第62話 侍との約束
ホーエルン魔法学園の生徒は時に対立し、冒険者ギルドの目を盗んで激しく争うことがある。
二年生以上になったら、冒険者ギルドから与えられる依頼を通じて争い合うになるし、昨日の
マリアのパーティとハイディ先輩のパーティが一着を目指すために、ハイディ先輩はマリアのパーティーにモンスターを押し付けたりしたらしい。暗黙の了解で、あの時同行していた冒険者職員のヨアハも気づいていただろうにスルーしていた。
でも、依頼の中での生徒同士の戦いはむしろ推奨される。
「……俺の後輩が入学初日に上級生から因縁吹っかけらて、まずいことになった。俺と同じ国出身で、生意気な所があるからいつかは問題を起こすとは思っていたが、まさかこんなに早く上級生と揉めるなんて……」
「何で俺なんだよ……そういうことは、パーティーの仲間に言うもんじゃないのか。ズレータ、お前には心強い仲間がいるだろ」
あのマリア・ニュートラルを筆頭とする、輝かしいパーティメンバーがさ。
「あいつらは巻き込めない……これは、俺の国の問題だから……」
「いやいや、俺なら巻き込んでもいいってか。可笑しいだろ、その理屈」
土下座をし続けるズレータを置いて、その場を後にする。
プライドの高いこいつが頭を下げるなんて、相当な状況なんだろうが、別に俺はこいつの頼みを素直に聞くつもりは全くなかった。
マリアらはパーティメンバーの一人一人が自ら望んで、王道を進もうとしているパーティだ。仲良くなって、これから先トラブルに巻き込まれたら溜まらない。
「そ、そういうわけじゃねえ! 冒険者見込みランク10のお前が一緒なら、あいつらも喧嘩を吹っかけるような真似はしねえと思って――時間も取らさねえ、ウィンフィールドはただ、俺についてきれくれれば……」
「どうして俺が一緒だったら事態が収まるんだよ……」
「ホーエルン魔法学園は、2年生以上は冒険者見込みランクが全てだ。ウィンフィールド、今俺の知っている奴で冒険者見込みランクが一番高いのがお前だ」
まぁ、ズレータの気持ちもわかる。それぐらい冒険者ランクってのは、価値があるんだ。冒険者ギルドが、冒険者一人一人に与える強さの証明。
外の世界と同じように、このホーエルン魔法学園で与えらえる冒険者見込みランクも同じ意味を持つ。
「……おい。一応、聞いておくけど相手は誰なんだよ」
土下座するズレータ。
俺の気持ちは一本。今すぐにでもミサキを追いかけたいけど……一体誰に後輩が絡まれたら、ズレータがここまでの行動に出るのか気になった。
「3年生のマックス……」
足が止まった。
「もしかしてマックス・ノースラディ?」
「……そうだ。あのくそ野郎だ」
マックスと言ったら、ホーエルン魔法学園でも有名な悪ガキだった。
ホーエルン魔法学園に多額の出資を続けるノースラディ家出身の3年生。財力を盾に、やりたい放題やっている。公正であるべき冒険者ギルドも、ノースラデイ家出身の人間には優先的に割のいい依頼を与えているってもっぱらの噂だ。
マックスが相手と言って、戦いを挑むような愚か者はこの学園には少ないだろう。それぐらい嫌ないじめっ子だ。カツアゲ、恐喝、やりたい放題の3年生。
「俺に何かがあるのはまだいいが、ノースラデイ家の連中と争って、パーティの仲間に迷惑を掛けたくはない」
「俺だったら良いって考えている辺り、最高に性格に悪いと思うけどな……」
「……ウィンフィールドは俺についてきてくれるだけでいい。それ以上は望まねえ」
「それも最高に格好悪いセリフだと思うけどな……」
マックス・ノースラデイの冒険者見込みランクは12。3年生になったばかりで12はかなり凄い。ズレータ達は昨日同じランク12のハイディ先輩らに負けたばっかりだからな。冒険者見込みランクはまだ15のズレータにしてみれば、12のマックスと喧嘩するのは分が悪い。
しかし、マックス。
マックスか。あいつらの下品な笑い顔が顔に浮かぶ。
「……条件がある」
「条件?」
「俺の仲間が、街に消えた。探すのを手伝ってくれたら、考えてもいい」
「本当かッ!?」
ズレータが顔を上げ、表情を輝かせる。
「ズレータ。お前も嫌な奴だな。俺とアイツの関係、知ってた癖によく言うよ。つまりお前の後輩が、去年の俺と同じように、ターゲットにされたってことだろ?」
マックス・ノースラデイといえば。
洗脳時代――散々、俺を虐めてくれた奴らのボスじゃねえか。
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