第84話 適正ランク11迷宮『ラーズ樹林』終

 気絶したズレータの傍に駆け寄る。


「おーい、ズレータ。起きてるかあ? うん、ダメだなこりゃ」


 ズレータは口から泡を吹きながら、気絶していた。

 駄目だこりゃ、もう置きそうにないな。


「まあ、よくやったほうなのか? 一応、適正ランクが2つも上の相手だからな」


 でも、あいつが樹林の中で相手にしていたアルサウルスはこのラーズ樹林における、やられ役みたいなものなんだ。このバナウザウルスとは格が違うっての。

 そんなバナウザウルスでもこの『ラーズ樹林』じゃ、そこそこのモンスターだ。


「バオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」


 しかも、バナウザウルスは怒らせてるし。

 はあ。こいつ、ただ怒らせただけかよ。刀ぐらいは借りるぞ。おお、すんなり手に馴染む。やっぱりホーエルンに来るだけあって武器にも金掛けてるなあ。


「バオおおおおおオオおオオ!!」


 バナウザウルスは今度は俺をロックオン。 

 長い尻尾をズレータにやったように、薙ぎ払うように振り回す。ズレータは目測で交わそうとしたけれど、躱せなかった。単純にあいつの能力不足。後、2,3ぐらい侍としてのレベルが上がっていれば、何とかなったかな、とも思うけど。


「本当はズレータ。お前に見せてやりたかったんだけどなあ」


 刀を鞘に納める。

 侍としての技、そんなの侍になるための進化条件を満たした時に全部覚えたって。

 職業、侍。特殊補正は『動体視力』。極めれば、弾丸の軌跡だってはっきりと見える。つまり、これぐらいのモンスターなんて余裕。


「バオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」

「奥義――影二刀斬」




「勝利の代償としてもらうよ。一個だけな」


 巨体を横たわらせて、バナウザウルスが悶えている。俺が狙ったのは尻尾の先にある弱点の鱗。たったそれだけで、バナウザウルスは動きを止めた。

 ふう、巣の中から適当に一個、卵を確保。


「だるいなあ。お前を連れて帰らないと、恐竜の餌になっちゃうもんなあ……」


 気絶したズレータを担ぎ挙げて、移動拠点ポータルまで歩く。


「重……」


 途中で、何体もの小型恐竜アルサウルスが襲ってくるけど、行きよりもずっと少ない。バナウザウルスを倒した俺の姿を覗き見ていたんだろう。


「アルサウルスぐらいなら何十体来ても問題なって。このラーズ樹林なら、やっぱりディーラザウルスだな。あいつは強かったなあ」


 大体、迷宮なら主がいる。

 適正ランク11、この迷宮『ラーズ樹林』だって、もっと奥地に行けば、種類の違う恐竜がわんさかいる。地帯だって、ラーズ樹林なんて銘打ってるけど、山岳地帯もあるし、山脈もある。ディーラザウルスはラーズ樹林を出た先にある山岳地帯を根城にしている恐竜だ。跳躍力が高くて、爪には毒。討伐適正ランクは確か11、あいつを倒すのは苦労したなあ。


「だから、アルサウルスが何体来たって無駄だって。俺はこう見えても強いんだぞ? このラーズ樹林で一番の主からも認められたことあるんだぞ」


 ズレータの刀を借りて、アルサウルスをたたっ斬る。

 しかし、良い刀だなあ。助けたお礼に俺が欲しいぐらいだよ。そうこういているうちに移動拠点に到着。俺はズレータを担いだまま、移動拠点に手を触れる。


移動拠点ポータル、発動」




 戻っていたのは、見慣れた教室。

 学び舎の一室だ。部屋の中心にあった椅子や机を退かして、移動拠点ルビを入力…のためにスペースを確保している。

 

「よっこらせ」


 ズレータを床に寝かして、軽く身体を動かす。

 はあ、重かった。

 

「書置きも残しておくか」


 その辺に置かれた机の中をごそごそと漁る。お、あったあった。

 文房具一式を発見。それを利用して、ズレータにメッセージ。机の上に卵と一緒に置いとけば、大丈夫だろう。

 公爵姫のイベントはズレータに進めてもらう、俺はそう決めたんだ。

 べ、別に面倒だからじゃないぞ。ズレータに少しぐらい恩を売ってもいいんじゃと思ったからだ。



 

 ガラガラと引き戸を開けて、廊下に出る。校舎の中を歩いていると、げえ!

 嫌な奴がこっちに向かってくる! うわあ、最悪だ!


「……」


 冒険者見込みランク12.マックス・ノースラデイ。

 盛り上がる筋肉と、浅黒い肌。

 自慢の肉体を惜しげもなく露出させたピチピチのTシャツ、そして実際に岩のような硬い身体を持つ三年生。

 このホーエルン魔法学園の生徒だったら、知らぬ者はいない問題児。


「……お、おう」


 難癖付けられると思ったけど、あいつは身体を小さくして、通り過ぎる。

 お、おうって何だよ、マックス。


「……あ、あれ?」


 何か拍子抜け。あいつのことだから、出会い頭に喧嘩を売ってくると思ったんだけど……。『聖マリ』の世界じゃ、マックスは何度も何度も喧嘩をして、叩きのめしてもめげずに向かってくるキャラクターだったしな。


 あいつを仲間にするには、五回は決闘をして勝利しないといけないんだ。よっぽど、格下に見てた俺にやられたこと、気にしてるのかな?

 

「まあ、いいか」


 面倒なキャラクターが大人しくなるのは、俺にとっても嬉しいこと。

 余計な面倒なんてこれ以上背負い込みたくないからな。マックス・ノースラデイのイベントも、公爵姫と同じぐらい大変なんだよ。

  

「——ちょっと待って! こっちに来て!」


 その時、ぐいっと服を引っ張られて、空き教室に引っ張られる。


「え?」


 白い肌の女子生徒。

 深い蒼色の長髪。白を基調とするホーエルン魔法学園の制服をアレンジすることなく、しっかりと着こなして、如何いかにもな優等生。 


 それはこの学園の人気者、マリアだった。


「お、お兄ちゃん……ズレータと……何してたの?」





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