第75話 公爵姫の襲来

 16番冒険者ギルドの1階は大宴会場になっていた。


「おい、飲め! 私の酒が飲めないのか! 私の祝い酒だぞ! ほら、ウィンフィールド! 飲め! 一杯幾らすると思っている!」

「ウィン……飲みすぎは危ないと思うけど……」

「だ、大丈夫。あ、飲みます! 飲みますんで! 俺、お酒大好きなんで……。え? ミサキ、知らなった? ははは、ユバ様の入れてくれたお酒。美味しいです!」


 公爵姫の関係者で16番の冒険者ギルドの1階が埋め尽くされていた。

 俺とミサキはどこからか持ち込まれたソファに座っている。真ん中に座っているのが俺で、右にミサキ。

 左に座る女性こそ、公爵姫、ユバ・ホーエルンである。


 その堂々たる姿はまさに女王様。

 色褪せた茶色の外套を羽織って、深い青色でつばの広い 帽子を被っている。俺よりも小さいのに、その身体から発せられる熱量ってのに圧倒された。

 それにくりくりとした大きな瞳に見つめられると、俺の考えまで見透かされているような気持ちになるんだ。


 あとは女王様に隣に座られると……香水の良い匂いがして、くらっとしそうになる……あ、いて。ミサキに太ももを軽くつねられた。

 

「酒が、たんねーぞ! ユリア! 持ってこい! このウィンフィールドが、私の喉に引っかかっていた小骨を取り除いたんだ! 特上の奴だぞ!」

「は!」

「ほら! ウィンフィールド! 飲め! そうすりゃ、その眠そうな顔も少しはしゃきっとするだろ!」


 ソファの後ろで背筋を伸ばして立っていたのは、眼鏡をかけた女性。

 あれは、ユバの秘書だ。ユバの秘書が、大勢の黒服に的確に指示を出している。

  

 ギルドの端っこでは青い顔をして立っているエアロの姿が見えた。

 いつもクールなエアロでも、さすがに今回は相手が悪すぎる。相手はあの、ホーエルン魔法学園で一番偉い人間、公爵姫、ユバ・ホーエルンである。

 エアロは今、何も問題が起こらないことを祈っているだろう。


「ちょっと! ウィンにこれ以上、お酒を飲ませないで!」

「——大丈夫! 飲みます! ユバ様のお酒、有難く頂きます!」

「ええ!? ウィン、大丈夫なの!?」

 

 さっきから俺は、ユバ・ホーエルンが注いでくれるお酒を片っ端から飲み干している。そんな俺をミサキが心配そうに見つめていた。

 うーん、心なしか驚いているような。いつもより俺が大きい声を出しているからかな? だって相手はあの公爵姫である。ここで機嫌を害されたら後がまずい。

 

「ミサキ、とか言ったな。安心しろ! こいつは、これぐらいで潰れる玉じゃねえ。そうだな? ウィンフィールド」

「……ええ。あ、ユバ様。もう一杯、飲ませてもらいます」

「おお! 飲めるじゃねえか! ウィンフィールド!」


 今はこの公爵姫のご機嫌を取ることが何よりも大事だ。

 この人の機嫌を損ねたら、この学園では生きていけない。


 それぐらいユバ・ホーエルンはとんでもない実力者なのである。

 賢者としての能力だけじゃなく、この帝国バイエルンでユバ・ホーエルンが持っている権力も際立っている。

 『聖女様って、呼ばないで!』のプレイヤーであれば、大魔王との最終決戦にユバをマリアのパーティメンバに含めていた人も多いだろう。仲間にするには鬼難易度の条件を幾つもクリアしないといけないけど、それだけの価値がある人だ。


「ノースラデイ家の小僧には、私も手を焼いていたんだ。あそこはホーエルン魔法学園へ多額の出資をしているからな、私だって無碍には扱えねえ。ギルド職員を使って懲らしめるわけにもいかないから、誰か学生があいつを〆てくれねえかと期待していたんだが……ウィンフィールド。お前が見事、〆たってわけだ」

「俺はそこまでのことは……」

「そこまでのことをしたんだよ! ふう、これであいつにも良いお灸になっただろう。感謝しているぞ、ウィンフィールド。ほら、飲め」

「いただきます!」


 本音を言えば、ユバのステータス。超見たい。

 この人が今、何を考えているのか知れたら、それは俺がこのホーエルン魔法学園で生きていくに当たって、滅茶苦茶プラスになる。

 でも、それは出来ないよな。

 昨日、賢者のベルトリとパトロアの大平原で出会っていて良かった。あいつと出会う前だったら、興味本位でステータスを使っていたかもしれない。


「ユバ様。ご要望のものをここに」

「うわ! びっくりしたあ!」


 忍者みたいに目の前に現れたのはユバの秘書だ。

 さっき特上のお酒を持ってこいって命令されて、姿を消したかと思ったらすぐに戻っていた。ミサキが自分の心臓を抑えている。確かに今のはびびる。

 さすが職業『上忍』、気配を消すのはお手の物である。 

 

「遅い! だけど、許す! 今日の私は気分がいいからな! それじゃあ、ユリア! 全員下がらせロ! 本題に入るぞ!」


 さて、きたきた。

 公爵姫のお願いイベントだ。どれだけの難易度の依頼が来るかは、俺がこの短時間で公爵姫の機嫌をどこまで上げたかに掛かっている。

 公爵姫の機嫌が良いほど、お願いイベントの難易度が下がるんだよ。


 そして公爵姫ユバ・ホーエルンの声に従って、16番冒険者ギルドの1階はいつものようにガラガラになり――。


「なあ、ウィンフィールド。私はお前にお願いがあるんだ」


 ——ユバ・ホーエルンのお願いは、俺の予想を遥かに超えてきた。


――――——―――――――————————

一方、とある酒場。

ズレータ「公爵姫が、ウィンフィールドと飲み会を始めた? あいつ、すげえな。この数日でどこまで上り詰めるんだよ……」


【情報展開】

かっこいい詠唱が書きたくて新作を書いてみました。

『呪術って最強!』俺の霊能力は、異世界で呪術へと昇華した! 

※主人公最強の呪術ものです。お読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895103171


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