第66話 王道主人公とは、関わらない

 一階に降りるとエアロがいた。

 カウンターの中で、生徒相に雑談中。

 俺が降りていくと、店内にいた生徒、多分一年生かな。


「なあ、あの人が――」

「そうだよ。噂の魔王討伐者、ランクが一気に10まで上がったって――」 

「さっき、あの守護神ヨアハが下りてきたぞ! 何か秘密の話をしていたんだよ!」


 ギルドの入り口、扉の外でたむろしていた一年生までわっと入ってくる。

 彼らから口々に浴びせられる言葉。そして賞賛の目。彼らはこの一年間、俺がまさか学園で虐められていたなんて考えもしていないみたい。だから、あんなふうに嬉しそうに俺を見てくるんだろう。実際の俺を知ったら、幻滅するかな。


「はい。そろそろ、授業でしょ? またね」

「はい! ありがとうございました!」


 エアロに手を振られ、去っていく一年生。

 店内の壁に掛けられた時計を見ると、9時より少し前。そろそろ授業が始まる頃だ。一年生はまだ新学期が始まったばかり。さすがにこの時期から、授業をさぼる剛の者はいないみたいだ。

 俺は店内の椅子に座り一息ついた。


「おはよう。ウィンフィールド君」


 軽くカウンター向こうのエアロを睨みながら。

 一年生は余り冒険者ギルドの収入には繋がらない。彼らは未来のお客様。二年生になってこそ、ギルドを本格的に活用するようになる。 

 16番の冒険者ギルドの悪い噂を知らない一年生を狙うつもりか。


「……商売上手だこと」


 嫌味がカウンターの向こうに届いたかは分からない。


「ウィンフィールド君。一年生にはもう魔王討伐者がここの二階に住んでいるって広まっているみたいね。やっぱり凄いわよ」

「……何が」

「有名人がギルドの二階に住んでいるなんて、営業効果としては最高。それで、彼と話は出来た?」

「そのことなんだけどな……」


 朝っぱらから、どうしてギルド職員なんかを相手にしないといけないんだ。 

 エアロがやってくる。コーヒーを持って。俺の分もある。しかも熱々のポテトフライが乗ったお皿つき。


「はい、どうぞ。好きでしょ?」

「次、誰かを俺の許可なく部屋に入れたら、ここを出ていく」

「……ごめんなさい。でも、貴方のためになると思ったのよ」


 お皿の端っこには塩が一つまみ。

 好みを分かっている。俺のご機嫌を取ろうってか?


「どこが俺のためになるんだよ」

「マリア・ニュートラルと関係改善出来れば、貴方の学園生活はとっても楽になる。あの子の学園に対する影響力は、並みのギルド職員を遥かに上回るわ。それにさっきの一年生の反応見たでしょ? ヨアハはある意味でホーエルンの顔役の一人。仲良くなっても損は――」

「俺のためになる人はこの学園じゃミサキだけだ。それ以外は歓迎しない」

「分かったわ。肝に銘じておく」

 

 ポテトを口に入れる。うん、上手い。朝から、油が身体に染み渡る。

 ま……実は俺はここの冒険者ギルドを出ていく気はさらさらないんだけど、エアロとは対等な関係でいる必要がある。学生であるからって舐められたらいけない。

 エアロの情報網は、馬鹿にならない。それに人としても、他の冒険者ギルド職員よりは正直、よっぽど信頼出来る。

 

「それで、ウィンフィールド君。ヨアハから聞いた? ズレータ・インダストルが、マリア・ニュートラルのパーティを脱退したって」

「そうらしいな。あんまり興味ないけど。それよりミサキはどこに?」

「あの子なら、今日はちょっと授業に顔を出してみるって。何でも興味がある授業があるからって。魔王軍の、実態がどうかとかいってたわね」

「そっか。そりゃあ、いいことだ」

「はあ。本当にミサキちゃん以外には興味がないのね。心配にならない?」

「何が?」

「そりゃあ、あの件よ。だって君、知ってたでしょ? というか、ズレータ・インダストル本人に直接助けてくれって頼まれてたでしょ」

「何で知ってるんだよ……」

「路地裏で土下座なんて、中々見れるものじゃないわ」

 

 見られていたか……。

 だけど、ズレータに関わるってことは、マリアの未来に関わるってことだ。

 マリア・ニュートラルは王道のど真ん中を進む『聖女様って、呼ばないで!』の大主人公様だ。元がアマリアだったことは衝撃だったけど、積極的に関わる気はなかった。だって、マリアの傍にいったら問題ばっかり起こるしな……。

 

「——あのマリア・ニュートラルのパーティに、一人、空きが出た。それも副リーダー。今は学園中、誰がズレータ・インダストルの空きを埋めるのかで盛り上がっているわよ?」

「結構なことで。それでエアロ。依頼は無いか、稼げる奴がいい」


 昨日の水の洞窟の依頼も大したことなかったし、ここいらでドカーンと稼いでおきたいのだ。折角ランク10になったんだから――。

 少なくとも、向こう数か月の家賃ぐらいは稼いでおきたかった。


――――——―――――――————————

ミサキ「うへえ……この授業の内容。数年前の情報だよ……魔王カサブランカはもう現役引退してるし……」


【読者の皆様へお願い】

作品を読んで『面白かった!』『更新はよ』と思われた方は、作品フォローや下にある★三つで応援して頂けると、すごく励みになります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る