第83話 適正ランク11迷宮『ラーズ樹林』④
草むらに隠れて、そいつを見る。
普通、鳥の巣ってのは細い木の枝を組み合わせ、居心地の良い巣を作るものだ。
「バオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」
だけど、そいつが守っている巣は大きさが段違い。
まず巣の材料が木の枝でも、大樹の上の方にありそうなぶっとい枝だ。そんな材料で巣を作っているんだから、スケール感が巨大である。
そして巣の中にはごろごろと茶色と薄紅の模様がある卵が幾つも転がっている。
さらに自らの巣を守るかのように周りを威嚇する一体の生き物。
「バロオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」
「ウィンフィールド……あれが……」
「そう、バナウザウルスだ。相変わらず、でっかいなあ」
イメージは図鑑にも乗っているブラキオサウルスに近いかもな。
少し緑色の図体、首が長くて、どれだけ背の高い木に生えている葉っぱだって口が届きそうだ。そしてあいつの特徴といったらその長い尻尾だろう。
あれが適正ランク13、バナウザウルスの姿。
「ズレータ。あいつの足元、巣の中にある卵だけどな。バナウザウルスの卵っていえば、珍味として知られている以上に効果的な強壮剤なんだ。ズレータ、お前の眼鏡と同じように、あれを食えば一時的に身体機能が上がる連中が存在する」
「じゃあ、あれを欲しがったあのおっさん。目的は身体機能の向上か?」
「さあ。そこまでは知らないけどさ」
バナウザウルスの攻撃方法は主に尻尾。叩きつけられたら、溜まらない。
並みの人間なら、一撃でも食らったら終わりだ。
さすがにこれまで余裕でやってきたズレータも適正ランク13の相手を見て汗をかいている。
「相手にするには、不足はねえな……よく見えるぜ……」
眼鏡のふちを弄りながら、目を細めている。
……やばい、なんか笑いそうになる。眼鏡のズレータっていうイメージが無さすぎるからな。しかも、眼鏡を外す気配も無いし……どんだけ気に入ったんだよ。
「バロオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」
バナウザウルスの咆哮。
空気がビリビリと揺れて、樹林の中から鳥たちが飛び立っていく。
「……ふう、ふう、ふう、ふう」
ズレータがエバンスからどんなアドバイスを貰ったのか知らないが、ズレータは真正面から戦うつもり満々のようだ。武者震いしてるしな。
「ウィンフィールド、俺にやらせてくれ……頼む……」
「いいのか。あいつの適正ランクは13、今のお前よりも2つ上だけど」
「最強の眼鏡をかけた俺の力を試してみたいんだ」
「分かった、そこまでの覚悟あるなら何も言わない」
眼鏡は全然最強じゃないけどな。どこでも売ってるよ。
「ありがとよウィンフィールド……この眼鏡も含めてな……」
そして、あいつは刀を持って、草むらから飛び出していった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「え、おい」
何あれ。何で突然大声あげてんの。
まさかあれか。自分で勇気を奮い立たせるためとか?
逆効果にも程があると思うけど。
あ、ほらバナウザウルスがズレータの姿を見つけて、目の色を変えたじゃん。
「バロオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」
バナウザウルスは尻尾を振って、ズレータに向かって薙ぎ払う。
その速度をきっとズレータは見誤っていた。
視界が良くなって、動体視力が上がった今の自分なら躱せるに違いないと、ズレータは甘く考えたんだろうな。
「あべし!」
あちゃあ。結果は無残なもの。
ズレータは吹き飛ばされて、木々の幹に身体をぶつけた。首ががくりと項垂れている、気絶したみたいだ。
「バロオおオおオおオおオおオおおおオオおオオ!!」
そして、勝ち誇っているつもりなのか。
適正ランク13のモンスターが唸り声をあげる。
「はあ……残念だな、ズレータ。お前に侍の戦い方を見せたかったのに」
俺はズレータの傍に近寄り、アイツが残した刀を拾った。
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