第67話 久しぶりの学園校舎

移動拠点ポータルは学園の近くか……」


 潤沢な資金を投入しているだけあってきれいな校舎。奇麗に整えられ、各国の有力者が学問を学ぶに相応しい威容を誇っている。


 ギルドから与えられる依頼の難易度は、冒険者ランクによって内容が大きく変動する。今回、エアロから与えらえた依頼は学園の外で行われる。

 冒険者見込みランクが10付近になると、依頼は大抵学園の外。


「はあ。この辺りって碌な思い出がないな……なんで移動拠点ポータルが校舎の中にあるんだよ……どんな意地悪だよ」


 大体、二年生以上になると校舎で授業を受けるなんてことは少なくなってくる。今、この校舎の中にいるのは一年生が中心だ。

 ただやっぱり一年生にはまだ俺の顔が覚えられていないので静かなものだった。

 でも、まいったなぁ。この二年間で散々な扱いを受けたから視線と言うものに敏感になってる自分がいる。別に怖いとかそんな感情は無いけれどさ。新しい誰かと仲良くなりたいとかそういう欲求が、極めて気薄になっていた。


「あ、ここってあそこか」


 ちょうどこの辺り。校舎から出るところで、落とし穴に落ちたんだよな。

 俺が落ちた穴はきれいに修復されていた。さすが仕事が早い。でも校舎に纏わる思い出なんて、それぐらいのものだ。


「……入るか」


 出来るだけ一目につかないように、校舎の中に入る。移動拠点ポータルが設置されている教室を目指す。さすがに一年通っていると、どの教室で何の授業が行われているか頭で覚えている。

 階段を上っていると、エアロの言葉を思い出す。今日はミサキが授業を受けてるってこと。どうせならちょっとだけ声をかけていくか。


 廊下を歩く。自然と、顔がうつむきがちになる。


 教室の中に入ると、一斉にこちらに目が向けられる。まだ新学期が始まったばっかり。一年生の子たちの緊張しているようだ。いくつかのグループが形成されているけれど一人ぼっちの子もたくさんいる。その中で、ミサキは……あ、いた。

 ミサキの周りには数人の一年生。取り囲まれるように、ミサキは椅子に座っている。


「ちょっと、あの子を呼んできてくれない?」


 教室の入り口付近にいた女の子に声を掛け、ミサキを呼んでくるようお願いをする。声を掛けられた女の子は、物静かな感じだったけど、言う通りにミサキの方へ。

 俺の顔を知っているのか、ミサキの周りにいた数人は俺を見て目を輝かせていた。


「え? あの人って――」

「わあ。ウィン! どうしたの――!」





 ——ぺたりと、室内の中心に浮遊する移動拠点ポータルに手を付ける。

 ひんやり。


「ミサキ。今日は本当に授業受けなくていいのか? なんか知り合いもいたみたいだけど」

「うん、もう僕が興味あった授業は終わっちゃったから……それより、ウィン! 依頼を受ける時は一緒って前に言ったのに!」

「ごめんごめん。次からは気をつけるよ」

「僕とウィンはパーティなんだから……それより今日はギルド職員はいないの?」

「ああ。パーティリーダである俺の冒険者見込みランクが10を超えたから、よっぽどの場合じゃないと職員は随行しないんだ」

「ふうん。そういうものなんだ」


 このホーエルン魔法学園では、パーティリーダーの冒険者見込みランクが10を突破すると、ある特典がつく。その内の一つギルド職員がついてこなくなるってこと。

 ギルド職員が随行するのは、冒険者パーティが未熟な場合のみ。

 俺とミサキにはもうギルド職員は必要ないと、冒険者ギルドが判断した。

 代わりに、依頼に時間制限が設けられる。時間になっても戻らなかったら、ギルド職員が様子を見に来るってわけ。


移動拠点ポータル、発動』


 視界が真っ白に染まる。

 隣には、授業から抜け出してきたミサキの姿。ミサキも俺を見つめていた。

 

 さっきの教室を思い出す。ミサキの周りには数人の男女の生徒がいた。

 やっぱりミサキは人に話しかけられた素質っていうのかな、何て言うか、警戒心をほぐさせるんだよな。もって生まれた人得ってやつだろていうか。

 俺とは大違いだよ。


 ——そして、眼前に広がるのは、どこまでも続く草原だった。

 ここで、冒険者見込みランクが急上昇した俺たちの依頼が行われる。



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