第59話 大賢者と聖女見習いの出会い
目覚めると、そこには椅子に座ったマリア。
愛用の長杖を壁に立てかけて、何故か俺の部屋で座っている。
座っている椅子をどこから持ってきたのか知らないけど、佇まいはさすがマリア。
清楚で完璧、俺がマナー講師なら満点を上げるだろう。
さて。
そんな非の打ちどころも見つからないマリアと俺の関係は、最悪だった。
「おはよう」
「おはよう……ございます」
まて。何で俺が敬語で返さなきゃいけないんだよ。
俺とマリアは同学年だ。対等な立場の筈……筈だよな?
そりゃあマリアの方が学園の立ち位置で言えば圧倒的に上……学園カーストの頂点に君臨するような女の子だけどさ!
ていうか、何でさらっと挨拶してるんだよ。
俺とマリアの関係は最悪だろ?
「マリア。どうして、お前がここに――」
「調べたの。貴方の家が無くなったことは知ってる。だからどこに行ったのか、沢山の人に聞いて、ここにいるって分かった」
「調べたって……何のために……」
まずいな。
頭が纏まらないのは寝起きだからから?
マリアの訪問なんて考えもしていなかった。
そりゃあ、俺が魔王討伐者ってことはマリアにばらされたわけだから、いつかはきっちり話をしないといけないって思ってた。
でもまさか、マリアが俺の部屋に直接やってくるとは。他の男子生徒だったら涙を流して嬉しがるようなシチュエーションだろうけど、俺はただただ困惑中。
「二年生になってから、ウィンフィールドの様子が可笑しくなった。まるで人が変わったみたいだって皆、言ってる」
「そりゃあそうかもしれないけど……」
ていうか、ミサキはどこにいるんだ。
ミサキがマリアを部屋に連れてくるとは思えない。理由は知らないけど、ミサキはマリアをあの嫌な女呼ばわりして、嫌っている風だったから。
だったら、エアロ? あいつが俺の部屋に案内した?
「ウィンフィールド。一つだけ教えて? 私が誰だか、分かる? 覚えてる?」
寝起きにはしんどい質問だ。
だってマリアが何者か? そんなのマリアだろ。
学園の人気者にして『聖女様って、呼ばないで!』の主人公。職業『聖女見習い』の努力家で、在学中に職業『聖女』になることは確実されている女の子。
ゲームの中ではマリアを聖女様扱いするとマリアからの評価が下がるとか謎仕様があったけど、そんなの今はどうでもいい話だ。
マリアが誰かって? その質問は何故か、大事な気がした。
それに……ここでステータスの力を使ってはいけない気もする。
「お前が何者かって……」
だから俺はベッドから起き上がって、ベッドの縁に座りなおした。
目の前には青髪のマリア。手を伸ばせば、顔にも届く距離。
改めて見ると、やっぱり美貌はホーエルンの女子生徒とは比べられない。近くで見れば、男子連中がマリアに惚れる理由がよく分かる。
「そりゃあ……」
「ちなみにこの質問は、二度目」
「…………そうだったな」
記憶の底を探ると、確かに二度目だった。
俺はミサキに洗脳された状態でホーエルン魔法学園にやってきた。
色も感じられない空虚な世界の中で、初対面のマリアからその質問をされた記憶があった。あの時は確か……俺はお前なんか知らないと言って……こいつがひどく悲しそうな顔をしていたっけ。そして、そこからマリアからの絡みは始まったんだ。
学園入学当初から有名人だったマリア。
誰もがお近づきになりたいマリアに絡まれる俺。
男子連中からの虐めが始まるのは、当たり前の話だった。
じっと、見つめる。
マリア・ニュートラル。質問の意図は、何だ。
「……十分。もういい」
マリアは寂しげにそう言うと、椅子から立ち上がる。壁に立てかけていた長杖を持って、部屋から出ていこうとする。俺はその背中を見送りながら――。
不意に、口から言葉が零れた。本当に、無意識だった。
「お前……まさか、溺れてたアマリア――?」
——部屋から出ていこうとしたマリアが止まる。
「……いや、何でもない。何で、アマリアの名前が……今のは忘れてくれ。そんなこと、あり得るわけがないんだ」
硬直していたマリアの背中。
誰もが守りたいと思わせる華奢な肩、マリアのパーティメンバに入るために学園男子生徒数十人が薔薇を送ったなんて逸話もある。
そんな人気者が肩を震わせて、ゆっくりと振り返った。
目じりには涙が浮かんでいる。
いや、浮かぶってもんじゃない。ぽろぽろと、零れている。
「——遅いのよ! この、馬鹿ッ! なんで、気付かないわけ!」
そしてマリアは、ベッドの縁に座る俺に抱き着いてきた。
――――——―――――――———————
ミサキ「……ちょ! ちょっと! 何やってるのさ! ウィンから離れてッ!」
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