第82話 適正ランク11迷宮『ラーズ樹林』③

 ズレータは迫りくる小型恐竜の首を一撃で落としていく。 

 その動きは、少し前とは大違い。

 俺が知る本物の侍らしく、刀一本で戦う様で敵を迎え撃つ姿は単純に格好いい。


「……す、すげえ。ここまで変わるのかよ」


 あいつはあいつで、自分の力に震えているみたいだった。

 方を握る自分の手を見つめて、信じられないといったばかりに呟いている。

 だけど、今。

 ズレータの身に起きた変化は現実だ。あいつはたった数分で劇的に強くなった。

 

「ズレータ。侍に一番必要な力は視力だ。今までのお前にとって、侍という職業がどれだけ宝の持ち腐れだったか分かっただろ」

「……そうだな。ウィンフィールド、お前の言う通りだ」

「ズレータ。また一体、来てるぞ」


 あいつはちらりと見ただけで、僅かな動揺すらも見られない。


「……もう負けねえよ。負ける気がしねえ!」


 どっしりと構えて、迎え撃つ。

 

 俺たちに襲ってくる小型恐竜、名前はアルサウルス。

 冒険者ランクに照らし合わせると、ランク15の冒険者が一体一で何とか倒せるモンスターだ。

 ランク15のモンスター、つまり今のズレータにとっては適当な相手ってこと。


「おらあ!」


 返す刃で一撃、ズレータの攻撃は見事、アルサウルスの急所を貫いた。

 返り血を浴びるが、ズレータには気にした様子もない。 

 しかし、こうも変わるのか。逆に俺の方がびっくりだよ。


「今の俺なら何体でも相手に出来そうだぜ」

「ズレータ、侍としての世界がひっくり返っただろ」

「……ああ。間違いねえよ」


 ズレータに足りない点は明白だった。

 職業『侍』、職業補正は『動体視力』。


 『動体視力』を上手く利用すれば、弾丸の動きさえ避けられるようになる。


「はあ……お前、目が悪い癖に何で眼鏡しなかったんだよ」

「そりゃあ、眼鏡なんて恰好悪いだろ……」

「馬鹿。恰好悪いで死んだら終わりだろ」

「くそ、言い返せねえな……」


 『聖マリ』プレイヤーにとって、ズレータという侍の強化方法は明確だ。


 ズレータのために眼鏡を買ってやること。

 こいつに眼鏡を掛けさせるだけで攻撃力と俊敏力が1.5倍。それに何故か幸運まで上がる。こんなお手軽な強化方法ってないだろ……。


「ウィンフィールド、こんなの国の師匠だって教えてくれなかったぜ……」

「お前の国。恰好つけしかいなかったのかよ」

「……眼鏡はだせえって子供の頃から言われていたからな」


 眼鏡を付けることで、ズレータは襲ってくる恐竜を一撃で倒せるようになった。

 アルサウルスよりも強いモンスターの場合は俺が相手をすることもあるけど、基本は襲ってくる恐竜の対応はズレータに任せることにした。 

 それはズレータの要望でもあった。


「ウィンフィールド! お前……すげえよッ! 師匠って呼ばせてくれ!」

「……まじで勘弁してくれ」


 そこから先のズレータは絶好調だった。

 眼鏡をかけただけで、調子がこうも上向くんだから人って分からないよ。

 だって眼鏡だぜ、眼鏡。むしろ、ズレータの奴、これまでどれだけ悪い視界で戦っていたんだよ。そっちの方がびっくりだって。


「じゃあズレータ。どんどん行こうか、」

「……ああ! 行こうぜ!」



 そして、歩くこと数十分。

 前方に俺たちの身の丈の3倍はあろうかと思われる首の長い恐竜の姿が見えた。目が血走って、しきりに辺りを気にしているようであった。


 つまり、俺たちは目的地であるバナウザウルスの巣までやってきたってわけだ。



――――――――――――———————————

16番の冒険者ギルドにて

エアロ「あら。貴方が来るなんて珍しいじゃない」

12番ギルドのヨアハ「エアロ。ウィンフィールドの奴を知らないか。あいつにちょっと頼みがあってな」

エアロ「あの子なら、ズレータ君と出かけたわよ」

12番ギルドのヨアハ「……あの二人が? 珍しいこともあるもんだな」


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表紙が滅茶苦茶素晴らしいので、良ければ手に取って見てみて下さい。

(コロナが大変な時期なので、ファンタジア文庫HPなどで……)


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