第80話 適正ランク11迷宮『ラーズ樹林』①

 酒場でズレータから報告を受けている。

 ズレータが昼過ぎから飲んだくれていたあの酒場でだ。

 ちなみにミサキはなんか妙に気が合ったユリアと二人でカフェに行ってしまった。あの二人はあの二人で何の話をしているのか。


「ウィンフィールド……お前の言う通りにしたら怪しい奴が寄って来て……見た目は全然その辺にいるおっさんに見えたんだけど、何ていうか貫禄があってな……あれはただモンじゃねえぞ」


 俺はズレータの話を聞きながら、こっそりステータスでズレータの能力を確認。 

 お、レベルが1上がっていた。マリアのパーティを抜けて一人になっても頑張って修行しているんだろう。


「うんうん、それで?」

「俺のために依頼を持ってきたっていうんだ……それが俺のランクじゃ到底、受けられない高報報酬案件、あのラーズ樹林でバナウザウルスの卵を取ってきてくれって言うんだ。冒険者ギルドを通していない闇依頼なのにこの難易度…どう考えたって可笑しいだろ……ウィンフィールド、お前に言われて依頼を失敗しまくってる俺にそんな依頼を持ってくるなんて……」


 ズレータによればその男はとてもギルド職員には見えなかったという。


 ビンゴだ。

 公爵姫の傍にいる裏切者、がやっとズレータに接触してきた。

 

「で、だな。当然、俺が達成出来る依頼じゃないから断ろうとしたんだが、必要なものは全部揃ってるって言われてさ……ラーズ樹林に行くための移動拠点ポータルの鍵まで貰った……やばいだろ……あいつ、何者だよ……」

 

 ズレータの言う通り、冒険者ギルドを通さないで迷宮に入ることはご法度である。

 ただ、そういう闇依頼はギルドを通さない分、報酬は高い。

 しかし、男がズレータに持ち掛けた迷宮は適正ランクが11と言われている『ラーズ樹林だ。当然、冒険者ギルドが管理している移動拠点ポータルを使わないと、辿り着けない場所である。ズレータは謎の男が、移動拠点ポータルを強制的に開かせる鍵を持っていたことに驚いているらしい。


「で、ズレータ、お前はどうするんだ」

「俺は……」


 ズレータに近づいてきた男は、もしズレータが迷宮からバナウザウルスの卵を持ってくれば莫大な金を支払うと言ってきたらしい。

 こういうギルドを通さない闇依頼はあることはあるけど、男が提示した額はズレータをびっくりさせる程。それに男は適正ランクが『ラーズ樹林』に届かないズレータのために、依頼達成に必要な情報を攻略詳細に教えてくれたしい。


「……」


 エバンスは落ちぶれた学生に情報を与えて、自分の欲しいものを学生を使って取りに行かせている。

 エバンスの誘いに乗って無茶な冒険をし、命を落としてしまう学生が年間で数人いるらしい。公爵姫ユバ・ホーエルンが気にしているのは、そこだった。

 誰かが学生に無茶な依頼をさせているってな。


「ウィンフィールド。俺に話しかけてきた奴が公爵姫が探している男なんだな?」

「ああ、そうだよ。だけど、あいつを捕まえるにはもっと証拠が必要だ。俺としてはズレータにそいつの信頼を稼いで欲しいけど、これ以上の無理は言わない」


 ラーズ樹林は危険な場所だ。公爵姫のお願いに関係しているとあって乗り気だったズレータが、躊躇うのも分かる。

 

「…………乗りかかった船だ、俺はやるぞウィンフィールド」





 翌日、俺たちは移動拠点を使って迷宮に来ていた。

 冒険者ギルドを通していないから、移動拠点が起動するわけがない。けれど、エバンスからズレータが与えられた鍵を移動拠点に差し込むと、起動した。


 俺たちがやってきたのは適正ランク11と言われているラーズ樹林だ。

 生い茂る草木の中に、密林の中に移動拠点が設置されていた。湿度が高くて、長時間いるど熱中症になりそうだった。


 ラーズ樹林は、人間も魔物も管理していない大陸に存在する迷宮だ。

 ホーエルン魔法学園で冒険者ギルドから与えられる依頼としては、かなり難易度の高い依頼である。少なくとも、今のハイディ先輩の冒険者パーティでも迷宮に来ることは認められないだろう。


「ウィンフィールド! やっぱ帰ろうぜ! ラーズ樹林を舐めていた!」

 

 早速、ズレータがへたれている。

 あんな風にエバンスから闇依頼を受けた学生は、自分が持つ適正ランクより高い迷宮に入って、パニックになるんだろう。


「落ち着け。お前がマックスに挑んだ時は一人だったけど、今は違うだろ」

「何が違うんだよ、ウィンフィールド! 実力が格上すぎる相手に挑もうとしているのは同じだろ! あああああ! さっそく来たぞ、ウィンフィールド! 恐竜だ! おい、ウィンフィールド! 後ろから来てる! 何ぼけっとしてるんだよ!」


 ズレータは真っ青だ。侍なのに、剣さえも抜いていない。

 あ、移動拠点の鍵を持って、ホーエルンに帰ろうとしているし。


「冷静になれよ、ズレータ。お前、昨夜は寝ないでこのラーズ樹林のこと、調べてきたんだろ? お前を捨てたマリアのパーティーを見返したいんだろ?」

「調べたっていっても、これ程ヤバイ場所だとか思わなかったんだよ!」


 俺はエバンスの指定するバナウザウルスの卵を取って帰るまではホーエルンに戻る気は無かった。『上忍』のユリアが尾行を始めたので、出来るだけ早く公爵姫のお願いをクリアしたいのだ。そのためにはエバンスが接触してきたズレータには、もっと頑張ってもらう必要がある。


「それにマリア達の話はするなって! 俺は捨てられたんだ! それよりウィンフィールド、すぐそこに来てるぞッ!」


 しかしなあ、ズレータのやつちょっとビビりすぎじゃない?

 確かにラーズ樹林は危険な場所だけど、少しは安心させてあげないかな。

 だから俺は後ろを振り向くことなく、俺の首を噛みちぎろうとしていた小型恐竜の首を右手で掴んで、勢いそのままに地面に叩きつける。


「マックスの時とは全然違うだろ——俺がいるんだから」



 

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