にあるのは、ラーズ樹林に繋がっている移動拠点だよ。どうして、ズレータとお兄ちゃんが移動拠点から帰ってくるの? 一緒の冒険者パーティになったわけじゃないよね?」

 

 ホーエルン魔法学園の支配者。

 公爵姫のお願いに、ズレータを巻き込んでいるなんて口が裂けても言えなかった。なので、別角度から答える。


「ズレータが鍛えて欲しいって言うんで、連れていっただけだよ」

「嘘でしょ! あのプライドの高いズレータが、お兄ちゃんを頼るなんて信じれないから!」

「知りたいなら、ズレータに直接聞いたらいいだろ」

「それが出来ないから、聞いてるんじゃない!」


 聖女見習いのマリア様。それにズレータに、元マリアのパーティメンバーだもんな。パーティリーダーとしては気になってるのかな、さすが優等生様だ。


「出来ないわけないだろ。元、パーティメンバーなんだから。もしかして、ズレータがお前たちのパーティから抜けたことに罪悪感でも感じてるのか」

「う……当たり前でしょ……私はまだ、ズレータが辞めてこと、納得していないんだから……」

「ズレータに聞けばいいだろ。もっとも、お前には答えないと思うけど」

「ど、どうして私には答えないの!?」

 

 ホーエルン魔法学園では真面目で、人当たりも良いと思われているマリア・ニュートラル。だけど、元があのアマリアだと知ってから俺も態度が変わる。


 ……こいつは、結構しつこいのだ。

 昔から自分が求める答えを引き出すまで、諦めない。だから。


「おい! お前のパーティのネロが廊下にいるぞ!」

「え……!」

 

 マリアの弱点は、パーティメンバー。

 あいつらにはカッコいい所を見せようとするから、元のアマリアの親しみやすい性格なんて晒せない。マリアの視線が廊下に向いた瞬間に、廊下と反対側に走って、窓を開けた。風が顔に当たる、ここは3階。躊躇もせずに、飛び降りた。


「あ、ちょっと! 逃げないでよ!」




 16番の冒険者ギルド。そこが今の俺の家。

 扉を開けるとギルド内が活気づいていた。珍しいこともあるもんだ。

 二人の男女が熱心に話し合っている、あれは一年生だな。すぐに分かるよ、まだ制服が着慣れていない。一年生が冒険者ギルドに何の用だろう。

 しかも、ここは16番だぜ? 最底辺の冒険者ギルドだ。


「やっと帰って来た! ウィンに紹介したい人がいるんだけど――!」 


 さらに珍しいことにミサキが、一年生と一緒に話し合っていた。まさか、友達でも出来たんだろうか。そう思っていると。


「——ウィンフィールド王子! こんな場所にいたのですねッ!」

「……え?」


 この学園では、一度も呼ばれたことのない名前で呼ばれる俺。

 足が止まってしまう。今、何て言った?


「ウィンの故郷からホーエルンに入学したんだって! わざわざウィンに会いに来てくれたんだよ!」 


 ミサキと一緒にいた一年生の男女二人。

 そいつらは……俺の故郷ピクミンで最も有名な兵士の子供だった。



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