第70話 ただの賢者は無視するに限る

 賢者という職業が持つ職業補正の力。

 それは俺が大賢者になることで得たステータスの力の劣化版だ。


 心眼で知ることが出来るのは、相手の大体の能力値ぐらい。


 それぐらいのものだったと思うけど、この世界じゃとんでもないアドバンテージに繋がるぶっとんだ力。だからこそ、賢者はその力を秘匿にしたがる。


「おいおい! おいおいおい! これは、反則だろっ! はあ、俺が学生だった頃もお前みたいな奴がいたぞ! 大国の王子でな! 戦争奴隷を使って冒険者見込みランクをせっせと上げていた卑怯な奴だ! 学生、お前もその口と見たぜ!?」

「ウィンを馬鹿にするな!」


 賢者のおっさんが顔面蒼白で、ミサキの蹴りを防いでいる。


「待て、待て待て! 馬鹿にしてはいない! ただ、嬢ちゃんみたいな戦闘奴隷がいたら、そう考えるのも無理は無いだろ!」

 

 賢者の力はステータスに現れるものだけじゃない。

 賢者に至るまでに得た職業それぞれの力。 


 そして、賢者はやっぱりあれだ。相手の能力値が大体分かるからこそのずる賢さ。

 モンスターの魔王連中だって、賢者を相手にするのは避けたがる。賢者が表に出てくるのは、絶対に勝てる、そんな時ばっかりだからだ。

 

「み、ミサキ。もう大丈夫、あとは俺が相手をするから」

 

 守られっぱなしっていうのは何だか情けないので、一応声は掛けておいた。


「いいよ、ウィン! こんなの、僕一人でへっちゃらだから! 」

「へえ、ウィンっていうのか! 俺は、賢者のベルトリだ! 巷でもそこそこ有名なんだが、仲良くしようぜ!」

「どうしてウィンが、お前なんかと仲良くしないといけないんだ――!」


 あのおっさんは単純な能力でミサキと渡り合っている。

 頭をかがめ、間一髪避け続けるおっさんをを追いかけるミサキ。


 なんか……デジャブだ。さっき銀の角を持つ兎を追いかけていたミサキの姿と被る。ちょっと笑ってるし、ミサキさんなんか楽しんでない?


「——おい奴隷! 元々のきっかけはな! あっちのウィンが俺を攻撃してきたからだぞ!? どっちかと言えば、悪いのはあっちだ!」

「ウィンから仕掛けるわけないだろ!」

「主人のお前から、この嬢ちゃんに言ってくれ! これは正当防衛だってな!」


 うーん、心が痛い。

 どっちかと言えば、仕掛けたのは俺だ。


 賢者同士にはあるルール。

 『聖女様って呼ばないで!』の世界でも、賢者の能力を心眼で覗いたら、問答無用でバトルが発生するからな。誰だって自分の力を知られるのは嫌なことだ。


「おい! ぼーっとするな! こいつを止めろって! 賢者同士だ! 話せば分かるだろ! 別に俺だって本気じゃなった! それに賢者ならあれぐらい問題ないだろ!」


 あ。ミサキの蹴りがおっさんの腹を直撃。

 おっさんは頭を守るようにして、手をミサキに向ける。


「降参、降参だ! とりあえず、こいつを止めてくれ! なんて戦闘奴隷だ! 容赦がないどころじゃないぞッ!」 

「ミサキ。ストップ。もう十分だよ」

「だけど、ウィン! あいつはウィンを攻撃した!」

「いや……もう、十分だから」


 むしろ、やりすぎである。


「ウィンがいいなら、いいけど……こいつ、何者なの?」


 尻もちをついたおっさん。

 へらへらと笑いながら、俺たちを見ている。


「このおじさんは本物の冒険者だよ。俺が賢者だって疑っている。ですよね」

「……そういうことだがな……なんて戦闘奴隷だ。珍しいぐらい信頼されているじゃないか。俺の負けだ。そういうことでいい。降参、降参だよ。というか、疑ってるって俺相手に心眼を使った時点でお前は賢者だろ……」


 ミサキを下がらせる。

 おっさんに俺を殺す気は無かった。

 俺を本当に殺す気なら、いつもの魔王襲来の時のように、サラが逃げろって言ってくるだろう。


「ウィン、心眼って何……?」

「賢者の力だよ……後で説明するから今はちょっと静かに」

「新米の賢者には、ベテランが生き方を教えてやるのがルールだ。ホーエルンの爺さんも何で新米賢者を野放しにしてるんだ。学生が賢者になったのなら、しっかりと賢者としての生き方をだな……」

「——ミサキ。こっちへ」


 ミサキの手を掴んで、じりじりと後ろに下がる。

 おっさんは額の汗を拭いながら、溜息を吐いた。


「……それよりホーエルンの学生賢者がパトロアの大平原に何の用だ。ここには賢者が本気で挑むような依頼は転がってねえぞ」

「それはまあ、色々事情がありまして……」

「まさか賢者だってのに、金に困ってるのか……ここは稼げるからな」


 はあ。こんな状態で、呑気に兎狩りなんて出来るかよ。

 だから。


「――移動拠点ポータル、発動」

「ああ! おい、ちょっと待てよ! 折角、出会えたのに! おい、逃げるな!」


 移動拠点ポータルは許可制だ。 

 あのおっさんが、この移動拠点を使って俺たちを追いかけてくることは出来ない。


 そして、俺たちはホーエルン魔法学園の教室に戻ってくる。。

 授業が終わる、鐘の音が聞こえた。



――――——―――――――————————

一方、魔法学園。

ズレータ「敗北者は、お前のパーティにはいらない。この場を持って、俺はパーティを抜ける。もう決めたことだ」

マリア「……」


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