第73話 ランダムイベント
やっちまったって反省はあるけど、後悔はなかった。
マックス・ノースラデイ。どうせいつかはぶつかる相手だと思っていたし、衝突が早かっただけのこと。
しかし、やった後で思い出した。
マックスを学園編でぶっ飛ばしたら、とあるイベントが発生してしまうってことに。
「……」
「ウィン、体調悪いの……?」
だから、俺はこうして。
夕飯も食べずに自室に閉じこもって、シーツにくるまっていた。
「……ミサキ。一階に変な人、来なかった?具体的に言うと、とっても偉そうな人」
「来てないけど……ウィン、大丈夫?」
「大丈夫、俺はちょっと眠たいだけだから。じゃあ何か変な噂、聞かなかった?俺がその、やっちゃったとかなんとか」
「何のこと?」
「分からないならいいんだ……」
よし、ミサキはまだ俺がマックスをぶっ飛ばしたことを知らないみたいだ。
あの場には、マックスの取り巻き連中しかいなかった。
強力なノースラディ家という後ろ盾のあるマックスの傍にいて甘い汁を吸っている連中。あいつらがマックスが俺に気絶させられたなんて醜聞を学園に広める筈がないし、プライドの高いマックスに至っては猶更だ。口を割った奴をぼこぼこにするだろう。
「それよりミサキ。進化の儀は順調?」
「久しぶりだからちょっと緊張しているけど、何とかなると思う」
「……ミサキなら大丈夫だよ。これまでも何件か経験あるんでしょ?」
「まあね」
ミサキは今日これから、一階の冒険者ギルドで進化の儀を行うって聞いていた。そのためにミサキは花を買い込んでいたし、俺も時間があったら見学しようと思っていた。
それは人を次なるステップへ、職業進化を促す儀式だ。
通常、神官職業を修めている者へ大金を払って職業進化をさせてもらい、職業進化を果たした者は大幅な能力上昇を得る。だけど、このホーエルン魔法学園では帝国バイエルンから補助を受け、学生はただ同然で進化の儀を受けることが出来た。
その辺も、ホーエルン魔法学園が近隣諸国の中で随一の人気を誇る理由でもあった。
「ねえ、聞いてウィン。今日の人、一年生で初めての進化なんだって」
「常人か……この前までの俺と同じだな」
一年生が、この冒険者ギルドで職業進化を実施するって決めたのは、今や魔王討伐者だとか急に冒険者見込みランクが上がった俺の存在が決め手なんだとか。どうせなら最も実績がある大手の冒険者ギルドでやればいいのに。
俺に同席してくれれば嬉しいなんてことを言っていたみたいだけど、俺は俺はで自分の未来で精一杯だった。
マックスをぶっ飛ばしてしまったから、来るべき恐怖に震えている。
「ウィン、体調悪いなら後で薬持ってくるからね!」
「ミサキ……そのお金はどこから」
「今回のお仕事でお金が入るから!」
「……」
ミサキは今回の神官としての仕事で、一気に15万ゴールドを報酬として受け取るらしい。つまり、俺の稼ぎよりも多いってこと。
それが俺の気持ちをさらにダウンさせるのであった。
「ウィン! 進化の儀が終わったら、また様子を見に来るから!」
「……行ってらっしゃい」
学園編でマックスをぶっ飛ばした場合に発生するイベント。
それはマックスを倒した当日か翌日に——ホーエルン魔法学園の学長がやってくるのである。
実際の確率はイベント発生日の学長の予定にも関係するから、発生するかはランダムだ。
――来るな、来るな、来るな!
学長来訪の何がやばいかっていうと、相手が賢者だからだ。
しかもホーエルン魔法学園が所属する帝国バイエルンの大貴族でもある。人間社会において、帝国バイエルンは最も栄える国だ。そこの大貴族。つまり、とんでもない権力を持っている。気に入らない生徒を退学にさせるなんて、朝飯前。
俺の記憶が確かなら、賢者としてのレベルは10。
レベル的には次なる職業、つまり大賢者への進化が可能となるレベル。だけど大賢者になるための隠し条件が達成出来ず、足止めを食らっている。もう大賢者が生まれて、自分が大賢者に進化出来ないことにも気付いているに違いないから、機嫌は悪いはずだ。
学長が大賢者になれなかった隠し条件、それが底辺生活。
まあ、帝国バイエルンの大貴族様が底辺生活とか不可能だから、学長が大賢者になるなんて夢のまた夢だったわけだけど、学長である彼女は当然、諦めていなかった。
俺が大賢者だって知られたら、どうなるか……。
――来るな、来るな、来るな!
だから俺はマックスを倒した今日一日、シーツの中で震え続けているのだった。
だけど、翌日の朝には。
「ウィン! 聞いたよ! あいつ、ぶっ飛ばしたんだって!? 昨日、部屋にいたのは、あいつらが復讐にやってくるからって思ってたってこと!? だったら平気だよ! 大賢者になったウィンと、僕の敵じゃないし!」
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