第74話 春一番の風が吹く

「ほら、ウィン! 全然怖くないから!」


 強引に部屋から連れ出されて、ミサキと街に繰り出す羽目に。


「あいつらが襲ってきても僕が守ってあげるから」

「そういうわけじゃないって……ミサキ、俺はあいつらが怖いわけじゃ……」

「もう! ついてきて! みんな、感謝してるんだから!」


 別に俺はマックスたちの復讐が怖かったわけじゃない。

 あいつらのことだから、念入りな復讐計画を考えているだろうけど、結局、あの程度の奴らに俺がどうにかされるとは自分で思っていないしな。 


 あいつらなんて定期的に故郷を襲ってきたモンスターに比べれば、考えるにも値しない。ただ、マックスを倒したことで始まるかもしれないイベントが嫌だっただけだ。


「ウィンフィールドじゃないか! お前、よくやってくれたよ! あの連中店の商品を盗んだり、買ったもんにいちゃもんつけたりやりたり放題で困っていたんだよ!」


 さんさんと太陽が照り付ける青春通り。


「父さん! あの兄ちゃんがいるよ!」


 道の往来に店を構える人らから浴びる賞賛の声。わざわざ俺の顔を見るために、店の前に出てくる人達もいた。


「そんなに強いなら、今まであいつらにいいようにやられていたのは何だったんだよ! そこのお嬢ちゃんの言う通りだよ! おどおどしてるより、今の方がずっとかっこいいぜ」


 マックス・ノースラデイは学園で恐ろしい存在として有名だった。

 一度目をつけられたら、終わり。この様子を見ると、マックスのことを疎ましく思っていたのは学生だけじゃなかったみたいだ。


「ほら! ウィン! 胸を張って歩こうよ!」


 突然、冒険者見込みランクが上がって、可笑しな奴って噂が立ち上がった俺を、暖かい眼差しで見つめる彼ら。

 近寄りがたい可笑しい奴、そんな評価が一日にして変わってしまったようだ。


「でも、僕。意外だったよ」

「何が?」

「ウィンはちょっと馬鹿にされたぐらいじゃ動じないって思ってた。でも、そんなわけじゃなかったんだね」

「それは……まあ。俺だって、怒ることはあるって」


 マックスを制した一件は、事故みたいなものだった。

 俺は最初からあいつと喧嘩するつもりはなかったし、これまでと同じようにスルーするつもりだった。でも、あいつがカチンとする言葉を口にしたから、反射的に身体が動いてしまった。


「ウィンが怒る所、見てみたいな……いっつも優しいから。優しすぎるよ」


 街の中を少しだけ歩いて、16番の冒険者ギルドに戻る。

 マックスの連中も、こんな人目がある中で俺を襲ってこない。今は街中があいつの敵みたいな状況になってるから、暫くは大人しくしているだろう。


「俺なんか全然優しくないって」

「いいや、優しいよ」


 俺は、自分一人の力でマックスに挑んだズレータを見捨てている。

 自分から言い出したこととはいえ、ズレータからはさぞや恨まれているだろう。

 

「……あれ? エアロがあそこにいるなんて珍しいね」


 16番の冒険者ギルドが存在する裏道。

 ギルド職員であるエアロの姿を見つける。あっちもこちらを見て、急いで駆け寄ってくる。いつもは落ち着いた大人な感じだけど、今は違う。

 暑くもない。むしろ涼しいくらいの春模様なのに、額には玉のような汗。



「ウィンフィールド君……一体、君……何したの!? どうして、公爵姫が、うちにくるの!? 君を呼べっていってるけど、どういうこと!? 何、したの?!」

「エアロ、公爵家ってだれ?」

「え……ミサキちゃん。知らないの!?」

「うん。ウィンは、知ってる?」

「い、一応……」


 ……まあ予想はしてたよ。

 だって今の段階って、あのゲーム世界『聖女様って、呼ばないで!』でいえば、やっと二週目が始まったぐらいの段階なんだから。


「ミサキちゃん。よく聞いて。公爵姫は……このホーエルン魔法学園の学長よッ!」


 大魔王軍との戦いも活発化していないし、帝国バイエルンと諸国との抗争だって表面化していない。

 今の時期、『公爵姫』様だって暇に決まってるからな……。



――――——―――――――————————

一方、とある酒場。

ズレータ「……マックスが、ウィンフィールドにやられたか。しかも一撃って……あいつまじで何者なんだよ……」


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