第68話 学園の外。賢者と出会う

「——うわーーー!!! ウィン、ここどこ!? 気持ちいい場所だね!」


 草原だ。サバンナって具合に、色々な生物が見えた。

 地平線がどこまでも広がっていて、人工物は一切見えない。


 巨大な池を中心に、丈の低い緑が茂っている。様々な動物が池の水を飲みにきていて、人間領だけど人間が管理していない場所だろう。

 草に身体を潜め、獲物を狙っている肉食動物の姿も見える。


「ウィン! 今日は、エアロからどんな依頼をもらってきたの!?」





 冒険者ランク見込み10。それは一つの分岐点。

 学園の外に出ても、熟練の冒険者と同等の力と認められた証。

 そして冒険者見込みランクが10を超えると、ホーエルン魔法学園が与える依頼の質に変化が訪れる。少しだけ、達成が難しくなるんだ。

 

「それで、ウィン。今回は何をするの?」

「ミサキ。目を凝らしたら、こっちの様子を伺ってる警戒心が高そうなウサギが見えないか? ……銀色の角を持ったやつだ」

「……うーーん。そんなの、いるかな?」


 今回は、ホーエルンに居を構える商店が冒険者ギルドに依頼した特別な依頼。

 とても貴重な食材の調達だ。


 食材の調達、通常の冒険者ギルドだったら今回の依頼達成条件にそれだけしか教えてくれないだろう。学園の外では熟練と呼ばれる冒険者見込みランク10の学生冒険者に与えられる難易度の依頼だ。簡単にゲット出来る食材であるはずがない。


 どうやって対象の食材をゲットするか、それを含めての難易度。

 自分で何とかしてこその冒険者ってわけだ。


「——見つけた!」

「え! はや! あ! ちょっと待て、ミサキ! あいつらには簡単な捕まえ方があって――」

「いいよ、ウィン! 僕、自分の力で捕まえてみせるから!」


 ……いっちゃった。


「わあ、ウィン! こいつら、早いよ! それに色がすぐに変わるんだ!」


 ミサキが銀色の角を持つウサギと戯れている。

 本気になればミサキの能力なら一瞬で捕まえられるだろうけど、手加減してるみたいだ。

 あの兎を捕まえるにはコツがあった。

 直接狙うんじゃなくて、あの兎が好む食材をまず捕まえて罠を張る必要がった。兎の好みを知らないといけない。それを知らないと、骨が折れる。 



「うん。やっぱり16番の冒険者ギルドを選んで正解だったな」


 依頼の選択は大事だ。

 自分の身の丈を超える難易度の依頼を受けて実力を上げるか、無理せず鍛えていくか。無理をしないが信条の16番ギルドのギルド職員エアロ、あの人は一人一人の学生に合わせた依頼の見極めがは上手だ。


 それにエアロは依頼達成のヒントを教えてくれる。冒険者ギルド職員として、答えを教えるやり方は学生の自主性を妨げるって言う人が大半だろうけど、エアロは気にしない。俺としては、助かる限り。


「ウィンもおいでよ! 楽しいよ!」


 俺もたまには隠れ職業の補正を使わず、素の力で何とかしてみよう。

 軽くストレッチをしていると。


「その制服。それに移動拠点ポータルから飛んできたってことは……お前ら、ホーエルンの学生か?」

「そうですけど……てッ!?」


 気付けなかった。

 いつの間にか、隣に誰かが立っていた。

 びびる。全身に鳥肌が立ったぞ、今。

 俺と同程度の身長、だらっとした雰囲気の男がいた。


「ホーエルンの学生と出会うなんて、珍しいこともあるもんだ」

「……」

「おおい。何、びびってるんだ。おじさんは、別に、お前を取って食おうってわけじゃないんだぜ?」


 学園の外にでると、そりゃあ、本物の冒険者に出会うことがある。

 だからって、こんなに早くに出会うなんて。

 そいつは頭から灰色のロープを被り、滅茶苦茶怪しい。ホーエルンだったら、真っ先に職務質問を受けそうなタイプ。

 ——ステータス発動。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 名前:ベル■■・グン■■ル■■

 性別:男

 種族:人間(賢者)

 レベル:7

 ジョブ:『常人』『魔法使い』『魔■詩』『■魔導士』『疾風の英雄』『賢者』

 HP:43■■7/43■■7

 MP:■■■■■■080/■■■■■■080

 攻撃力:■■■■

 防御力: 2■■86■

 俊敏力: ■■■

 魔力:■■4■3■02

 知力: ■■■■■

 幸運: ■87■

 悩み :賢 ■■進 ■■が凍 ■■れた!  ■■な話だ!  ■■外の誰かが大 ■■になりが ■■■■ってことだ! どこ ■■つだ!  ■■になって、身 ■■■いる奴は! こう■■■、俺が知■■■を一人■■■っていくしかな■■■ッ!


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 は? はああああああああああああああ!?!?


 ステータスは万能の力だと思っていた。

 だけどこれはどういうことだ!?


「おっと、俺には心眼の力は、効かねえよッ! しかしお前、同業者だなッ!」


 ……初めて見る虫食い文字。

 ステータスの所々が正しく表示されない。こんなこと初めての現象だった。


 男は頭をすっぽりと覆っていたローブを外すと、ボサボサ髪の眼鏡中年が現れた。

 

「なあ、おい! お前——賢者だろッ! 学生で、賢者とは! おったまげた!」


 

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