第77話 お願いの協力者

 さて……協力者を誰にするか……。

 ギルド1階の掃除しながら考えたら、数秒で答えがでた。

 あ。最高の囮役、じゃなくて協力者いるじゃんってさ。




「いらっしゃーい、ませー! あー ! お兄さん、うちの常連のマックスさんをぶちのめした人だー! よ! 有名人!」

 

 きょろきょろと店内を見渡すと、俺が探していたあいつは酒場の隅っこでこっそり一人で飲んでいた。

 やべえ……近寄るなオーラを出している。目が死んでいる。机の上にはボトルが何本も開けられていた。


「マックスさん一番の上客だったので困りますよー! うちは商売上がったりですよー! あの人、性格は最悪だったけど金払いだけは最高だったんですからー!


 やけに調子のいい店員が絡みに来る。

 くりくりした目がミサキに少し似てる、それに動きが活発。


「お一人ですかー!?」

「あ、待ち合わせなんで」

「待ち合わせー! 了解ですー! 好きにしろーですー!」


 威勢のいい店員さんがくるくると回りながら去っていく。

 店の中はいかにもって感じの酒場だ。

 薄暗くて、ごろつきが集まりそう。これはコンセプトでそうしてるんだろうけど……店内は少し暗めでダークな色合い。ちょっと古めな木の机や椅子が赴きがあっていい感じだけど、ここで喧嘩が起きた跡なのかところどころ欠けている。


「マックスをぶちのめした奴じゃねえか」

「あれだろ、魔王討伐者だったことを隠していた……」


 若干の居心地の悪さを感じながら、あいつがいる席に向かう。

 さて、何て声を掛けよう。

 ズレータがマックスに挑むなんてゲームの中にはなかったからな。冒険者見込みランクも違いすぎるし、勝てるわけがない状況なのにズレータは向かっていった。

 マリアのパーティから離れて、今のあいつがどんな状況かなんて俺も知らない。

 だけど、あのままってのも可哀想だしな。公爵姫の依頼の協力者っていえば、少しは学園での地位も回復するだろ?


「ず、ズレータ? お前にお願いがあるんだけど……ちょっといいか?」




 さて、どうやってあいつをその気にさせるか。

 悩んだのが馬鹿らしくなるぐらい、あいつはちょろかった。


「公爵姫のお願いを、俺と一緒にッ!? どんなめぐり合わせだよ! やるよ! やるに決まってるだろ! 今の俺に失うものはねーからな! 聞けよ、ウィンフィールド! 俺は全てを失った! パーティーも、友達も、消えていった! もう俺には酒しかねえ!」

 

 ズレータは飲んだくれの生活を送っていたようである。マリアのパーティーを外されたこと、そんなに悲しかったのか。


「お!? それよりウィンフィールド、お前、酒臭くねえか!? お前が酒に逃げる理由なんてねえだろ! 公爵姫のお気に入りがよ!」


 そりゃあれだけ飲んだらな。

 ちょっとぐらい水を飲んだって薄まるもんじゃない。


「別にお気に入りなんかじゃないって。ズレータ、お前は俺よりも先にマックスに立ち向かっただろ。あの人もマックスに手を焼いていたみたいだから、もしかしたら、お前が公爵姫に気に入られていたかもしれないだろ」

「うるせーよ! 俺は勝てなかったんだよ!」


 実は公爵姫に、俺よりも先にマックスに立ち向かった奴がいるって言う話をしてあったりするんだ。公爵姫もマックスに挑んでボロボロになった二年生がいるって情報は掴んでいたようで……。

 だけど、負けたズレータにはかけらも興味持ってなかったけど。


「いやいや、ズレータ。お前は凄い奴だよ……公爵姫だって、根性のある奴がいるもんだってお前のことを褒めてたって」

「そうか? だけど、俺は捨てられたんだ……」

「捨てられた?」

「俺はぁなあ捨てられたんだよ! マリアだ! あれだけ尽くしてやったのによお! あいつのために毎日バラを100本送ったこともあったし、毎朝どんな男よりも早くおはようって言い続けたんだよ! 当然、2年生になってからも毎日だ!」


 おい急に気持ち悪い話を暴露するな。

 マリアもよく、こんなやつパーティーに入れたな。まいったな。声をかけるやつ間違ったかも。だけど、俺知り合い他にいないからなあ。


「それで乗るのか?」

「乗るにきまってるだろ! ウィンフィールド、俺は何をすればいいんだ!?」


 よっしゃ! ズレータ、ちょろいな!

 

「じゃあ、まずは依頼を十回連続で失敗してくれ。一人でも受けられる難易度も低い依頼で宜しく。勿論、手を抜くのは無しな? 精一杯頑張って、依頼を失敗してくれ。実はズレータ・インダストルって男はしょぼい奴、そんな噂が学園中に広がるぐらいに思いっきり頼む」

「……え」


 ズレータは分かるくらいに青ざめた。


――――——―――――――————————

始まるズレータの底辺生活


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